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01-02. 新たな目覚め

身体が……熱い。


まるで流れる血がマグマに置き換わったかのような錯覚。

内側から発せられる圧倒的な熱量に視界は白く染まり、思考は焼き切れそうだった。

一体、私の身に何が起きている。

燃え盛る太陽の傍にいるわけではない。

この熱源は、間違いなく私の内奥に存在している。

外傷か?……いや、違う。

病魔か?……それも、違う。

狂いそうな苦痛の中で、私はこの「生命力にも似た奔流」の正体に心当たりがあった。


そうだ、これは魔力の熱だ。


肉体が受け入れられる許容量を超えた魔力が、制御を失って全身を駆け巡っているのだ。

逃げ場を失った力は熱を帯び、内側から私という存在を焼き尽くし、崩壊させようとしている。


なぜ、こんなことに……?


疑問を呈している暇はない。

死の足音を感じながら、私は必死に意識を研ぎ澄ませた。

落ち着け、この荒れ狂う奔流を御す手順なら、私は――なぜか、知っている。


……。


どれほどの時間が過ぎただろうか。

永遠にも思える――実際には数分にも満たなかったと思うが――精神的な格闘の末、ようやく熱が引き始めた。

暴走していた魔力の濁流を御し、穏やかな流れへと変えていく。

それは私にとって、呼吸をすることよりも容易で、本能に刻み込まれた作業のようだった。


ようやく、思考を巡らせるだけの余裕が生まれた。

それと同時に、ふと疑問が脳裏に浮かぶ。


なぜ私は、これほどの技術を『熟知』しているのだ?


そもそも、私は――いったい誰だ。


熱の退潮とともに、霞んでいた視界がゆっくりと焦点を結び始める。

耳が微かな衣擦れの音を拾い、肌が周囲の空気の揺らぎを感じ取る。

じっとりと汗を吸い込んでもなお、さらりと肌に心地よい絹の衣。

背中に伝わるのは、沈み込むような上質なベッドの感触。

意識が徐々に、現実の「肉体」へと融合していった。


ふと、自分の左手を顔の前にかざしてみた。


――?


視界に入ったのは、あまりに小さく、頼りない「子供」の手だった。

拳を打ち付けたこともなく、剣も握ったことがないような、枝のように細い腕。

わずかに思い出せる記憶と、実際の身体とのあまりの乖離に、戸惑いを隠せない。


状況を把握しなければ、寝ているだけでは何も解決しない。

私は上体を起こして辺りを見回そうとして――すぐに諦めた。

気だるさの残る身体では、首を左右に傾けることしかできなかった。


窓からは柔らかな陽光が差し込み、贅沢なほどに広い部屋を照らしている。

配置された木製の家具や繊細な意匠の調度品は、ここがかなりの富裕層、あるいは貴族の邸宅であることを雄弁に物語っていた。


まったく身に覚えのない景色にどうしたものかと悩んでいると、控えめなノックの音が静まり返った部屋に響いた。

扉が開き、一人の人物が中へと入ってくる。


「お嬢様、お水をお持ちしましたよ。少しは気分は良くなったでしょうか……」


家族か、あるいは使用人だろうか。

彼女は手にしていた水差しを枕元の小机へと置くと、横たわる私の身体を慣れた手つきで優しく抱き起こした。

そして、私の顔を見た瞬間、彼女の顔に動揺が浮かんだ。


「あれ……お嬢様、お顔の『鱗』が……?」


鱗?


彼女は「失礼します」と戸惑った声で一言断りを入れると、確認するかのように私の着衣をわずかにずらし、肌を検め始めた。

まるで、そこにあるはずの「何か」を探すように。


「えっ……そんな、どうして……!?」


彼女は呆然と立ち尽くし、信じられないものを見るような眼差しを私に注いだ。

すると突然、脱兎のごとく部屋を飛び出していったのだ。

廊下からは、悲鳴に近い絶叫が響き渡る。


「奥様! 奥様、大変です! お嬢様の……お嬢様のお体が、元に戻って……!」


あまりの慌ただしさに、私はわずかに眉根を寄せた。

ただ、暴走していた魔力を鎮めた結果として、何らかの副次的な影響が出たことだけは察しがついた。

鏡で自分の姿を確認したいところだが、それよりも優先すべき切実な要求があった。


私は、小机に残された水差しを震える手でどうにか掴み取ると、行儀が悪いと思いつつも直接口を付けた。


ひどく、喉が渇いていた。

……ふむ、うまい。


冷たい水が喉を通り、空っぽの胃に落ちていく。

階下から聞こえてくる慌ただしい足音の群れを耳にしながら、私はその心地よい刺激をしばし満喫することにした。

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