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01-04. 初めての外出と未知の乗り物

やってしまったな……。

首元で淡く光るチョーカーを指でなぞりながら、私は先日の失敗を省みた。

『竜体術』――竜の力を体現する、我が魔導の極致への入口。

その先に連なる『竜体魔法』を発動してこそが真価なのだが……。

結果は、意識を失い、大急ぎで医務室に担ぎ込まれるほどの大騒ぎ。

術の発動こそ成功したものの、幼い肉体はその負荷に耐えきれなかったのだ。

今はようやく、落ち着きを取り戻している。


主治医の見立てにより、私が魔法を扱ったことは露呈している。

不本意だが、貴族に雇われるだけあって、お抱えの医師はなかなか有能らしい。

報告を受けた両親は、驚きと不安が半々といった様子だ。

察するに、この時代でもまともな魔法を扱うには相応の素養と修練が必要なのだろう。

それをこの年齢で、しかも無自覚に――少なくとも周囲にそう思われているが――やってのけたのだから、動揺するのも無理はない。

「ミリーには魔法の才能があるようだね」

両親は表向きこそ褒めてはくれたものの、幼子ゆえに力の加減が分からないことへの危惧が明らかに見て取れた。


危険を鑑みて、魔法の使用は一切禁じられた。

さらに、不用意な暴発を防ぐため「魔法封じ」のチョーカーを嵌めることになったのだ。

「今の時代には、このような魔導具があるのか」

軽く調べた限り、思考による魔法の発動命令を首元で遮断するものだろう。

原理は至って単純であるが、これほど小型化した点は素晴らしい。

現代の魔導技術も、思ったより進んでいるのかもしれない。

とはいえ、所詮は子供だましの装飾品だ。

少し出力を上げれば容易に破壊できるだろう。

だが、今のところそんな真似をするつもりはない。

見た目も悪くないし、何より母と姉が私に似合うと選んでくれたものだからな。

そもそも、今また術を発動したところで、結果は見えている。

今の私には、まだこの力は早すぎるのだ。


昼下がり、私はリビングのソファに腰を下ろした。

そっと目を閉じ、意識を内側へと沈めていく。

体内に流れる魔力を捉え、静かに制御を試みた。

(どこか懐かしいな、この感覚は)

魔力を一点に凝縮させ、塊を作る。

それを細かく切り分け、破片にしてはぶつけ合わせ、小さな粒になるまで分解する。

さらに粘土細工のように捏ね上げ、形を変えては潰し、またつなぎ合わせる。

私式の基礎鍛錬法だ。

やはり何事も、地道な積み重ねが欠かせない。

魔法を発動するわけではないので、チョーカーも無反応だ。

しばらくはこうして内に秘めた力を手懐けることに専念しよう。

どうやらミリアリアの肉体は、私の想定よりも遥かに強大な魔力を秘めているようだ。

未熟な器と分不相応なほどの魔力。

この二つのバランスを正しく把握しなければ、また同じ轍を踏むことになりそうだ。


「ミリー、お待たせ」

弾むような声が届き、没頭していた意識がふっと現実に戻る。

目を開けると、そこには普段とは装いの異なるフェリシアが立っていた。

白のブラウスと黒のロングスカートを着こなし、その上に秋物のコートを羽織っている。

いかにも良家の子女らしい洗練された外行きの姿だった。

かくいう私も、今日は少しばかり洒落た服を着せられている。

フリルをあしらった白いブラウスに、私の瞳の色を映したようなジャンパードレスを重ねて。

胸元を飾る大きなシルクのリボンと、ウエストに光る控えめなバックルが、装いを端正に引き締めていた。

その仕上げに、姉とお揃いの意匠を凝らしたコートを纏っている。

少し背伸びしたような恰好なのは、姉が「これが一番可愛い」と自信満々に選んだ結果であった。

「寒くない?」

「はい、大丈夫です」

なぜ着飾る必要があるのか。

「準備は大丈夫ね。それじゃあ、行きましょ!」

そう、今日は待ちに待ったお出かけの日なのである。


今の私にとっては、これが初めての外出となる。

姉に優しく手を引かれながら離れの小屋へ向かうと、そこには使用人たちと、端正な装いでこちらを待つ兄の姿があった。

彼らが囲んでいたのは、いかにも貴族が乗りそうな屋根付き馬車の「客室」部分だった。

(遠出すると聞いているが、馬はどこに……?)

それに、馬車にしては車高がかなり低い。

窓から中を覗き込んでみると、前方には二つの座椅子が、後方にはゆったりとしたソファが備え付けられているのが確認できた。

「さあ、乗りましょう」

フェリシアに促されるまま中に入り、ソファの背もたれに身を沈める。

最後にリヒドが乗り込むと、内側から慣れた手付きで扉を閉めた。

「では、出発しますね」

前方に座った使用人が鍵のようなものを差し込むと、車体が不意に震えた。

「え、動いた……?」

馬もいないのに、客室部分だけが独りでに進み始める。

私の困惑を察したのか、フェリシアが不思議そうに小首を傾げた。

「あれ、ミリーは初めてじゃないよね?」

――そうだ、この「乗り物」は、確かにミリアリアの記憶にある。

「確か……クルマ、でしたっけ?」

「魔導車」が正式名称だったか。

馬車に代わる、魔力を動力源とした現代の移動手段だ。

操作を受け持つ使用人が船の舵のような環を回すとクルマは滑らかに左右へ自在に進路を変える。

え、なにそれ、すごい。

まるで、大空を旋回する竜の飛行のようだ。

それに、とにかく速い。

重い鉄の塊に五人も乗っているというのに、並の駿馬と遜色ない速度で駆け抜けていく。

私が呆気に取られている間に、見慣れた屋敷はあっという間に後方へと消え去った。

「驚いたか、ミリー。最新式だから、旧型よりも加速が良く、揺れも少ないぞ」

兄が少し得意げに語る言葉通り、乗り心地は最高だった。

窓の外を流れる景色を眺めていると、やがて建物が密集する一帯が見えてきた。

本日の目的地であり、この地域でも有数の商業地区だという。

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