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01-15. 放課後の語らいと週末の予定

冬の短期休暇が終わり、再び学院の寮に戻ってきた。

久しぶりに、領地の本邸でのんびりと過ごすことができたな。

さて、学院での生活にもだいぶ馴染んできたこの頃。

授業やクラブ活動に明け暮れる日々にも、ようやく少しの余白を持たせることが可能になってきたわけだ。

ゆえに、私の今世での野望に関しても、さらに進めていきたい所存である。


「この紙が魔導具なの?」


興味深げに、アリサが一枚の紙をひらひらと表裏に反転させながら確認する。


「そうよ。必要な素材が揃ったから、試しに作ってみたの。ぜひ率直な感想を聞かせてほしいわ」

「紙の魔導具とは、これまた古風ね」


放課後、本日はクラブ活動を休みにして、隣室のアリサとラフィの部屋で紅茶を嗜みつつ、自作した魔導具の披露を行っていた。

学友とのひと時も大事だし、魔導具クラブに所属するアリサの意見を聞いてみたかったのだ。

さて、そもそもなぜ私が魔導具を作ったかといえば、我が野望である「竜体魔法」を後世へ伝承するためである。

その手段の一つとして、魔導の知識を言語化して、魔導書の形に落とし込もうと考えたわけだ。

ティアナには直接指導できているが、もし人数が増えれば全員に手をかけるわけにはいかなくなる。

後々のことを考えれば、やはり書物などの形に残す必要があるだろう。

文字の情報だけでどこまで竜体魔法を扱えるようになるものか、実験しておきたいという意図もある。

それに口伝では内容が曖昧になりがちだし、変な我流をブレンドされてしまっては堪ったものではないからな。

とはいえ、真面目に紙とインクで書物にするつもりは、今のところ毛頭ない。

そんな無防備な形で、私の知識を流出させるわけにはいかないからな。

技術を教授する相手は、私の目にかなった者だけに留めたい。


「アリサの魔力を登録してみたから、魔力を流して触れてみれば内容を読み取れるはずよ」

「本当に? どれどれ……」


私の説明を聞きながら、アリサはそっと手に魔力を込めて紙をなぞる。


「うわ、本当に読める。なるほど、点字の要領なのね……」


アリサの茜色の瞳が、驚きに大きく見開かれる。

これこそが、前世の知識をもとに私が作った魔導具だ。

紙には一見何も書かれていないが、魔力を通して触れることで、文字の形を指先で知覚できるようになっている。

魔力の波長は人によって千差万別だ。指紋や虹彩と同じようにな。

ちなみに、魔力を流せば何かを感じ取ること自体は誰にでもできる。

だが、波長が適合しないと、正確な文章を読み取ることはできない仕様となっている。

相当に魔力の制御が上手くない限り、登録された人物以外には意味不明な文字の羅列にしか感じられないはずだ。

もしこれを強引に読み解ける者がいるとすれば、その人物は竜体魔法など必要としないほど、自身の魔導を極めていることだろう。

――ならば、そんな領域の化け物にまで対策を講じる必要はあるまい。


「すごいね、ミリー。随分とアナログな仕組みだけど……わたしはほとんど機械工作の魔導具しか作ったことないから、とても新鮮に感じるわ。逆にこういうの、どういう原理なのか全然分からないかも、アナログ過ぎて」

「ふふん、もっと褒めてくれてもいいのよ。……って、本当に褒めてる?」


私の指摘に、アリサが「あはは……」とごまかすような笑みを浮かべる。


「なになに、何か面白いものでもあったぁ?」


クラブ活動が終わったのか、部屋主のもう一人が帰ってきた。

いつもの気だるげな雰囲気で、ラフィがほとんど中身の入っていない薄い鞄を置いて私たちの輪に加わる。


「ミリーが面白いものを作ったんだよ」

「へぇ、魔導具なのかな? 今どきこういったものはレトロな感じがして、逆にいいよねぇ」


ラフィはアリサから私の魔導具を受け取ると、紙に顔をくっつけんばかりに近づけて、しばし見つめた。


「本当に面白いものを作ったんだね。何かが書かれているけど……読み手を選べるってやつかぁ」


え、今ので分かったの?

ふむ、パッと見で仕組みを見抜かれてしまうとはな。

まあ試作品だし、私の作り込みもまだまだということか。


「でも、似たようなものは世の中にあるでしょ? ラフィなら知っているのではないかしら」

「あるにはあるけど、ミリーちゃんの手元にある素材だけで作るとなると、結構大変じゃないかなぁ」


なるほど、それはそうかもしれない。

製作中、材料を見たティアナが終始胡乱な顔をしていたからな。

とはいえ、これはまだ実験段階に過ぎない。

長期保存ができないため、時間が経つと文字が読み取りづらくなってしまうのだ。

だが、現在の私のお小遣いと行動範囲では、なかなか上質な魔導素材は手に入らない。

まあ、これも時間をかけてゆっくり、だな。


「もう、ミリーも魔導具クラブに入ればいいのに。ティアナもそう思うでしょう?」

「さすがのミリー様でも、三つの掛け持ちは難しいかと思われます」

「二つでさえ面倒なのに、三つとか私じゃ無理だねぇ」


やる気がないわけではないのだが、時間というリソースは限られている。

せめてもう少し夜更かしができれば――いや、これは諦めよう。


「ラフィは、チェスクラブはどうなのかしら?」

「ぼちぼちだよ。入学当時から在籍しているけど、定石とか覚えるの大変なんだよねぇ」


王女様はどこから取り出したのか、くるくると白のクイーンを手の中で器用に回す。


「真面目にやりなさい。大会もあるんだから、代表に選ばれるように頑張らないと」

「無理無理~」

「チェスにも大会があるのね、面白そうだわ」


賑やかな語らいの時間は過ぎていき――そして本日は、待ちに待った週末だ。

私とティアナはこれから、王都の別邸に泊まる予定になっている。

別邸にはトレーニングルームがあり、人目を忍んで竜体術の訓練をするには丁度よい場所なのだ。

ティアナの修行も魔力の制御から、徐々に実際の竜体術の発動へと段階が進んでいる。

しかし、今回の滞在には、また別の目的もあった。


「ティアナ。予定通り、明日の夜、こちらから仕掛けるわ」

「本当に決行されるのですか? さすがに危険が大きすぎるかと……」

「大丈夫よ。今のあなたなら、十分過ぎるほど戦えるはずだから」

「……分かりました。ミリー様のご意志とあれば、覚悟を持って臨ませていただきます」

「あ、いや……そこまで身構えなくてもいいのだけど……」


何をするのかって?

ここ最近、外出中に何者かからの視線を感じるのだ。

まあ、十中八九、アルド教絡みであろう。

どう振り返ってみても、あの教会でのやり取りがあってからのことだからな。

今のところ私に実害はないが、このまま放置するのもいささか面倒だ。

だから、あえてこちらから動くことにした。

学院の寮より、別邸の方が夜中こっそり抜け出すのが簡単だからな。

ふふ、準備は万端。

さて、どこまで私を楽しませてくれるかな。

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