波状乱の幕開け ③
駆け足で校門を抜け、篝火が並ぶグラウンドを見渡すと……そこには至って普通の創立記念祭が執り行われていた。
「おや? ナターシャじゃないか! 急用で来れないと聞いていたがどうやら用事は済んだみたいだな!」
ブドウ酒を片手に持ち、いつもの妙に明るい笑顔を向けるフルダーンは、めざとく大声で私を歓迎し周囲の目を引く。私が目立ちたくないのを知っていながらこの男はぬけぬけとこういう事をするから嫌いなのだ……。
「あ、ああ……ところで来る途中で校舎の上に龍の姿を見たのだが……?」
私の問い掛けに眉一つ動かさず、彼は大声で「俺の魔法だよ! 驚いたか!?」と答えた。
したり顔で答える辺りどうやら本当なのだろう。拘りがどうなっているのか私には関係ない話だが、それならば合点がいく。
「して……じいやを見なかったか? 先に来ている筈なんだが……」
「!」
『じいや』とその名が出た途端、彼は笑いを堪え出し握られたグラスは震えブドウ酒はその中で大きく揺れ始めた。
「クク、ククク……!!」
「な、何だ? じいやがどうした!?」
「いやいや悪い悪い。ほら、彼ならあそこさ」
フルダーンの指が指す先には、机に突っ伏し寝ているじいやの姿があった。
「彼は相当酒に弱いみたいだな! 一口飲んだらコロリと行ってしまったよ!!」
「…………」
私はじいやの傍へと寄り、背中を優しく叩いた。
「おい、起きないか……」
「……ふぇ? ふえふえ……?」
じいやがふざけた顔で私を見た。よく見たらじいやは彼方此方砂まみれになっており、いつもの凛々しい姿は何処にも無かった。
「酷い姿だな……」
「すみ、ましぇん……何やらコレを飲んだりゃ、頭がぼぉぉぉっとすてすまい……」
どうやらじいやがいた世界には『酒』とやらが無かったらしい……。私はそこまで気が回らずはなからじいやを怒るつもりでいたが、何やら何事も無かった様なので彼を介抱するために帰ることにした。
「ほら、起きれるか?」
「ふえふえ?」
フラフラとじいやが立ち上がる。フルダーンは終始笑顔で私達を観ていた。
「酔いが覚めたら彼に宜しくと言っておいてくれ」
「色々とすまない」
私はじいやに肩を貸し、祭りに酔いしれる群衆の中を去って行った。周囲は私達に見向きもせず酒や料理を楽しみ大声で話しあっている
「全く……君と言う人は……」
校門の隅に停められている馬車へ向かい、運転手を呼ぶ。
「待っていてくれたのか? すまないこの酔っ払いを頼む。荷物として載せてくれ」
「へへ、三割増しなら寝ずに幾らでも走りますぜ♪」
商魂逞しい運転手が操る馬車は、私とへべれけ一人を乗せ自宅へと向かった…………




