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01-18. 魔導機兵

「ははは! いい気になるなよ!」


ゴードンが再び右手の腕輪に魔力を込めた。

すると突然、一段高くなっている祭壇が真ん中から左右へとスライドしていく。

教会全体を揺らす重低音とともに、地下の暗がりから何かがせり上がってきた。


「何だ、あれは……?」


ヒューゴが険しい表情で呟く。

そこに現れたのは、三メートルに及ぶ巨躯を持つ、人型の機械だった。

やや丸みを帯びた輪郭は、漆黒の甲冑のような金属質の外装によって形作られている。

所々に禍々しい棘が生えており、不気味で生物的な威圧感を放っていた。

(だが、そんなことより――)

何より特徴的なのはその頭部だ。

強靭な顎に、鋭いギザギザの歯、左右から突き出た短い角。

その形状はまさに、竜の頭蓋骨だった。


「あれは……魔導人形(ゴーレム)?」


人間と比べると、胴体が大きく手足は短い、ずんぐりむっくりとした形状。

その立ち姿は、私の前世の記憶の底に埋まっていた、魔術の産物を思い起こさせた。


「ゴーレムだと? そんな古めかしいものではない。これは『魔導機兵』だ!」

「魔導の……機兵?」

「正式名称は『魔導機兵プロトタイプ-Bk.26』。どうだ、見たことなどあるまい!」


(え? プロトタイプ、ビーの、にー……なんだって?)

まるで自慢の玩具をお披露目するように、ゴードンが得意げに能書きを垂れる。

その勝ち誇った顔に同調したのか、魔導機兵と呼ばれた鉄塊の眼窩が不気味に赤く発光し、重々しい駆動音を響かせて動き出した。


「さあ、まずは裏切り者から始末しろ!」


機兵の全身に血が巡ったかのように、魔力の光条が一瞬だけ奔る。

背中にある複雑な排熱管から、高圧の蒸気さながらに濃密な魔力の粒子が噴き出した。


「ミリー様!」


ティアナに身体を引かれ、私はその場から退避する。

直後、機兵は整然と並んだ長椅子をことごとく木屑に変えながら突っ込んできた。

その巨腕が、私たち……いや、ヒューゴがいた場所に振り下ろされ、磨き上げられた床を派手に粉砕し、瓦礫を巻き上げた。


「くっ! なんて代物を隠し持っていたんだ……!」


ヒューゴが長棍を叩きつけて反撃したが、甲高い金属音を響かせるだけで、黒色の外装は傷一つ付かない。

動く鉄塊はその衝撃をまったく意に介さず、ただ機械的に、容赦のない攻勢を開始した。


「ティアナ、手伝ってあげなさい」

「しかし、それではミリー様が……」

「ゴードンの目的は私よ。だから、私が狙われることはないわ」

「――わかりました」


ヒューゴをここまで巻き込んでしまったのは、私にも責任がある。

さすがに彼にもしものことがあれば、寝覚めが悪い。

いざとなれば私がどうにかすればいいことではあるが……まだ早い。

(二人がどこまで戦えるか、申し訳ないけど見させてもらおうか)

ティアナは剣を構え、素早く間合いを詰めると大きく跳躍した。


「ミセン流、秘技――『月落とし』!」


空中で一回転すると同時に、強烈な一撃を機兵の頭部へと繰り出す。

だが、まるで後ろにも目があるかのように、機兵は背を向けたまま片腕を回し、ティアナの刃を受け止めた。


「くっ、硬い……!」


その装甲にわずかに刃が食い込んだものの、駆動への影響はまったく見られない。


「ははっ、そんな攻撃が通用するか! この機兵の外装には、竜の骨を混ぜた特殊な金属が使われているのだ。衝撃も、魔法も、すべてを無に帰すぞ!」


竜の骨だって!?

おお、いいね。どれほどの硬さなのか、私の拳で試してみたいものだ。

だが同時に、妙な違和感が胸の奥をチクチクと刺す。なんだ、このもやもやするものは……?


「くそ、だったら……!」


次に動いたのはヒューゴだった。

機兵を無視し、指示を出しているゴードンへと接近を試みる。


「無駄だ!」


しかし、機械の兵士は信じがたい俊敏さでゴードンの前へと滑り込んできた。

足部に仕込まれた車輪が床の上で鮮やかな旋回移動を実現させる。

立ち塞がった機兵は、そのままヒューゴへ向けて重い拳を突き出した。


「ぐっ、うあッ!」


長棍で防ぎ、どうにか直撃こそ避けたものの、ヒューゴの身体は軽々と吹き飛ばされた。

白亜の柱に衝突し、深い亀裂を入れる。

さっきから教会を無慈悲に破壊しているが、大丈夫なのだろうか?

このままだと、明日は臨時休業になりそうだな。


「さあ、次はそっちの邪魔な方だ」

「く……!」


機兵が攻撃対象をティアナへと切り替えた。

ティアナは身体強化魔法を駆使して立ち向かうが、有効打を与えられないどころか、機兵の人間とも魔物とも違う独特な動きに翻弄されてしまっている。

さらに連戦が影響しているのか、竜体術を繰り出す余裕すらないようだ。

体力も精神も疲弊している今の彼女では、術を使用するだけの集中力を確保できないと見られる。

どうにか戦闘に復帰したヒューゴとともに、二人がかりで機兵の隙を作ろうと足掻く。

だが、装甲の表面に細かな傷を刻むのが精一杯で、無限に続くかのような敵の理不尽な攻めに徐々に追い詰められていった。

ここまでか。

さすがに限界が近いのだろう。ティアナもヒューゴも、その動きから明らかなキレが失われつつあった。


「ティアナ、もういいわ」


間合いが開いたタイミングで、私は肩で息をする二人へ静止を促す。


「ミリー様……っ」

「ヒューゴも、これ以上の戦闘は無理のようね」

「ぐ、だが……」


魔導機兵、なかなかの強さだ。

この二人を相手にここまで一方的な戦闘を行うとは、正直見事と言うほかない。

だが――どうしても、許せないことがある。


「ははっ、ついに観念したか。せめてもの情けだ。主の御許で、苦しみのない最期を迎えさせてやろう」


ゴードンが悦に入って何やら囀っているが、今の私にとってはただの雑音でしかなかった。

そう、ようやくわかった。さっきから私をイライラさせていた、この「もやもや」の正体が。


「リスペクトが足りないのよね」


「え?」「な?」「はっ?」


ティアナもヒューゴも、勝ちを確信していたゴードンも、揃って呆気に取られた声をあげる。

ん? 何か可笑しなこと言ったかな。

まあ、いいか。

全員が私の話に耳を傾けているのなら、好都合だ。


「竜の骨なんて大層なものを使っているくせに、なんかデザインがださいのよね。どうせなら、もっと前面に『竜』を出しなさいよ。鱗もなければ尻尾もない。爪もなければ翼もないじゃない。それに、動きはいいけれど拳で殴るだけ? 魔法を使用したり、宙を自由に舞うことすらできないわけ? せめて口から火を吐くぐらいはできてほしいのだけど」


私の言葉に圧倒されているのか、三人は完全に言葉を失っていた。

誰も何も言えず、教会の中に奇妙な静寂が流れる。


「……ミ、ミリー様、さすがの観察眼です!」

「いや、そんなことを言っている場合じゃないだろ?」

「何をわけの分からないことを!」


あれ、ティアナはともかく、他の二人は思っていたのと違う反応だな。

まあ、無理もない。この時代には生きた竜は存在していないのだ。

(私のように、あの気高き存在へ憧れを抱くことなどできないのだろう)

ならば――せめて本物の強さというものを、ここでしっかりと教えてやらねばなるまい。


私は一歩、静かに前へと踏み出す。


「曲がりなりにも竜を元にしているのなら――私が相手をしてあげるわ」

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