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01-11. 学院生活とクラブ活動

「へぇ、ミリーは武術のクラブにも入ったの」

「やっぱり、体を鍛えるのが楽しいから」

「ふーん、意外だね」


お昼時、学院の食堂施設で私たちはいつものように昼食を摂っていた。

天井が高く、片側の壁がすべて硝子張りになった食堂は、とにかく明るくて開放感がある。

同じ制服に身を包んだ生徒たちはわいわいと賑やかに、それでいてどこか節度を守った上品な雰囲気でランチタイムを楽しんでいた。

朝と夜は寮で食事をとり、昼はこうして学生食堂を利用する。

事前に寮へ申請すればランチバスケットを用意してもらえるため、天気の良い日は校庭や、一部の空き教室でピクニック気分を味わうこともできる。


「スポーツ系なら、ダンスや乗馬だってあるのになあ」


四人用のテーブル席にて、私の対面に座る学友のアリサは、腑に落ちないご様子だ。

アリサ・エーデルラント。

ウィンスフェルド王国の内陸部にある領地の領主の娘である。

明るい栗色の髪は私よりも長く、眉のラインできっちりと切り揃えられた前髪と、頬のラインに沿うサイドの髪が彼女のあどけない顔立ちを強調していた。

大きな淡い茜色の瞳と、少しツリ気味の眉が活発な印象を与える美少女だ。

彼女はスパゲッティをフォークできれいに巻きながら、お喋りしつつも上品な所作で口に運んでいた。


「ま、ミリーちゃんは少し変わったところがあるからねぇ」


と、アリサの隣に座る別の少女が、面白がった風に言葉を挟む。


「ラフィ、それはどういう意味かしら?」

「そのままの意味だよ~」


同じく学友のラフィ。

本名、セラフィーナ・アルドゥス・ウィンスフェルド。

その名前からわかる通り、彼女はこの国の王女の一人なのだ。

少し下がり気味の細い眉と、穏やかな光を宿した琥珀色の瞳。

肩まで届く明るい茶髪は緩やかにウェーブしており、左側の髪だけが一房にまとめられて毛先まで丁寧に三つ編みにされている。

やや気怠げな様子でサンドウィッチを頬張っている姿は、とても一国の王女様には見えないけれど。


「……私って、そんなに変に見えるかしら?」

「私の目からはねぇ。初めて会ったときから『ちょっと違う』って思ってたよぉ」

「それは私もよくわかる。ミリーって少し不思議な雰囲気があるよね」


二人を見比べると、どちらかといえばアリサの方が「王女」と言われてしっくりくる。

アリサの雰囲気はしっかり者の姉で、ラフィは手はかからないけど可愛げのない妹といった感じだ。

それでいいのか、王女様。

当のラフィ曰く、「私は第三王女で、兄も上に四人いるからね。権力なんてあってないようなものだから、王女様ぶっても仕方ないんだよぉ」とのこと。

まあ、世の中なんでもかんでもイメージ通りにはいかないものだな。

それにしても、私は変に見える、か。

前世の記憶があるせいか、つい同年代らしからぬ大人びた雰囲気を醸し出してしまっているのかもしれない。


「ティアナはどう思う?」

「ミリー様は……その、個性の強さの表れかと思います」


ほんの少し間があったけど、一応ティアナから擁護が入った。

(言い方を変えただけで、遠回しに「変」って認めてないか?)

こうして四人で賑やかなランチタイムを過ごすのがすっかり日課になっていた。

同学年で、かつ寮の部屋が隣なこともあって、私はアリサとラフィと過ごす時間が多かった。

王立レオノーラ女学院に入学してから一か月。

新しい生活にもだいぶ慣れてきた。

寮生活とはいえ、実家の屋敷にいるときから身の回りのことはできるだけ自分でやっていたし、なによりティアナと同室なのが心強い。

ただ、肝心の学院の授業に関しては、なかなか一筋縄ではいかなかった。

ここでは単位制という、自分でどの科目を履修するか選択する方式がとられている。

自分が何を学び、どういう道に進みたいかを、自分自身で設計する必要があるのだ。

興味のある分野だけを気楽に選びたいところだが、それだけでは進級条件を満たす単位が足りない。

おまけに必修科目が半分近くを占めているため、選択の自由にもそれなりの制限があった。

(歴史は最低限でいいのだが。ダンス講習は……頑張るしかないか)

また、年に数回の定期考査があり、基準に満たないと長期休暇が返上されて補修を受けることになるらしい。

厳しい編入試験を突破して一安心していたが、入ったら入ったで安易に気が抜ける状況でもないようだった。

とはいえ、朝から晩まで勉強漬けになるほど過酷な環境というわけでもない。


「まっ、授業ちゃんと聞いて、ある程度予習復習すればなんとかなるよぉ」

「ラフィでも毎年進級できているから、ミリーとティアナなら絶対に大丈夫ね」


既に在学四年目の彼女らが言うのだから、本当にそうなのだろう。

そうして義務を果たした後の放課後には、「クラブ」という集団活動が待っている。

この学院では、生徒のほぼ全員が何かしらのクラブ活動に興じるのが習わしだった。


「せっかく魔導具クラブに誘ったのに。ミリーなら、あの複雑な回路の面白さをきっと分かってくれると思ったんだけどな」


食事を終えてティータイムに移ると、一番おしゃべりなアリサが不満げに口を尖らせた。


「魔導具といっても、工作レベルでしょう?」

「まあ、さすがに武具みたいな危険なものは作らせてはくれないからね」


アリサは意外にも機械いじりが好きなようで、『魔導具クラブ』なるものに所属している。

試しに見学に行ってみたのだが、良家の息女がゴーグルを着用し、真剣な面持ちではんだ付けに勤しむ姿は、さすがに衝撃が強すぎた。

(魔術に関する道具制作なら前世でもやっていたけれど、機械となるとさっぱりだ)

現代の魔導技術には興味があるが、誰にだって得手不得手はある。

結局、私が入ったのは「音楽クラブ」と「大陸拳法クラブ」だ。

音楽クラブは校内に複数存在し、私が入ったのはそのうちの割と小規模なグループ。

コンクールを目指すような本格的なものではなく、趣味の延長線上のやや緩い雰囲気のクラブだ。

二つも掛け持ちしているからそこまで時間は割けないし、音楽に身を捧げるつもりもない。

ただ、今世のミリアリアは幼い頃からピアノを弾いていたし、姉からも出来る限り続けてほしいと言われているので籍を置いている。

いい息抜きになるので、個人的には楽しむつもりだ。

そして、もう一つの大陸拳法クラブ。

こちらは徒手空拳の組み手を通して心身を磨くというものだ。

お嬢様たちが通う学院のクラブなのであまり期待はしていなかったが、これがまあまあ本格的で、しっかりと大会にも毎年出場しているらしい。

ちなみに、なぜ武術のクラブを選んだかというと、もちろん身体を鍛えるためである。

そしてもう一つの理由は、私が「ちゃんと強い」ということを、最終的に周囲へ認知させるためだ。

なぜかって?

だって、竜体魔法を伝承するに至って、その祖たる者が弱かったらおかしいでしょう?

「本当にこの人が開発したの?」、「どうせ権力者のお遊びか何かだろ?」と疑われかねない。

そのために、時間をかけてでも私自身が強くなる必要があるのだ。

ふふん、ちゃんと計画しているのだよ。


「ミリー様、お口にソースが」

「あ、うん、ありがとう」


おおっと。完璧な人生設計に陶酔するあまり、つい手元が狂ってしまった。


「ティアちゃんもミリーちゃんと同じクラブなんでしょ。いいねぇ、私もティアちゃんみたいな護衛の人が欲しいなぁ」


私とティアナをちゃん付けで呼ぶラフィはというと、チェスクラブに所属しているらしい。


「そういえば、王女様なのに護衛はいないのかしら?」

「私を狙う暗殺者なんてまずいないから、メリットないし。でも、従者くらいつけてくれたっていいよねぇ」

「そうしたら、ラフィはますますだらけるでしょ」

「アリサは私に厳しいんだも~ん。もう少し優しく起こしてくれたっていいのにぃ」

「朝はすぐ起きなさい!」


アリサとラフィはルームメイトで、昔からの幼馴染みだそうだ。

まあ、いくら本人があんな態度でも、王女様と同じ部屋というのはさすがに気苦労が多そうである。

それにしても、学校という場所は楽しいな。

同年代の者たちと時には切磋琢磨し、時にはこうして談笑を交わしたり。

勉強はなかなか大変だが……校則も厳しいよな……寮の門限は厳守しないと叱られるだけでは済まない……。

あれ? そうでもない?

いや、何でも自由であっては、それは自由がないのと同義だ。

己の義務を果たしてこそ、本当にやりたいことに費やす時間が有意義になる。

(前世の私は魔導の研鑽に全つっぱしていたようなので、言えた義理ではないがな)


さて、今日は大陸拳法クラブの日だ。

放課後は楽しみである。

――なのだが、その前に一つ難関が待ち構えている。


「午後は歴史の時間に小テストかしら?」

「だねぇ。近代あたりだっけ? 歴代の国王の名前なんて覚えられないよねぇ」


気持ちはわかる。わかるのだが……。

ラフィ、あなたのご先祖様なのだから、そこはしっかり覚えなさい。

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