第9話 学園長、北へ
スーツ姿で執務室のデスクに座り、3mほど離れたカメラを睨む。
カメラの後ろ側の壁には大型モニターが埋め込まれていて、16分割された画面には各教室に設置されたカメラの映像が映されている。
何クラスあるか知らないが、数分ごとに画面が切り替わっていく。
就任のあいさつはオンラインで行われるらしい。
「サッチャン、オレってカメラに向かってしゃべるの苦手なんだけど」
「私がカメラの後ろに立つから、私に喋れば?」
「サッチャンが相手だと威厳が保てないって」
「難儀な人だな、もー!」
サッチャンがスマホを操作して、しばらくするとデスクの上の電話が鳴った。
サッチャンが受話器を取り「OPEN」と印字されたボタンを押すと、歩が小走りで執務室へ入ってきた。
「不本意だけど、町田さん相手だったら話せるでしょ?」
この学園の制服であるブレザーの制服を着た、ショートカットの中性的な美少女がカメラの後ろに立って微笑みかけてくる。
ふんわりと漂う柑橘系の香りは、彼女の雰囲気とマッチしていた。
「歩、悪いな。ちょっと付き合ってくれ」
「えっ? そ、総一郎さんと付き合うんですか?」
「サッチャン、総会長ってポンコツでも務まるのか?」
「ポンコツなのはそっち方面だけで、基本的に優秀なんですよ。町田さんは」
「そっち方面ではサッチャンもたいがいポンコツっぽいけどな」
「……うっ、うるさい! ほら、もうそろそろ時間だから準備して」
『これより、新学園長の就任あいさつを始めます』
壁に仕込まれているらしいスピーカーから突然に音がする。
事前に段取りは説明されていたが、本当に急に始まるんだな。
大型モニターにオレの画像が表示される。
自分を見ながらしゃべるってのも変な感じだ。
「学園長になった御子柴総一郎という」
目の前に立つ歩へ目を合わせると、「知ってる」と声を出さずに答えてくれた。
すこし緊張が和らぐ。
「何かをしに来たわけでもないし、何かをするつもりはないが、出来ることはやるつもりだ」
歩とサッチャンが二人で頷く。
「学園長って身分だが偉いわけでもないし、優秀な人間でもないから、気軽に声をかけてくれて構わない。ただし、かかってくる火の粉は全力で打ち払う」
大型モニターに目を向けると、一部の生徒の顔つきが変わった。気のせいだと思いたい。
「オレ、それなりに強いからな」
「ニャー!」
ナツキがデスクへ飛び乗ってきた。
「そういうことで、子猫のナツキも一緒によろしくお願いする。以上」
オレを映していた画面がブラックアウトする。
『これで新学園長の就任あいさつを終わります』
パチパチパチとサッチャンと歩の二人から拍手が送られた。
「それじゃあ早速、北へ向かいますか?」
歩がサッチャンへ話しかけている。
「西じゃなくて北から行くの?」
「ナツキちゃんがいるから西は後でもいいかと思いますよ」
「北は堅固だよ。時間がかかりそうじゃない?」
「だからこそ、先に落としたいんです」
「ねえ、二人とも何言っているかわからないんだけど。北に行くって、オレが行くの?」
「総ちゃんの顔見世なんだから当然でしょ? 東西南北のビルへ行って挨拶するんだよ。学園長なんだから」
サッチャンがどや顔でオレを指さす。
「いや、落とすとかなんとか言っていなかった?」
「各地域を総一郎さんの傘下に入れることが最初の仕事ですから」
歩が腕を組んで、しょうがないなって顔をした。
「昨日の戦いで歩の後ろにいたのが各地域の代表じゃないのか? それだったら、ナツキが一蹴しただろ」
「彼らは代理で送ってこられただけですから。四会長は別にいるんです」
「確認するけど、地域同士で戦争とかしていないよな?」
「……戦争を仕掛けたのは、ここ中央で前学園長なんだよ」
前の学園長は何をしてるんだ? 更迭された理由が戦争だって?
「よくわからないが、オレは尻拭いで学園長にさせられたんだな。それで、東西南北に対応できるかを試されたと。でもって、とりあえず北へ行って戦って従わせろってことで合ってる?」
歩に目を合わせて、答え合わせをする。
「大筋は合ってますけど、従属させる必要はないです。もともと、自治権は認めていたんです。敵対を解消して組織に戻ってもらう必要があるのです」
「とりあえず、行くけどさ。どうするかは向こう側の話を聞いてからだな。オレはやりたいことしかする気はないぞ」
「それでいいよ。総ちゃん」
「はい。総一郎さん」
1階に降りると、エントランスに数台の装甲車が止まっていた。
「なあ、一個小隊で行くのか? 車は1台でいい。行くのはオレとナツキとサッチャンだけでいいだろ?」
隊列を組んでいた学生が一斉に振り向く。
数人からは殺気も感じた。
なるほど、この中央を叩くために地域の協力がいるのか。
「おまえら学生だろ? とっとと教室へ戻れ。これはオレの仕事だ!」
学生たちは散会し、エントランスには1台の装甲車が残された。
「それで、歩はなぜ残っているんだ?」
「私は全単位を取得済みなので、授業が無いんです。だから、ついて行っちゃダメですか?」
強い瞳で見つめられる。
サッチャンとナツキを見ると、それぞれが頷いた。
「しかたないな、自分の身は自分で守れよ」
「はい。ありがとうございます」
オレは装甲車の運転席に乗り込み、後部座席のサッチャンと歩が乗り込む。
ナツキは助手席で寝ころんだ。
アクセルを踏み込もうとし振り向く。
「サッチャン、カーナビセットしてくれる?」




