波状乱の幕開け ②
馬車の中はとても空気が重く、始めは隣ではしゃいでいた子どもですら何かを察し今では親の隣に大人しく座っている。それ程に今の私は気が重い。親子には申し訳ない事をした。
「ごめん、少し寝るね。着いたら起こして……」
私は頭上に魔方陣を展開し、自らに睡眠魔法をかけた。言わば現実逃避ってやつかもしれない……。
「かしこまりました」
じいやの声が微睡む私の耳に微かに聞こえてきた…………
「お客さん……お客さん!」
──ガタッ!
「!?」
ハッと目を覚まし目を擦る。目覚めた先に居る筈のじいやが見当たらず、更には有るはずの無い景色が周りには広がっていた。
「よっぽど疲れてたのかい? お連れさんは先に途中で降りたよ」
馬車は馬車小屋に戻っていた。
つまり私は寝たまま魔法学校を通り過ぎ戻ってきてしまったのだ!
(じ、じいやは……!?)
私は焦った。じいやの事だからきっと魔法学校だろう。
つまり、私のやるべき事は…………
「すまない。駄賃は弾むからもう一度魔法学校へ行ってくれないか!?」
私は相場の三割増しほどのお金を運転手に向けた。
「……どうやらかなり訳ありだね? いいよ。それで行ってあげるよ」
「すまない」
馬車は再び魔法学校へ向けて出発した。私は無性に嫌な胸騒ぎがして居ても立っても居られずに馬車の中で延々と悩み続ける。じいやの身に何事も起きていなければ良いが…………。
(いや、何事か起こすつもりで一人降り立ったのだろうな……)
私は眠りについた己の浅はかさを悔いた。同時に魔法学校へ近付くと校舎の上空に見えた謎の茶色の巨龍に驚き戸惑った。
「な、何だあれは……!?」
フルダーンの魔法では無いことだけは分かる。彼が操る水の魔法には拘りがあり、美しい水色の水を使う事が【ダーンを継ぐ者】の使命らしい。
と、なるとあれ程の大きさの物体を形成して操作できる人物とは…………
(まさか、じいやなのか……?)
しかしあれ程の大きさとなると、余程の使い手でもないと不可能だ。私ですら出来るかどうか分からない。
幾ら憶測を重ねてもその答えは見付からず、私は頭を抱えた。そして馬車が魔法学校へ着く頃には謎の巨龍の姿は消えてしまっていた。
「すまない! 無理言って悪かった!!」
私は運転手に礼を述べ、忌々しい我が母校へと乗り込んだ―――!




