第29話 はめられたのはオレか
「芹佳、ドローンはいつもの屋上に誘導しておいてくれ」
そういって、スーツの上着を着なおし、胸のポケットにスマホをしまった。
ドローンはゆっくりと浮上すると北の方角へ飛んで行った。
装甲車の方を見ると、サッチャンと星野が窓にべったりと張り付き、こちらを見ている。
芹佳が指した遠くにある岩を警戒しながら、運転席に乗る。
「総ちゃん、どうなっているの?」
「ドローンはハッキングして、北の学舎へ送った。詳しいことはまた今度な。あー、2機は回収して持って帰らなくちゃだな……」
「総ちゃん、何を隠しているのかな?」
「隠していないぞ、話すと長くなりそうで面倒だから黙っているだけだ」
「それを隠し事って言うんだよ!」
「一応説明しただろ。スマホが劇的にバージョンアップしたって。今はここまでだ」
車の窓から、岩を観察しているが全く動きがない。
「なあ、サッチャン。オレたちが中央から北に向かっているときに、あんな岩ってあったか?」
少し遠くの岩を指さす。
「どうだろ? この辺って、ずっとこんな景色だから覚えていないよ」
「そうだよな。オレも覚えていないもんな」
オレは装甲車のエンジンをかけ、岩に向かって発車した。
「ドローンの操作はあの岩の方から行われていたらしいんだよな。あの岩、怪しいだろ」
「そういわれると、怪しい」
助手席の星野が相槌を打ってくれる。
数分ほど車を走らせると、岩の前についた。
幅5m、高さ5mほどのコロンとした岩だ。
車が止まると同時にサッチャンが降りて、岩をくるっと周って戻ってきた。
「入口らしきところもないし、人の気配もしないよ」
「了解。さて、お前たちは予定通り中央へ向かえ。何かあったら、遠慮なく電話するんだぞ。バッテリー切れているかもとかは電話してから考えろ」
「でも、この辺を調査するんじゃないの?」
「じき玄川が到着するから、奴にやらせる。玄川がついたら「みどり」って叫びまくって、出発できなくなるぞ」
「それは困る。お兄ちゃん、わたしたち行くよ」
オレは運転席をサッチャンへ明け渡し、ドームのような岩へもたれかかった。
「玄川はどれくらいで着きそうだ」
小声で芹佳に問いかける。
「予測だと、1時間半くらいかしら」
芹佳も小声で答える。
装甲車の窓が開き、星野が顔を出す。
「おにいちゃん、ありがとね。助かったよ、向こうに着いたら連絡するね」
「ああ、連絡待っているぞ」
星野が顔を引っ込め窓が閉まると、クラクションが2回鳴り、装甲車は走り出した。
「さて、芹佳。この岩って本物か?」
「本物のフェイクね」
「入り口はどこだろうな」
「どこでしょうね?」
「いや、どこか探せよ。何かのセンサーで探せるんだろ?」
「やってるわよ! 岩の周りをクルクルっと回りなさいよ。少しずつ、岩から離れるようにしてね」
「了解」
ペタペタと岩を触りながら、一周した後、蚊取り線香のように渦を巻きながらゆっくりと歩く。
頭のナツキはピクリとも動かないが、しっかりと頭にしがみついていて、落ちることはなさそうだ。
5mほど岩から離れたところで、胸ポケットのスマホが振動した。
「どうした芹佳」
「爆発するみたい」
「何が?」
「岩が?」
岩を見ると無数のひび割れが生じていた。
右手で胸ポケットのスマホを抜き取り、左手で頭のナツキを掴む。
両手を腹の下にして、地面に伏せた。
地を揺らすような振動と、耳を貫くような轟音が響く。
少し遅れて、体中に打撃と刺さるような痛みが駆け巡る。
頭にも衝撃を受け、一瞬、意識が朦朧とする。
あまりの痛みにうめき声さえ出ない。
おびき出されたのはオレの方か? 畜生が!
腹の下のナツキが暴れるが外へ出ないように抑え込む。
土砂降りのような岩のつぶてが止み、意識が途切れた。
♢♢
「学園長! 学園長!」
体が激しく揺さぶられ、野太い叫び声で覚醒する。
「玄川、けが人は揺らすな。お前、オレに止めを刺そうとしているか?」
「生きてる? 大丈夫ですか、学園長」
「言いたいことは山ほどあるが、とりあえず離せ……」
玄川は掴んでいた肩を放し、少しだけ距離を開けた。
すかさずナツキが寄ってきて、顔を舐め始める。
「玄川、オレの出血はどうなってる。負傷が背中側で状況がわからん。報告しろ」
「は、はい。少し血はにじんでいますが、流血はありません」
「そうか、頭は運よく大丈夫そうだ。打撲と……骨折は」
足先から腕まで、関節を動かしていく。
「折れてはいないようだな。だが、動くのは無理そうだ。うっ」
起き上がろうとしたところで、激痛が走り力が抜ける。
「玄川。ドローンは制圧した。サッチャンと星野は中央へ向かった。これ以上の攻撃は無いはずだ。オレは少し寝る。北の学舎まで運んでくれ」
オレは再び意識を手放した。
「ニャー」というナツキの悲しそうな鳴き声が聞こえた気がした。




