第11話 ポークステーキはうまかった
学舎の中へ入り、連れてこられたのはまさに武道場のようなところだった。
一面に畳が敷かれていて、い草の良い匂いがする。
試合場が色違いの畳で、四面の試合場が区切られていた。
中央の奥に正座している男は、入り口から見ても巨躯であることが容易にわかった。
間違いなく彼が玄川守。この地域の会長なのだろう。
「お連れしました」
先頭にいる詰襟が大声で入室を告げると、玄川が立ち上がった。
高校生とは思えないほどの威厳を漂わせ、オレを一瞥する。
「学園長におかれましては――」
「ストップ! その口上はいらん。なんで、へりくだってんだよ?」
玄川の前まで行って、あぐらをかく。
あぐらの上にはナツキが乗り、左側にジャージ姿のサッチャンがオレと同じくあぐらをかく。
少し遅れて、右側に歩が正座をして、スカートを整える。
目で制して、玄川とオレたちを案内してきた学生たちも座らせた。
「初めに言っておくが、オレは前の学園長が何をして、何があったかを全く知らない」
「そんなの無責任じゃない」
誰かのつぶやきが聞こえたが、無視をして続ける。
「かといって、現状に問題があるならそれを無視するつもりはない。何ができるかわからないが、オレのできることはやるつもりだ」
「問題を作ったのは前学園長なんだから当然だろ!」
星野が立ち上がるが、玄川にすぐさま座らせられる。
「で、玄川。この地区での問題ってあるのか?」
「この地区の問題は、オレたちが解決する」
意志のこもった目で訴えてくる。
「そうか。じゃあ、オレはこれで――」
右側の袖を引かれて横を向くと、歩に睨まれる。
「もー。総一郎さん、目的を忘れています」
「だって、問題を教えてくれなさそうだし、自分たちでやるって言ってるんだぞ」
「そこを聞きだすのが総ちゃんの仕事でしょ」
「と言うか、おまえら知っているんだろ?」
そういうと、二人はそっぽを向いて口を閉ざした。
オレが聞きださないと、状況が変わらないってことだろう。それくらいはわかっているさ。
でも、このようすじゃ玄川からは聞きだすのは無理だろ。
星野をつついたら、ぺろっと喋りそうだけど、こじれそうだしな。
「玄川、しばらく滞在したいんだけど、部屋は用意できるか?」
「星野、用意してやれ」
そう言うと、玄川は立ち上がり、詰襟とセーラー服の集団を引き連れ退出していた。星野を残して。
「なあ、星野。オレをここに呼んで、本当は何をするつもりだったんだ?」
「知らない、教えられてない。ただ、部屋は用意させられていた」
「まあ、いいか。部屋に案内してくれ」
こっちと言って、立ち上がった星野について行くと、ビジネスホテルのような部屋に案内された。
「これ、入館証と部屋のキーになっているからなくさないで。それと、どこへ行くにしてもわたしの同行が必要だから」
「星野、買い物したいんだけど案内してくれるか?」
「総ちゃん、何を買うの?」
「着替えとか必要だろ?」
「あるよ」
「車に積んでありますよ」
「部屋に運んであるはず」
サッチャンと歩、星野に一斉にツッコミを入れられる。
「最初から泊る予定だったの? 聞いていないんだけど」
「一日で解決するわけないじゃない。大丈夫? 総ちゃん」
「だって、サクッと戦って帰ってくるだけだって思っていたんだから、仕方ないじゃん」
ってことは、オレはしばらくここで暮らすことになるのか?
「いいから、買い物行くぞ。ほら、おやつとか買ってやるからさ」
「そんなもの売っていないから」
「は? そんなもの?」
「おやつって、お菓子とかだろ? 売ってないって」
口をとがらせながら星野が言ってくる。
道中を思い出す。
途中から道なき荒野を走ってきた。
物流が途絶えているのか?
「総一郎さん、それにもう時間が時間ですし」
「そうだな。星野、食事はできるか?」
「それなら、食堂を案内する」
案内された食堂では数人が食事をしており、オレたちが入ると奇異な目を向けてきた。
星野と同じようにトレイを取って、受け取り口にトレイを出す。
この食堂にはメニューがなく、誰もが同じものを食べるようだ。
トレイに乗せられたのはポークステーキとスープとパン。
十分な量があり、食料に困っているわけではないことが伺える。
「生肉ってもらえるか? 4kgほど融通してくれると助かるんだが」
オレの頭に乗っているナツキを指さすと、星野が厨房に頼んでくれて、大きなボウルに入った肉塊を渡してくれた。
「うまいな、この肉」
ポークステーキは柔らかく、肉の甘みと旨味のバランスが絶妙で、脂身も嫌な感じがしない。
これは、塩コショウが正解だな。
ナツキもすごい勢いで生肉にかじりついている。
「北は畜産が盛んで豚だけじゃなく、ほかのお肉も美味しいですよ」
歩が上品にナイフとフォークを使いながら、ステーキを口に入れる。
「このパンも美味しいよね。やっぱり小麦がちがうのかな?」
サッチャンが半分に割ったプチフランスへバターを塗り頬張る。
星野は黙々と食事を続けている。
「星野も学生だろ、いつでもオレたちと同行できないんじゃないのか?」
「そうだけど、玄川会長の命令だし……」
「学生は学業優先だ! オレたちがお前の授業について行くから手続きよろしくな」
「でも……いいの?」
「いいもなにも、そのために星野が残されたんだろ?」
「なんか調子が狂うんだけど……」
二枚目のポークステーキは醤油で食べたが、これもうまかった。
本番は明日からか……。




