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01-13. 音楽クラブと演奏会

そろそろ冬の訪れを感じる季節。

ついに私も年齢が二桁になった。

さりとて、何かが急に変化するわけでもない。

就寝時間は相変わらずだし、起床する時間もなぜか相変わらずなのだ。

今年の誕生日は、例年通り屋敷で家族と穏やかに過ごせただけでなく、ティアナや学友たちから温かい祝いの言葉を受け取った。

学院の食堂でのささやかなパーティで、王都の有名ドーナツ店の季節限定商品を皆で口にしたのはつい先日のことだ。

あの甘酸っぱいラズベリーの味は、まだこの舌がはっきりと覚えている。

そして年末といえば、やはりイベントが続く。


「演奏会ですか?」

「そっ、教会のチャリティーイベントがあってね。そこで演奏することになったの」


今日は音楽クラブの日だ。

主に芸術系のクラブが集まるクラブハウス棟の一室。

メンバーがあらかた揃ったところで、クラブ長が演奏会への参加を発表した。

場所は学院からほど近い教会。

チャリティーイベントと称して、フリーマーケットなどの催し物が開かれるようだ。

その教会には養護院が併設されており、身寄りがないなど、様々な理由で親元から離れることになった子供を預かっているという。

イベントを通して、そこへの寄付金を募る趣旨らしい。


「時間的に演奏できるのは三曲まで。教会のイベントだから、そのうち二曲は聖歌にするつもりよ。残り一曲は、流行りの曲でいくか、なんならオリジナルでもいいわね。みんな希望はあるかしら?」


この音楽クラブのメンバーは全部で七人。

オーケストラのような大規模な演奏は当然できない。

その代わり、少人数ゆえ個々の意見や希望が通りやすいのがメリットである。

クラブの方針としては、自由気まま、伝統的な楽曲から流行りの曲まで何でもあり。

であるなら、ここはオリジナル一択だ。


「おっ、ミリアリアは何かあるの?」


私がピアノの鍵盤に指を置き、頭の中でリズムを思い出していると、クラブ長が興味津々な顔で近づいてきた。

人当たりの良い彼女は、私たちに対していつもフランクに接してくる。

この学院では、身分による生徒同士の上下関係は持ち込ませない方針だからだ。

相手への礼節を欠くことがなければ、領主の娘であろうと、たとえ王女であろうと、皆平等である。


「そうですね、このような曲はいかがでしょう?」


私は迷いなく両手の指を動かす。

前世の世界にも、街角や酒場で親しまれる音楽はあった。

吟遊詩人が物語を語りながら、簡素な弦楽器や打楽器を奏でるような、そんな素朴な文化だ。

(時代や人の価値観は変わっても、音楽の心地よさは不変なのだな)

音を記憶する魔導具で、お気に入りの曲を日々聴いていたあの頃。

その中の一曲を、いま、ここで奏でる。


「どうでしょうか」

「うーん、割とシンプルというか古風な印象ね。曲名はあるの?」

「『廃城と青き竜』です」

「……悪くはないわ。でも、チャリティーイベントで演奏するには、悲壮感が強過ぎないかしら」

「なるほど……」


確かにその通りだ。

この曲は家族との別離をテーマにした、物語仕立ての構成になっている。

それを養護院の子供たちに聴かせるのは……うん、やめておこう。


「では、こちらは?」


気を取り直して、もう一曲。

アップテンポで、次々と転調を繰り返す複雑な旋律。

これは、私の経験談を元に作曲してもらった特別な曲だ。

天を突く山の頂で、風を操る竜と相まみえた、あの激しい死闘を思い出す。


「どうでしょうか?」

「うん、こちらも古風な感じね。メロディーの中に、それこそ命が尽きる瞬間まで抗い続けるような、凄烈な覚悟を感じ取れるわ。曲名は何かしら?」

「『風の竜と最後の雷』です」

「……悪くはないけど、どうして『竜』ばかりなの?」

「なるほど……」


ダメ?

結局、イベントまでの残り時間で練習するには難しすぎる、という理由で却下されてしまった。

確かに、絶体絶命のさらに先を行くような激闘の記憶だ。

あの死線を経験していない者に、この曲を真の意味で表現しろというのは酷というものだな。

――ん? なら私以外には絶対演奏できないのでは?

最終的に、三曲目は最近の流行りの中から選ばれることになった。

次の機会があれば、是非とも竜に関する曲を弾きたいものだ。

そのためには事前の周知と根回しが必要か。音楽活動にも政治力が求められるのだな。

さっそく選出された曲を軽く全員で合わせてみることになった。

指揮はクラブ長が執り、残りのメンバーは各々が得意な楽器を奏でる。

皆それなりの腕前ということもあり、数回演奏しただけで早くもある程度の形になった。


「それじゃあ、今日はここまでかしら。本番までに何度か合わせたいから、イベントの日まではなるべくクラブハウスに集まるようにして頂戴ね。以上!」


ふむ、見苦しい演奏はできないな。

少しこちらの活動にも積極的に取り組むこととしよう。


「演奏会までは音楽クラブの方に専念した方が良さそうね。ティアナもヴァイオリン、頑張って頂戴」


それにしても、人前での演奏か。

今までせいぜい家族や使用人の前でしか披露したことがなかったからな。

純粋に楽しみである。


「ミリー様、先ほどのことですが……」


寮の部屋に戻るなり、紅茶を淹れてくれたティアナの様子がいつになく改まる。


「何かしら?」

「演奏会の参加ですが……念のため、ご両親に許可を取られた方がよろしいかと」

「ん? そうなの?」


学院の敷地を出て外部へ行くわけだが、そこまで大袈裟な許可が必要だろうか。

普段の外出に比べると長時間になるとはいえ、宿泊するわけでもないし、場所も同じ王都内だ。


「何か懸念事項があるのかしら?」

「そう、ですね……。一応、教会が絡んだイベントのようですので……」


ティアナの言葉はやや歯切れが悪かった。

(教会ということは、宗教絡みの問題か?)

この国には、公式に認定された宗教がいくつかある。

一番信徒が多いのが「星教」と呼ばれる、星一つ一つに神が宿っているという教えを説く多神教だ。

神様はたくさんいて、いつでもあなたたちを見守っている――要するに「あらゆるものに感謝して穏やかに過ごしましょう」という、一番分かりやすくて一番戒律のゆるい宗教である。

だが、これが国教というわけではない。

次に信徒が多いのは……いや、あとはどれもどんぐりの背比べか。

総じて、ここウィンスフェルド王国は宗教への関心が薄い国である。

それには建国の歴史が深く関係しているらしいのだが、そのあたりの詳細な歴史はまだテスト範囲外なので、詳しくは覚えていない。

実際、国民の多くは星教に属しているものの、毎日天に向かって祈りを捧げるわけでもなければ、足しげく教会に通って儀式に参加することもない。

というか、そもそも星教には「教会」にあたる施設がほとんど存在せず、街の広場に『星塔』と呼ばれるモニュメントが建っている程度なのだ。


「えっと、どこの教会のイベントなのかしら?」

「『アルド教』になります」

「ああ……なるほど?」


アルド教は、確か竜を崇めている宗教だったな。

最初にそんな宗教があると知ったときは、思わず嬉しくなって詳しく調べたのだ。

だが、私の思想とは真逆の理念だと知り、すぐに興味をなくした記憶がある。

私は竜を崇め奉りたいのではない。

ただ純粋に、竜の圧倒的な強さに憧れたのだ。

そもそも、あいつら本能のままにあらゆるものを破壊する生き物だぞ? 敬うところなんてどこにもないぞ?

アルド教が信仰しているという『真竜アルド』は、かつて人と共に暮らしていたらしいので、私の知っている竜とは少し毛色が違うのかもしれない。

だが、それにしても信仰を捧げようなどとは――すまん、これっぽっちも思えん。


「アルド教に関して、何か問題になりそうなことあったかしら……?」

「ミリー様のことを考えると、その……」

(え、私なんかやっちゃったっけ?)

「――『亜竜病』に関してですね。アルド教にとっては相当に一大事だったようなので、不躾にミリー様へ接触を図ってくる輩がいるかと懸念しております」


ああ、そういえば。

私って不治の病を克服したのだった、すっかり忘れていた。

亜竜病って、一部では『竜の呪い』なんて大げさな扱いをされているらしく、竜を崇拝するアルド教にとっては、少しいわくつきの病気なのだと何かの本で読んだ気がする。

ということは……。

私をダシにして、自分たちの宗教の宣伝でもしたいのだろうか?


「そこまで心配する必要ないと思うけど。……わかったわ、確認してみましょう」

「ありがとうございます」


というか、確かティアナの家系もアルド教の信者だったはずだ。

同じ宗教の中でも、宗派が違うとか色々とあるのだろうか?

まあいい。

もし面倒ごとに巻き込まれたなら――その時は、彼らが崇めているその「竜」の力で、全員まとめてねじ伏せてしまえばいいだけだ。

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