高校生活の始まり
結果として、俺と黒木、そして花音と結菜さんの四人は無事に同じ高校に合格した。
合否はネットで確認できたのだが、俺には一人で画面を見る勇気がなくて、黒木を自分の部屋に呼んで一緒にブラウザを開いた。
自分たちの受験番号を見つけた瞬間、俺たちは声を上げて抱き合い、飛び跳ねて喜びを分かち合った。
その歓喜の真っ最中にも、俺の頭の片隅には「花音も受かっていますように」という祈りにも似た思いが強く浮かんでいた。
それから日付はあっという間に過ぎ、迎えた入学式の日。
満開の桜の下、大勢の新入生の中に花音の姿を見つけた時、俺は心の中で飛び跳ねたいほどの激しい嬉しさに包まれた。自分の合格を確認した時と、まったく変わらないほどの興奮だった。
あまりにも嬉しくて、式の間も終始そわそわしていたのだろう。
式が終わると、隣にいた黒木から「入学式くらいでそんなにテンション上がってんの、お前くらいだぞ」と呆れ顔で笑われてしまった。
数週間が経った放課後、黒木に「ファストフード店行こうぜ」と誘われた。
一緒に寄り道すること自体はたまにあるので別段驚きはしなかったが、今日の黒木はどこか雰囲気が違っていた。やたらとソワソワしていて、妙にテンションが高い。
(まあ、何か理由があるんだろうな)
俺はそんな風に軽く考えながら、無意識に足早になっている黒木の背中を追った。
店に着き、いつも通り二人で似たようなバーガーセットを注文して席につく。
だが、黒木はスマホをいじりながら相変わらず落ち着きがない。そのまま様子を見ていたが、一向に口を開く気配はない。そもそも、誰かに聞かれたくないようなディープな相談なら、俺の家にでも来て話すはずだ。
じゃあ、一体なんだ? わざわざこの店を指定して連れてきた理由は?
黒木はチラチラと、しきりに店の入り口付近を気にしている。
「なあ黒木、お前さ……何か話があるなら」
見かねて俺が切り出そうとしたその時、黒木が入り口の方を向いてパッと手を挙げた。
俺もすぐさまその視線を追う。
自動ドアの向こうに立っていたのは――結菜さんと、そして花音だった。
(……え?)
ドクンと、胸が激しく高鳴る。
なんで? どうして黒木が……結菜さんと花音を呼んだんだ? ただ単に、あいつらと仲良くなって誘っただけなのか?
思考が追いつかない俺と同じように、花音もこの状況を知らなかったらしい。俺たちの姿を捉えた瞬間、メガネの奥の目を分かりやすいくらい丸くして驚いていた。焦った様子で結菜さんの袖をぐいぐいと引っ張り、何かを小さく囁いている。
対照的に結菜さんは楽しそうにニコニコと笑いながら、俺たちの席に向かって歩いてきた。
二人がテーブルまでやってくると、結菜さんは迷う素振りも見せずに黒木の隣へ腰掛けた。その自然な流れに押し出されるようにして、花音は俺の隣に座ることになった。
高校に進学してからは、中学の頃よりは挨拶くらい交わすようになっていた。けれど「たかが知れている」という程度の変化だ。こうして距離を詰めて仲良くおしゃべりするなんて、到底ほど遠い関係のままだった。
花音はどこか気まずそうに「……横、いい?」と小さく尋ねながら、ゆっくりと俺の隣に座る。
その姿を見届けるやいなや――突然、黒木が結菜さんの肩をぐっと抱き寄せて自分の引き寄せた。
「俺たち、付き合うことになったから!!」
「えぇっ!?」
「はぁっ!?」
俺と花音の声が完璧にハモり、店内に響き渡った。あまりの大声に自分たちで驚き、二人して慌てて手で口を塞ぐ。
花音は周りの客の視線を気にしながら、声をひそめて身を乗り出した。
「え? え? いつから……? っていうか、いつの間に……っ!?」
「昨日から!」
結菜さんがえへへと誇らしげに明るい声を出す。
「そ、そっか……。おめでとう……」
俺は半ば呆然としながら、なんとかそれだけの言葉を絞り出した。というか、あまりの衝撃にそれ以外の言葉が思いつかなかったのだ。
二人は少し照れくさそうにはにかみながら、お互いの顔を見合わせて笑い合っている。
……不思議な感覚だった。
目の前で笑い合う二人を見ていたら、胸の奥から温かいものが溢れてきて、すごく、すごく幸せな気持ちになった。不意に視界がじんわりと熱くなり、うっすらと涙が込み上げてくるほどに。
ふと隣を見ると、花音も全く同じ顔をしていた。
俺よりもずっと分かりやすく、メガネの奥の瞳にポロポロと大きな涙を滲ませていたのだ。




