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恋するタイムリープ〜悲劇から始まる歪んだ恋物語〜  作者: VANRI


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急接近

 同窓会から数日後、俺たちはまた同期の三人で飲みに行っていた。

 仕事の愚痴やたわいのない話で盛り上がっていると、高柳のスマホが激しく揺れた。画面を見た高柳の顔が、一瞬で分かりやすく強張る。


「あ、やば……ごめん!  俺、マジで急用できたから先帰るわ!」


 慌ただしく上着を羽織り、財布から千円札を何枚かテーブルに叩きつけると、高柳は風のように店を飛び出していった。あまりの速さに呆気にとられながら、俺は向かいに座る山中に視線を送った。


「……あいつ、何があったんだ?」


「あはは、実は最近彼女できたらしくてさ。かなりの一筋みたいだよ。今日は会えないって聞いてたけど、急に都合がついたのかもね」


「そっか……いいな、楽しそうで」


 思わず口をついて出た言葉に、自分でも少しだけ自虐的な笑みが混ざる。

 恋人がいて、それを当たり前に周囲に話せて、まっすぐに誰かを愛せる高柳。

 そんな「普通」の幸せが、どこか羨ましかったのだ。


 ふっと息を吐いた俺を、山中はグラスを置いたままじっと見つめていた。そして、人懐っこい笑みを少しだけ深めて、低い声で囁くように言った。


「ねえ、海斗。明日休みだし……今から俺んち来ない?」

「え……?」


 唐突な誘いに、鼓動が激しくなってくる。


「ほら、こないだワークショップで作った香水あるじゃん。しばらく置いておいたら熟成したみたいでさ、すごく良い香りになったんだよね。海斗にも嗅いでみてほしくて」


(香水……熟成……)


 あの日、自分の指先をかすめるほどの距離で言われた「海斗の香り、すごく好きだな」という言葉が、一瞬で脳裏に蘇る。

 動悸が激しく叩きつけるのを必死で隠しながら、俺は喉を鳴らした。


「……ああ、それなら……興味、あるかも」


 山中の家という、あまりにもプライベートな空間へ足を踏み入れることへの恐怖と、それを上回る強烈な高揚感。

 俺は断る理由を見つけられないまま、彼の手招きに応じるように頷いていた。


 山中のマンションに向かうエレベーターの中も、廊下を歩く足取りも、俺の心臓はうるさいくらいに打ち鳴らされていた。

 けれど、それが彼に悟られてしまわないよう、必死に無表情を決め込み、ポケットの中でぐっと拳を握りしめて誤魔化す。


「はい、どうぞ。今日家に呼ぶと思ってなかったから、ちょっと散らかってるかも」


 鍵を開けてドアを押し開けながら、山中が少し照れたように笑う。その無防備な笑顔に、胸がまたキュンと跳ねた。


 お邪魔します、と小さく声をかけて足を踏み入れる。

 間取りは俺が住んでいるマンションとさほど変わらない、一人暮らし用のワンルームだ。


 ふと、ベッドの横にあるデスクに目が止まった。棚にはコスメ関係の専門書や資料がぎっしりと並んでおり、そのうちの数冊が乱雑にデスクの上へ広げられている。仕事熱心な彼の一面を垣間見た気がした。


「あ、ごめん、散らかってた。ちょっと待ってね」


 視線に気づいた山中が慌ててデスクに歩み寄り、トントンと書類の端を揃えて棚へと片付けていく。


「そこらへんに座ってて」


 部屋の中央にはローテーブルとソファが置かれていた。俺は促されるまま、緊張で強張った体を少しずつ解しながらソファに腰を下ろす。


 しばらくすると、山中が二つのマグカップを手に戻ってきた。白い湯気が立ち上り、部屋の中にコーヒーの香ばしい匂いがふわりと広がっていく。


「はい、コーヒー」

「……ありがとう」


 山中は俺のすぐ隣に腰を下ろした。一人用の距離感ではないソファだからこそ、彼の体温がダイレクトに伝わってくる。

 温かいコーヒーに一口、口をつけると、山中がマグカップを持ったまま、俺の瞳をまっすぐに見つめてきた。


「海斗って……男が好きなの?」

「……っ!?」


 唐突に投げかけられた言葉に、呼吸が一瞬で止まった。手に持っていたマグカップを慌ててローテーブルに置く。


(な、なんで……!?)


 パニックで頭の中が真っ白になる。

 自分からカミングアウトする強さなんて当然持っていなかったし、学校でも会社でも、男が好きだとバレるような言動をした覚えは一切ない。絶対に隠し通せていたはずだ。


 ……なのに、どうして。


 何かボロを出しただろうか。それとも、あの飲み会の夜に智哉の告白を聞いて動揺していたことや、香水のワークショップで動悸を乱していたことが、すべて見透かされていたのだろうか。


「……なんで、そんなこと」


 かすれた声で絞り出すのが精一杯だった。


 逃げ出したいほどの恐怖と、一番隠しておきたかった秘密を突かれた衝撃。

 目の前にいる山中は、責めるような色など一切ない、ただ穏やかでまっすぐな瞳で俺の返事を待っていた。




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