↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜体魔導士の転生録 ―我が魔導の極致をこの時代に綴る―  作者: 加茂正路
エピソードⅡ ダンジョン&モンスター
PR
34/48

02-10. 魔導銃

パチ、パチ、と順序よく照明が点灯し、部屋の奥へと明かりが広がっていく。

アリサに案内されて足を踏み入れた地下室は、学院の魔法実技室によく似た構造をしていた。いわゆる室内射撃場(シューティングレンジ)と呼ばれる施設だ。


あちらより規模は小さいが、しっかりとしたパーティションで区切られた三つのレーンに、奥へと続く射撃空間と標的。そして、室内を見渡せば見慣れぬ機械や器具が所かしこに置かれており、どこか時代を先取りしたような雰囲気を漂わせていた。


「ここがそうなの?」

「そう、『魔導銃(まどうじゅう)』の射撃室だよ」


アリサの家族だけが使用する、完全なプライベートルームらしい。我が家の屋敷にある鍛錬室(たんれんしつ)のようなものだろう。


「置いている数は少ないんだけどね。でも、一通りのタイプは揃っているから大丈夫かな」


アリサは慣れた足取りで壁際のガラスケースへ歩み寄ると、鍵を開け、中に収められた魔導具を手に取った。


「はい、これが最新型のモデルだよ」


差し出されたそれを受け取る。手のひらに伝わる、ずしりとした金属の重み。学院で使用している杖型の魔導具よりも腕に負担がかかる。今の私の筋力だと、ずっと構え続けるのは難しそうだ。


「これが、『魔導銃』……」

「わたしも実物を手にするのは初めてですね」


ティアナと二人で、手触りや構造を確かめる。

無骨(ぶこつ)な金属の筒と、指をかけるトリガー。持ち手の底には平たい挿入口があり、そこに箱状のパーツをセットする仕組みだ。どうやらその箱の中に弾を詰め、下から装填(そうてん)して撃つらしい。

名前は知っている。『トライ・ワンズ』の試合でも、これを愛用している選手を何人も見た。

だが、こうして間近で観察し、じかに触れるのは初めてだった。


「腰に下げているだけでも、結構疲れそうな重さね」


思わず、心の声が口から零(こぼ)れ落ちた。

と同時に、「やばっ」と心の中で警報が鳴る。

案の定、アリサの耳がその呟(つぶや)きをしっかりと拾っていた。


「それでもかなり小型化された方なんだよ。弾丸の構造がシンプルになったおかげでね。ちょっと前まではリボルバー式が主流だったんだけど、今はマガジン式に置き換わってきたんだ。装填も簡単になったしメンテナンスも楽。……あっ、でもリボルバー式だって決して劣っているわけじゃなくてね! あっちは構造が単純な分、不発弾が出ても――」

「あ、うん、わかった。ありがと」


さらに熱を帯びて語り続けようとするアリサを、咄嗟(とっさ)に制した。

そのままにしておくと、深夜になってしまうからな。


「それじゃ、さっそく試射してみようか」


楽しそうなアリサを横目に、勧められた魔導銃の中から一つを手に取る。

飾り気はないものの、どこか洗練されたデザイン。これが、さっきアリサが熱弁していたリボルバー式というやつだろう。


魔導銃の扱い――これこそが、アリサが言っていた『お楽しみ』の正体だった。


チェルクリオへの移動中に「ミリーの武器って何?」と尋ねられ、「この拳だけど?」と返したら、「クラブ活動じゃないんだから、危ないに決まっているでしょ!」とお説教されたのだ。まあ、普通に考えればそうだよな。

私としては己の拳で十分なのだが、今回はアリサたちも同行する。あまり派手な真似をして怪しまれるわけにもいかない以上、ここは素直に従っておくのが無難だろう。


(それに、この魔導銃という代物には、純粋に興味があるからな)


シューティングレーンの前に立つ。

シリンダーを開け、ややもたつきながらも一発ずつ弾を込め、カチャンと元に戻した。

銃を構え、親指でハンマーをカチリと起こし、トリガーを――引く。


タンッ、と意外なほど軽い音とともに、魔力から変換された魔法が発射される。

内部構造は詳しく理解していない。

だが、要するに銃本体に設定された術式が弾に伝達し、内部の魔力に反応して魔法が発動する、といった流れだ。

まっすぐに飛び出したそれは、狙い通り標的へ――向かうことなく、外れた。


「むぅ……」

「授業で使っている魔導杖(まどうじょう)とは、少し勝手が違うからね」


そう言って、アリサが隣で銃を構えて撃つ。

放たれた球状の魔法は、標的のど真ん中に命中し、周囲の空気に溶け込むように消えていった。

魔法実技の授業でトップクラスの成績なのは、普段からこうして魔導具に慣れ親しんでいるからだろう。


(ただの魔導具マニアというわけではなかったのか……)


ふと隣を見ると、ティアナが真剣な表情で試射をしていた。

私と同じように慣れない手つきではあるものの、何発かは見事に命中させている。……運動神経の差だろうか。


「教えてあげる。まずは構え方から。――肘は突っ張らないで、軽くゆとりを持たせて」

「こう?」

「そう。あとは、反対の手で包み込むように握るの。片目を閉じないで、両目でちゃんと狙いを定めて……うん、もう少し上かな」


アリサの指示通りに構え直し、トリガーを引く。

今度は標的に当たった。

だが、かろうじて端をかすった程度だ。撃った瞬間の反動で、体がわずかにブレてしまったのだ。


「思ったより難しいのね……」

「何事も練習あるのみだよ」


トライ・ワンズの試合では、選手たちが連射どころか視線すら向けずに相手を正確に捉えていた。なんなら二丁持ちでカッコイイポーズを決めながら撃っている輩もいたほどだ。


(ただのパフォーマンスではなく、確かな技術があってこその芸当か)


彼らがどれほどの鍛錬を積んでいるのか、自分で試してみて初めてよく理解できる。


「(ふぅ……やはり重いのが難点ね)」


次第に腕がプルプルと震え、狙いが定まらなくなってきた。

キリのいい時間になったところで、試射は終了となった。


「どうだった?」

「そうね。なかなか面白い武器だと思うわ」

「はい、貴重な経験になりました」


それにしても、今の時代の魔導具には驚かされるばかりだ。

通常の魔導具と違い、この魔導銃は使用するにあたって自身の魔力をまったく消費しない。あらかじめ弾丸に魔力が込められており、発射と同時に魔法が発動する仕組みなのだ。

ダンジョン探索のような長時間の行動には、確かにうってつけと言える。


「ねえ、これって私たちが扱ってもいいものなの?」


誰でも簡単に使える代物だからこそ、相応の規制はあるはずだ。

今回の試射こそ低威力の魔法で済んでいたが、本来はもっと強力な術式が組み込まれているはずなのだから。


「ダンジョン探索の申請と一緒に、ちゃんと許可を取ってあるから大丈夫だよ」


なるほど、用意周到というわけか。


「ミリーにはロンバル社製のがオススメかな。小型で、かつリボルバー式。シンプルで一番扱いやすいタイプだね」

「ありがとう。せっかくだから、存分に使わせてもらうわ」


手渡されたのは、試射で使ったのと同じリボルバー式だが、一回り小さく私の手にもしっくりと馴染むモデルだった。


「ティアナには……必要なさそうだけど、テストも兼ねて携帯してほしいかも。『コダチM30』かな」

「ありがとうございます」


おや、随分と小型だな。

そっちの方が軽くて持ちやすそうである。


「私には向いてないの?」

「護身用だから、術式が一つしか設定できないんだよね。それにちょっと軽すぎるかな。反動でブレが大きくなりやすいから、ミリーには難しいかも」


なるほど、小さければいいというわけでもないのか。

ドーナツの揚げ方はドーナツ屋に。素人の印象よりも専門家の意見が大事だな。


「アリサはどれを持っていくの?」

「私はこれ! 自作の魔導銃」


自作!?

すらりと伸びた白銀の銃身に、しっかりと噛み合った金属パーツ。シリンダーの位置が少し変わっていて、そこが自作ならではの工夫なのだろう。

見せられたそれは、他の銃と遜色(そんしょく)ない完成度をしていた。


「とはいっても、まだまだ子供の玩具(おもちゃ)レベルだけどね」


謙遜(けんそん)しながらも、その表情はどこか得意げだった。

魔導銃まで作れてしまう貴族の令嬢とは……。

アリサがすごいのか、この時代の貴族の子女ならこれくらいできて当然なのか。自分の常識を少しアップデートさせないといけないかもしれない。


さて、必要なものも揃ったことだし、明日が楽しみだ。


「ふふん、この魔導銃で竜種のモンスターなんかも倒してしまうかもしれないわね」

「あ、使用できる術式は低威力のタイプだけだからね?」

「……」


あ、うん、はい。

そんなことだろうとは思っていたよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。