第4話 独立国家ウロボロス学園
「ここからだと、学園までどれくらいかかるの?」
「半日くらいかな。キャンプの時は日の出とともに学園を出て、夕方にはここに着いていたよ」
「じゃあ、今日はここで野宿して明日の日の出とともに出発だな」
「お腹すいたから帰りたいよ!」
「携帯食とかあるんだろ?」
「シリアルバーが2本。明日の夜までこれだけ」
「狩りでもするか?」
「食べられる獣に出会える可能性あるかな?」
「そこの泉で魚を捕るとか?」
「水を汲んでいるときに魚を見た?」
ナツキがすねのあたりを叩いてくるので、抱き上げた。
「ナツキは学園の場所わかるか?」
「シュー!」
ナツキが腕から飛び降りて、シッポをフリフリしながら森の中へ歩いていく。
こっちを振り向いて「ニャー」と鳴いた。
サッチャンと顔を見合わせ、ナツキの後に続いて森へ入った。
ほどなくして、日が沈み、森の中は暗闇に支配された。
空を見上げても枝葉で遮られ、星は見えず。わずかに月の光が差し込むだけだ。
「懐中電灯、点けないのか?」
「あるよ。点けてもいいけど、私が離れてからにしてよね」
オレに懐中電灯を渡したサッチャンがオレから離れていくと、暗闇に紛れて見えなくなった。
「LEDの光には虫は寄ってこないんだろ?」
「やってみればわかるから!」
懐中電灯を点けて、サッチャンの声がした方を照らす。
「総ちゃんのバカ! 何するのよ!」
サッチャンが懐中電灯の光から必死に逃げるものだから、楽しくなってきて光で追いかける。
光から逃れたサッチャンが消えたと思ったら、右肩に衝撃を受けた。
後ろの木の幹へ体を打ち付け、懐中電灯が手から離れる。
地面に落ちた懐中電灯へ、拳大のシルエットを持つ甲虫が激突した。
懐中電灯がはじけ飛び、光が消失する。
「サッチャン、あれ何?」
「カブトムシ」
「うそでしょ?」
「見たでしょ? 総ちゃん、死んじゃうよ?」
「え、助けてくれたの? ありがとう。サッチャン!」
あの砲弾みたいなカブトムシに突撃されたら、冗談抜きで死ぬ。
何なんだこの島。生き物が全部規格外なのか?
でも、猿は普通の大きさじゃなかったか?
お礼を言おうと、暗闇の中でサッチャンを抱きしめようとしたら、ひらりとかわされた。
「あの、総ちゃん……ナツキちゃんが……」
「えっ?」
いつの間にかナツキが、オレとサッチャンの間で唸っていた。
「あー、ナツキ。あれだ……サッチャンは命の恩人。だから、感謝のハグだからさ、ね?」
「プシュ……」
「いやいや、同意のないハグはセクハラだよ! そ、それに汗臭いし!」
「そうだな、オレって臭いよな……」
「わ、私が汗臭いから……。その、恥ずかしいよ!」
「サッチャンはいい匂いだよ?」
「バカなの? 総ちゃんはバカなの? もう、バカ!」
ナツキがシッポを鞭のようにしならせて、向こうずねを一撃してきた。
「ナツキは学園に着いたら、風呂に入ろうな?」
飛びついたナツキに、今度は顔を引っかかれた。
「総ちゃんは反省した方がいいよ!」
サッチャンとナツキが並んで歩き出したので、見失わないように黙って追いかける。
オレ、何かしたか?
黙々と歩いていると、空が白み始めた頃、遠くに城壁のようなものが見えてきた。
ここまで獣に遭遇することはなかった。
ナツキが何度か咆哮を上げていたから、あれで獣たちは逃げて行ったのだろう。
「お待ちかねの第二ステージが始まりそうだよ」
「あれって学園でしょ? 到着したんだよね?」
「だから、戦闘になるんだよ」
「オレって、そんなに嫌われているの? 帰っていい?」
「前の学園長が更迭されてから、間もなく派遣された学園長だから忌避されているんだよ」
「前の学園長って、何やったんだよ?」
声で気づかれたのか、城壁の上から矢が飛んできて、数メートル先に突き刺さる。
距離を測られたな。
ナツキを胸に抱き、サッチャンの手を引いて大きな木の幹へ姿を隠した。
刹那の後、乾いた破裂音が遠くに聞こえた。狙撃されている。
「サッチャン、学園って勉強するところじゃないのかな? なんで、銃で撃たれているの?」
「戦闘技術と銃火器の使用は必須科目だからね」
「この国って、戦争のない平和な国じゃなかった?」
「へっ? ここは独立国家だよ。何言ってるの?」
「ここ、どこなの?」
「独立国家ウロボロス学園だよ? 知っていて来たんでしょ」
「……マジか。知らないぞ、そんな国」
あの三つ揃いのスーツを着た男の顔を思い出す。
完全にはめられた。
「……帰りの飛行機はどこから乗れるのかな?」
「飛行場は学園の中だね」
結局はあの城壁の中に入らなければ生き残れないってことか。
中に入ったとしても間違いなく命を狙われるってことだよな。
これって、勝ち筋がないんじゃないか?
「確認なんだけど……。実はサッチャンもあっち側で、オレの命を狙っていたりしない?」
「総ちゃん側ですよ。お仕事ですし」
「仕事だからか……」
「だ、だって……。そんな言い方しなくても……。いいですよ! 私が門を開けてくればいいんだよね!」
サッチャンが飛び出そうとするのを、肩を掴んで止める。
銃声が聞こえて、サッチャンを引き倒すと、銃弾がオレの髪をかすめて後ろの木の幹に着弾した。
サッチャンを抱きかかえ、木の幹へ隠れる。
「わかったから、落ち着け!」
サッチャンをなだめていると、城壁の一部が開き、ブレザー姿の5人の人影が現れた。




