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拉致られたら学園長になっていた  作者: 津山直太
就職活動中に拉致される

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第3話 森のボスにデレられた

 1時間ほど歩くと開けた場所があり、中央に泉が見えた。


「サッチャン、あそこの水って飲めるの?」

「飲めなかったら来ないよ。キャンプ中に何度もお世話になっているから大丈夫」


「こんなところでキャンプ! サッチャンは何者?」

「私は学園長の補佐だよ、聞いていない?」


「サッチャンってオレの補佐ってこと?」

「無事に学園に辿り着ければね」


「でさ、あの泉に大きな白いトラがいるんだけど、帰った方がよくない?」

「この辺のボスですよ。ちょっと行ってくるね」


 サッチャンは小走りで大きなホワイトタイガーへ近づいていく。

 

 ホワイトタイガーの体高はサッチャンの身長と同じくらいあった。

 体長は3メートル近くあるんじゃないだろうか。


 少し遅れて、オレはサッチャンを追いかける。


「なあ、危なくないのか?」

「水を分けてもらうんだから、仁義って必要でしょ?」


「オレに対する言葉遣いから仁義は感じないけど?」

「だって、総ちゃんはまだ学園長じゃないし〜」


「オレ、契約書にサインしたよ」

「うそ、仮採用じゃないの! け、敬語にした方がいいだすか?」


「好きにしてくれ。今更だし」


 話していると、ホワイトタイガーから2メートルも離れていない所に来ていて、慌てて立ち止まる。

 ホワイトタイガーはオレたちに興味なさげで、泉の水を舐めている。

 サッチャンがさらに一歩前に出ると、ホワイトタイガーの顔が向けられた。


 ホワイトタイガーが口を開け、大きな牙が見えた瞬間。

 咄嗟にサッチャンへ後ろから抱きついた。


 サッチャンと体を入れ替えようと足を踏ん張る。

 上体をひねって、サッチャンを逃がすように押し出すと、肩にずっしりとした重みを感じた。


 おそるおそる首を回すと、肩にホワイトタイガーの前脚があり、すぐ後ろに顔があった。

 

 トラの表情なんかはわからないが、少し笑っているような気がした。

 胆力を込めて前脚をよけ、ホワイトタイガーへ向き直る。


 逃げるならサッチャンと逆方向だなと、腰を沈めて横っ飛びする準備をする。

 今まさにジャンプをしようとしたところで――大きな舌に顔を舐め上げられた。


 荒いやすりでこすられたような痛みを感じて、顔をそむける。


 顔を向けた先にいたサッチャンは、ポケっとして立ち尽くしている。

 逃げろよな! と思ったが声を出すことができず、ホワイトタイガーの気を引くため、改めて目を合わせる。

 

 トラの瞳孔って丸なんだな。ネコとは違う。

 そんなことを考えていると、前脚で胸を押されて尻もちをついた。


 やばいと思って転がろうとするが、一瞬早く足を乗せられ、動きを封じられる。

 ホワイトタイガーの顔が寄ってきて、また舐められた。


「痛いって! バカ、顔が削れるだろ!」

「パフ?」


「おまえの舌、やすりみたいにザラザラなんだよ!」

「シュー」


 ホワイトタイガーは頭を持ち上げると、今度は鼻を擦り付けてきた。

 なんだか、デッカイネコに見えてきて首のあたりをワシャワシャと撫でてやる。


「そろそろ起きたいんだけど、満足したらどいてくれないか?」


 ホワイトタイガーは一度、目を合わせると、オレの体中に顔をこすりつけてから離れてくれた。


「おまえ、人の言葉がわかるのか?」

「パフ」


「水をもらいたいんだけど、いいか?」

「シュー」


「サッチャン、なんか水を汲んでもいいみたいだぞ」

「総ちゃんって、何者なの?」


「就職に失敗して罠にはめられ、危険な森へ連れてこられたイケメン?」

「聞いた私がバカだったよ」


 オレたちは互いのペットボトルの水を飲み干し、それでも足りなくて、泉の水をがぶ飲みした。

 その後、ペットボトルに水を汲み、サッチャンのデイパックへ収納した。


 ホワイトタイガーはオレの周りをウロウロしながら、しきりに体を擦り付けてくる。


「総ちゃんが確実にマーキングされている」

「やっぱりそう思う?」


「この子メスでしょ?」

「だとしても、さすがに覗いて確認するわけにもいかないだろ」


「あーそうだ! さっき、私を投げようとしたときにおっぱい揉んだよね?」

「はぁ? 何言ってるんだよ! ちょっと軽く握っただけだろ? 不可抗力だぞ」


「揉んだことには変わりないから! 責任取ってよね!」

「何の責任だよ? 嫁にでもなりたいのか?」

「グルルルル!」


 ホワイトタイガーがサッチャンに向かって牙を見せる。


「違うから! 嫁の座は狙っていないから!」

「グルル!」


 サッチャンが土下座して、ホワイトタイガーに頭を下げていた。


「こいつに名前つけてやらないとな。シロ? タマ? ポチ?」

「……グルルル」


「うーん。ナツキとか?」

「シュー」


「よし! じゃあ、ナツキ。オレたちそろそろ行くからさ、一緒に来る?」

「パフ?」


「えーとな、学園ってところに行くんだよ。せっかく知り合ったし、一緒に来ないか?」

「何言ってるの? 総ちゃん、学園でこんなに大きなトラなんか飼えないよ!」


「学園って広いんだろ? 学園長権限でどうにかならない?」

「どうにもならないよ!」


「こんなになついているし、置いていけないだろ?」

「勝手についてきそうだよね」


「ナツキ、小さくなれないか?」

「なにをバカな――」


 ナツキが一瞬光ると、そこには両手でラグビーボールくらいの小さなネコがいた。

 ネコを抱き上げて、よく見ると瞳孔が丸い。間違いなく、ナツキだな。


「サッチャン、これならいいか?」

「……も、問題ないよ。問題だらけだけど……」

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