波状乱の幕開け ①
私は覚悟を決め自宅を後にする。懐かしい帽子を深く被り、無言で馬車が来る小屋まで歩く。
──ザッ、ザッ、ザッ……
──タッ、タッ、タッ……
「後ろからでも嫌そうな感じが伝わってますが、そんなに嫌な物なのですか?」
私の後ろを黙って着いてきてくれていたじいやがついに重い口を開いた。
「私の……いや、殆どの魔法学校は元々平民が行けるような場所ではないんだ。例え素質が実力があっても地位や名誉、家柄やお金の有無で容赦無く弾かれる」
「つまりナターシャ殿は……」
「ああ。平民の出だ。当時の校長の遠い遠い親戚と言う事で入校したが周りからの評判は芳しく無かった。校長からの支援と逆境をバネに頑張る私が更に周りからの嫉妬に熱をかけた……」
「…………」
馬車小屋まではまだ少し先。二人の足音と木々のざわめきが静かに音を奏でている。
「先日家に来たフルダーンは、水の魔法にこの人在りと呼ばれた【水の魔術師 グレイトダーン】の血を継ぐ者なんだ。ある日の水の試験で偶然彼の成績を抜いた事があってな……それから彼は頻りに私に話し掛けてくるようになった。まぁ、彼のお陰で周りからの嫉妬や嫌がらせや陰口が減ったのは確かだから、ある意味彼には感謝している」
「私には彼が好青年に見えました」
「表向きは、ね。……彼は自尊心の塊の様な男だ。私は知っている……彼はここぞという機会に私に魔法対決を仕掛けてくるつもりだ! そして私を打ち負かして悦に浸るつもりなんだ!!」
少し声を荒げてしまったが、じいやの足取りは変わらない。きっと冷静に私の話を聞いてくれているのだろう。彼は私の話を聞いて何を思うだろう……。
「……負けなければ宜しいのでは?」
その答えは実に簡単で冷たいものだった。
「…………じいやならそう言うと思ったよ」
私は努めて冷静に答えを聞き流した。一瞬でも何かを期待した私が愚かだった。魔法もろくに使えない得体の知れない彼にちょっとでも彼に勝る物など在るわけがないのだから…………。
──ヒヒィィィ……
馬の嘶きが耳に届き、馬車小屋が見えてきた。あれは私を地獄へと送る冥府の使いだ。そして我が母校は私の墓標となる最後の地となるだろう。




