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01-19. 『竜の巨撃』

さて、竜もどき。いざ尋常に勝負といこうではないか。

時代を超えた魔導の邂逅、存分に味わおうぞ。


「ミリー様、危険です! お下がりに――」

「『竜体術』――二〇パーセント」

「――っ!?」


私の発した魔力に、止めようとしたティアナが言葉を失う。

今の彼女なら、より私の立ち位置、己が目指す高みを理解できるはずだ。

生物の頂点、その五分の一とて、並みの魔導士では到達できはしない。

(ようやくここまで安定して竜体術を出力できるようになったな)

だが、ここはまだ極致の入り口に過ぎない。

師として、その真髄を垣間見せてやるとしよう。


「お、おい、その魔力は……」


ヒューゴの言葉を無視して、私はさらに魔導機兵へと歩を進める。

悪いが、詳しく説明している時ではない。

さすがの私とて、今は滾る闘志を抑えられそうにないのだから。


「な、なんだ、いったい!?」


余裕の表情だったゴードンが、私の身体から立ち上る魔力の波動を見て顔をこわばらせる。

仮にも教会の司教、それなりに魔術の心得はあるということか。


「何を隠していようと無駄だ! さっさと観念しろ!!」


強い言葉を吐きながらも、その腰は完全に引けていた。


「さあ、竜の力がどの程度のものであったか、見せてあげるわ」


私は機兵に向かって手招きする。

意思があるのかどうかはわからないが――せめてもの情けだ、先手は譲ってやる。


『オ、』

「ん?」

『オオオ、オアアアァァ!!』


突然、機兵が咆哮を発した。

いや、声帯があるわけではない。機械駆動のきしみと金属の摩擦音が、そう聞こえさせているのだろう。

硬く噛み合わさっていた顎の部分がバキリと開き、凶暴な口を覗かせる。

まるで獲物を前にした獣だ。

私の力を前にして、その身体に含まれている竜の残滓が呼応でもしたのか。

ははっ、面白い。


「な、なんだ!? そのような動きは、マニュアルには書いてなかったぞ?」


イレギュラーな事態に、停止させようとゴードンが腕輪を乱暴に操作するが、機兵は命令を無視して人が歩くように脚部を踏み出す。


「おい、やめろ、止まれ! そいつを攻撃しては――ぶっ!?」


邪魔な羽虫を払うように、機兵は所有者を容赦なくぶん殴った。

太った体は派手に弾き飛ばされ、床を跳ねて転がる。

見たところ……うん、ちゃんと生きているな。


『ガ、ガアアアアアア!』


機兵の全身から、魔力が生成されていくのを感じる。

体中に赤い光のラインが駆け抜け、四肢へと収束していった。


「準備は終わったかしら?」

『…………オッ!!』


刹那、機兵は――跳躍した。

自身の全高を超える高さまで達しながら、魔導列車さながらの速度へと加速する。

機械の獣は空中で右腕を構え、落下の勢いとともに質量の塊を浴びせんと迫り来る。


「ミリー様!!」

「逃げろ!!」


二人が叫ぶが、私は避けるつもりなど微塵もない。

竜が、たかが人より少し大きい程度の造物の児戯に、わざわざ体をずらすなどあり得ない。

真正面から受けて立つ。

刮目しろ、これが我が魔導の極致の一つ。


「竜体魔法、二の型――『竜の剛鎧(ごうがい)』」


瞬間、機兵の巨腕が寸分違わず私の顔面へと叩き込まれる。

激しい衝突。余波が周囲の木屑を吹き飛ばし、轟音が美しいステンドグラスにひびを入れた。

――のだが。


「まあまあの威力ね」


その破壊の有様とは裏腹に、私の衣服には汚れ一つ付いておらず、小さな身体は元の位置から一ミリも動いていない。

これが竜体魔法――竜そのものを体現する術だ。

竜の鱗は鉄より硬し。その肉体に傷など容易につけられるものか。


『ゴ、ガアアアゥ……!?』


機兵が右腕を抑えながら、その巨躯を後退させた。


「あら、そっちが怪我しちゃったの? 意外ともろいのね」


所詮は混ざりもの、ということか。


「それじゃあ、次はこっちの番よ」


その身に刻みなさい、竜の力を。

私は左手を握りしめ、込めた魔力を極限まで圧縮する。


「竜体魔法、一の型――『竜の巨撃(きょげき)』」


拳を一気に、眼前の大きな的へと叩き込んだ。

機兵は素早く両腕を交差させて防御したが、無駄だ。

触れた瞬間、圧縮した魔力が弾け、巨体を後方へと吹き飛ばす。

鉄の塊は一直線の軌跡を描き――宙に飾られた竜の彫像を粉砕、そのまま祭壇の奥の壁へと激突した。


「まずまずの威力ね」


竜の巨腕はすべてを破壊する。耐えられるのは同じ竜のみだ。

とはいえ、所詮は二〇パーセントの出力。

それに、この現世の身体で使用するのは初めてで、まだ使い慣れていない。

次はもう少しまともな一撃が放てるはずだ。

さあ、現代の魔導人形よ、立ち上がってこい。


……。

……。


え?

あれ、おーい、機兵。早くしろー!


……。


「え?」


うそ、うそうそ、まさか一発で終わり!?

まさか死んだふりなんて、冗談じゃないだろうな。

私は原型を留めていない祭壇であった場所まで駆け足で近づく。

そこには両腕が砕け、胴が半壊して内部の構造が剥き出しとなった機兵の残骸が転がっていた。

えー……。


「これが、ミリー様のお力……」

「うそ、だろ。おい……」


驚愕を露わにするティアナとヒューゴに対して、私のテンションは地の底まで落ちていた。

はぁ、何だよこれ。

メインディッシュに極上の肉の塊が来たと思ったら、骨だらけだった、みたいなガッカリ感だ。

思わずその場でふらついてしまう。


「ミ、ミリー様、お体は……!」


心配してか、ティアナが駆け寄り、私の身体を支えてくれる。

体調は万全だが、精神はダメそうだ。


「……大丈夫よ、これくらい大したことはないわ」

「うそ、だろ……」


先ほどから同じことしか言わなくなったヒューゴは、完全に現実を受け止めきれていない様子だった。


さて、と。終わったな。

これからどうするか。

私は周囲を改めて確認した。

床は粉々、柱はぼろぼろ、機兵はばらばら、ゴードンは……うん、生きているか。

よし!


「帰ろうかしら」

「いや、この状況を放置して帰るのか!?」


混乱から復帰したヒューゴが当然の意見を述べてきた。

気持ちは分かるが、もう無理なのだ。


「だって、時間なのだもの」

「時間?」


そう――。


「就寝時間よ」

「うそ、だろ……」

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