第5話 制圧完了したら胸の谷間があった
「いつまで隠れているつもりですか? 出てきてくれないと話し合いもできませんよ?」
天に響くような声が聞こえてきた。
5人の真ん中に立っている男が喋っているようだ。
彼らは門らしきところに並んだまま、動くつもりはないらしい。
「そう言われてもな、出たら撃たれるんだろ?」
「撃たれるって!」
「グルルル!」
「出てこないなら、次の手を打たせてもらいます」
男が手を頭上に上げ、大きく一回転させた。何かの合図だろう。
何が起きるかと様子を見ていると、城壁の上に小さな黒い物体が浮遊するのが見えた。
その黒い物体は数を増やし、上空にとどまっている。
「あれってドローンだよな?」
「そうだね。10機以上はありそうだよ」
「どんどん増えているぞ。武装タイプのドローンだとして、あの大きさだと自爆型だよな。サッチャン、迎撃できない?」
「スリングショットは持ってるから出来るよ。まかせて」
「ナツキに迎撃は難しそうだから、ちゃんと逃げろよ」
「グルルル!」
「えっ、迎撃できるの? あれ、爆発するよ、危ないからね!」
「シュー、シュー!」
「そうまで言うなら、いいけど。命大事にだよ!」
「パフ」
「ねえ、総ちゃんって、ナツキの言ってることわかるの?」
「わかるわけないじゃん。でも、鳴き声と表情で伝えたいことは感じるぞ」
話しながら、足元に落ちている手頃な小石を選んでスーツのポケットへ入れていく。
「借りるぞ」
そう言って、サッチャンの腰からサバイバルナイフを1本抜いて、自分のベルトに括り付ける。
「オレが飛び出しても追ってくるなよ。おまえたちはここで援護、危なくなったら逃げろ。OK?」
「何言ってるの?」
「グルル?」
軽く腰を沈めて、門に向かって飛び出した。
一気にトップスピードまで速度を上げて走るが、革靴では思っているほど速く走れなかった。
サイドステップとストップアンドダッシュを不規則に繰り返す。これで狙撃は回避できる。
前方上空で空が光ると爆音が轟いた。
いつの間にか近寄ってきていたドローンが四散する。
ドローンの破片を大きくかわしながら、ちらりと後ろを見るとスリングショットを構えたサッチャンがサムズアップしていた。
前を向くと爆煙を抜けてきたドローンが近接していた。サッチャンの位置からは狙えないな。
ポケットから数個の小石を出して、プロペラを狙って投げつけると、ドローンはバランスを崩し落下する。
ドローンが光る。自爆の予兆だ。
咄嗟に横へ飛ぶが、距離が近い。
オレとドローンの間で別の光が生じた。
そこには爆発からオレを守るように巨大なホワイトタイガーが立っていた。
「ナツキ! 大丈夫か? 怪我していないか?」
「ウォーン!」
ナツキは雄叫びを上げると、3mほどの高さでホバリングしていたドローンへ飛び掛かり、前脚とシッポを使って叩き落した。
ドローンは連鎖爆発を起こし、爆煙が視界をふさぐ。
上空で何度も轟音が響き、破片が雨のように降ってきた。
進む方向を見失って立ち尽くしていると、尻を柔らかいもので突かれた。
振り返ろうとすると、股の間をすくわれて持ち上げられる。
「ナツキか?」
「パフ!」
ナツキの背中に乗せられたオレはナツキの体を見回して、怪我をしていないか確認する。
怪我どころか焦げ跡ひとつなくて、胸をなでおろす。
「おまえ、頑丈だな!」
ナツキの背中に抱き着いて、撫でまわす。
「パフ、パフ」
「あいつらの場所わかるか? 一気に走りこんでくれると助かる」
「グルル」
ナツキはのどを鳴らすと、すごい速度で走り出した。
振り落とされないように、背中に体全体でしがみつく。
数瞬で5人の姿が目に入る。
「真ん中の奴はオレの獲物な! 残り4人はナツキに任せていいか?」
「シュー!」
「殺しちゃだめだぞ、動けなくするだけでいいからな」
「……グルルルル」
不満そうな鳴き声だったが、理解してくれたようだ。
ナツキの背中で体を起こし、後へ飛ぶ。
体が宙に浮き、ナツキが股の間を走り抜ける。
「行っけ! ナツキ!」
ナツキは5人を飛び越え、着地同時にシッポを一振りする。
左側の2人が音もなくなぎ倒されて転がった。もがいているが起き上がってこられないようだ。
ナツキは素早く振り向くと、後ろ足で立ち右側の2人にのしかかった。
その2人はジタバタすることもなく、意識を飛ばしたようだ。死んでいないよな?
ナツキから飛び降りたオレは、真ん中の男の1m手前で足を止めてサバイバルナイフを抜く。
左上から飛んできた弾丸をサバイバルナイフではじく。
まあ、予想通り。オレでもそうする。
「チェックメイトだ! 攻撃をやめさせろ!」
ナイフを男の鼻先に突きつける。
「ちっ!」
男が両手を上げると、一斉に銃声が鳴った。
男の首元に手をかけ、叩きつけるように引き倒し、オレも地面に倒れこむように伏せる。
ぶつかり合った衝撃で、男のワイシャツのボタンが弾け飛んだ。
体の僅か上を通り抜けた弾丸が土をえぐる。
「やりすぎだ! いい加減にしろ、ボケが!」
怒鳴りつけながら、男を引き起こす。
「……だって」
「だってじゃない! 自分の命まで掛けることじゃないだろうが! 今すぐやめさせろ!」
男はスマホを取り出し、操作すると小さな声でつぶやいた。
「戦闘中止。作戦は失敗した、直ちに撤収」
握った襟元を見ると、胸の谷間が覗いていた。
「おまえ、女だったの?」




