初めてのレストラン
ファミレスにでも入ろうかと思ったけれど、すぐ近くにファストフード店を見つけたので、そこに入ることにした。
日曜日ということもあって店内は混雑しており、俺たちは行列に並ぶことになった。けれど、ほのかちゃんがさっき見た映画の感想を一生懸命に話してくれたおかげで、待ち時間もまったく苦にならなかった。
列に並びながらふと周囲を見渡すと、カップルや友達同士、家族連れなど客層は様々だったけれど、俺たちのような中学生くらいのカップルは珍しいということに気づいた。
……確かに、学校でも彼氏彼女がいる奴なんてあまり聞かないよな。
そう思うと、胸の奥で小さな優越感が持ち上がった。俺は「普通」になれているどころか、人よりも、うまくやれているのかもしれない、と自分に言い聞かせる。
二人でそれぞれハンバーガーのセットを注文した。会計の時、俺は少しカッコをつけてほのかちゃんの分もまとめてお金を払った。
「ありがとう!」
ほのかちゃんはパッと顔を輝かせてお礼を言ってくれた。けれど、ファストフード店のこんなささやかな金額で素直に感謝されると、逆にこちらが申し訳ない気持ちになってしまう。やっぱり、もう少し高そうな料理のあるレストランにすれば良かっただろうか、と少し後悔した。
テーブル席はほとんど埋まっていたため、俺たちは外の窓に向かって座るカウンター席に並んで腰を下ろした。二階席だったこともあり、大きなガラス窓からは、休日を行き交う街の人々を見下ろすことができた。
ハンバーガーを頬張りながら、俺たちは次の行き先について話し合った。
「次はどこ行こうか? この近くなら、大きめのショッピングモールがあるよな……」
「行きたい! おしゃれな雑貨屋さんとか見て回りたいな!」
ほのかちゃんはドリンクのストローを咥えたまま、目を輝かせてこちらを見た。その口元には、ほんの少しだけハンバーガーのソースがついていて、なんだか可笑しくて愛おしい。
俺は少し迷ったが、申し訳なさそうに言った。
「……口元、ソースついてるよ」
「えっ、嘘!? どこ!?」
慌ててナプキンで口を拭うほのかちゃんの顔が、一瞬で耳まで真っ赤になる。可愛くて思わず顔がほころぶ。
「……もう、笑わないでよ、海斗君」
「ごめんごめん。でも、そういうの見てると親しみ湧くよ」
そんな他愛のない会話を交わしながら、俺たちは店を出て近くのショッピングモールへと向かった。
モールの中をあてもなく歩き、可愛いぬいぐるみや綺麗な文房具を見て回る。ほのかちゃんはショップのウィンドウを覗き込むたびに「わあ、これ可愛い!」とコロコロと表情を変えていた。その笑顔を見ているだけで、俺も自然と誇らしい気持ちになれた。
――そして、楽しい時間はあっという間に過ぎ、帰り道。
夕暮れ時、少し遠回りをして人通りの少ない裏通りへと入る。オレンジ色の街灯がポツポツと灯り始め、あたりに静けさが広がっていった。
しばらく無言のまま二人で並んで歩いていると、歩幅が重なった瞬間、ふっと互いの指先が触れ合った。
触れた部分から、電気でも走ったかのように心臓が跳ねる。
俺は一瞬躊躇したけれど、勇気を振り絞り、自然な動作を装ってそっと彼女の手を包み込んだ。
照れくささと恥ずかしさで、とてもじゃないけれどほのかちゃんの顔を見ることができない。視線をまっすぐ前方に固定したまま、必死に平静を装う。
手を握られた瞬間、ほのかちゃんの手がピクッと小さく跳ねた。
拒絶されて解かれたらどうしよう――そんな不安が脳裏をよぎったけれど、彼女が手を引き取ることはなかった。それどころか、握り返すわけでもなく、ただ俺の体温を静かに受け入れてくれている。
手を繋げたことに、とても喜びを感じた。
パッと視界の端で人影が見えたり、車が横を通り過ぎたりするたびに、急に恥ずかしさが押し寄せてきて、お互いスッと少しだけ手を離してしまう。
けれど、周りに誰もいなくなって二人きりの静寂が戻ると、吸い寄せられるようにまた手を繋ぎ直して歩き始める。
そのぎこちなくも温かいやり取りが、どこかこそばゆく、胸の奥をくすぐるようだった。




