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拉致られたら学園長になっていた  作者: 津山直太
北の方でちょっと暴れてくる

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第10話 北の城壁と詰襟とセーラー服

 装甲車をしばらく走らせると、霞むように見えていた塔がはっきりと見えてきた。

 中央と同じなら、あの塔の近くにビルがあるはずだ。


「歩、北の会長ってどんな奴なんだ?」


「玄川守(くろかわまもる)っていう、すごく体の大きい人です。スキンヘッドでちょっと見た目が怖いです」


 ルームミラー越しにサッチャンを見ると、首を振っていた。


「歩、性格や戦闘スタイルとかも教えてくれるかな?」


「……あっ、そういうことですか」


 歩の顔がパッと赤くなる。


「見た目も重要な情報だ。間違ってはいないよ」


「性格はですね、頑固おやじって言えばわかってもらえますか?」


「高校生でおやじかよ!」


「戦闘スタイルはわかりません。戦ったことがないので……」


 小首をかしげたり、アヒル口をしたり、思いのほか表情の豊かな子だな。

 オレに見られていることに気づいていないからだろうか。


「ゲンは基本的に堅守で、相手が疲れたところで反撃するスタイルだよ」


「名前通りだな。サッチャンは戦ったことあるんだ?」


「私の元々の仕事は情報収集なんだよ」


「忍者みたいだもんな」


 歩を真似てか、サッチャンもアヒル口をして答えてくる。

 一見すると中学生に見えなくもないほどの童顔に、その仕草はよく似合っていた。


 しばらく前から周辺の建物が消え、装甲車は荒野を走っている。

 道らしき道はなくなり、ナビの示すままに車を走らせる。

 

 日が傾き、一番星が見える頃になって、5メートルほどの高さの壁が見えた。

 城壁は漆黒で、岩を積み上げて作られているように見える。


 城壁の上には人影は見えず、攻撃をしてくる様子はない。

 玄川守と同じく、堅守を誇っているのだろうか。


 およそ5メートル四方の門らしきところに装甲車を止め、車を降りた。

 乾いた土の匂いがして、時折強く風が吹く。

 風に流された砂粒が顔に当たり、ちくちくと痛みを感じる。


「電話したら、内側から門を開けてくれるとかないか?」


「連絡はしているので、インターホンで聞いてみますよ」


 周りの岩と異なり、門構えはコンクリートで作られており、金属製の内開きの扉が取り付けられている。

 扉の一部には、人が2人通れるくらいの通用門があった。

 先を進む歩の後をついて、通用門の前に立った。


 歩がインターホンのボタンを押すと、すぐさま女性の声で応答があった。


『車を置いて、入ってきてください』


 モーター音がすると、通用門のロックが解除された。

 扉を押し開き、城壁の中へ入ると、ナツキが頭の上に飛び乗ってきた。


「シャー!」


 ナツキが威嚇した先には、黒い詰襟と紺のセーラー服を着た、男女10人の学生が並んでいた。


「学舎へ案内するのでご同行ください」


 男子学生の一人が一歩前に出て、告げてきた。


「歩いて行けばいいのか?」


 周囲を見ても自動車などの移動手段が見当たらなかった。


「30分くらい、歩けるでしょ?」


 女子学生の声がした方を見ると、鋭く睨みつけられた。


「ふーん。砕けた言葉遣いも出来るんだな。歩くのは構わないが、襲ってきたりしないよな?」


「会長の命令なので、道中の安全は保証します」


 男女一組が先導し、オレたちの周りを他の学生が取り囲む。

 拘束こそされなかったが、最大限に警戒されていることが、ピリピリとした雰囲気から伝わってきた。


 学生たちを観察すると、武道経験者のような無駄のない体重移動をしており、いつでも戦える準備をしていた。

 さっきの女子学生が殺気を隠さないものだから、ナツキがずっとグルグルと喉を鳴らしている。


 サッチャンはのんきに頭に両手を当ててオレの横を歩いているが、やはり油断は感じられない。

 歩はオレのすぐ後ろで、スーツの裾をつまんでついてきている。


「あのさ、オレの就任あいさつ聞いていたんだよな? オレから仕掛けるつもりはないから、もう少し肩の力抜いたらどうだ?」


「そんなこと言ったって、信用できるわけないでしょ!」


 殺気を飛ばしまくりの女子学生が間髪を入れずに反応する。

 しれっとサッチャンが間に入り、相手を牽制してくれた。


「おまえ、名前は?」


「教えるわけないじゃない!」


「オレ、学園長だし、調べればわかるんだけど?」


「くっ。ほ、星野みどり」


「それで、星野さんはどうしてそんなに殺気を漏らし倒してんだ? 武芸を志すなら、もっとコントロールしろよ」


「あなたに何がわかるのよ!」


「一度しっかりと息を吐け。苦しくなるくらいに吐ききれ。そうしたら、鼻から息をへその下にためるようにゆっくりと吸い込むんだ。次に、息を吐きながらつま先から頭のてっぺんまで力を抜いていく。いいから、やってみろ。体幹だけは真っすぐ通るように、意識はしておけよ」


 オレが脚を止めると、全員がピタリと止まった。

 星野と目を合わせると、彼女は不機嫌な顔をしながら、フーっと深く息を吐きだす。


 鼻から息をゆっくりと吸い込むと、またフーっと吐き出した。

 すると、さっきまでのピリピリとした殺気がスッと消えていく。


「出来るじゃないか。それができると、あいつらにも勝てるようになるぞ」


 星野以外の、北地域の学生たちを目で示す。


「……どうして」


「ほら行くぞ。待たせてんだろ? 玄川(くろかわ)だっけ」


 オレが歩き出すと、集団がまた動き出した。

 相変わらず星野からの視線は感じるが、殺気が和らいだおかげでナツキが喉を鳴らすのをやめてくれた。

 頭の上で唸られると、頭がい骨に結構響くんだよな。


「……何なの、この人」


 星野の小さなつぶやきが聞こえてきて、サッチャンにジロリと睨まれた。

 同時に、スーツの裾がグンと強く引かれ、ナツキがオレの頭をぽかっと軽く叩く。


「君たち、味方だよね?」


 一抹の不安を抱えたまま、オレたちは学舎の前に辿り着いた。

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