第28話 状況終了よ ――顔があったらドヤ顔だろうな
「ナツキ、あの落ちたやつを取ってこれるか?」
「ニャン」
ナツキはすぐさま飛び出して、ドローン一機を咥えて戻ってきた。
早すぎないか? ウィンチェスターを準備する間もなかった。
てっきり、ドローンのセンサーに捉えられて、ドローンを引き連れてくると思ったんだが……。
「芹佳、このドローンでハッキングの解析はできるよな?」
シャツのボタンを外し、中に入れていた芹佳を取り出し、ドローンの上に置く。
「30分、いや20分もらえるかしら」
「了解。ナツキは芹佳が解析している間、護衛をしてくれ」
「ニャ」
オレはウィンチェスターのスコープを覗き込み、サッチャンを探す。
予想通りであれば……。
軽装甲機動車のタイヤの間をしばらく見ていると、小さな手が石を掴み取る様子が確認できた。
思った通りの場所にいたな。これで、一安心だ。
軽装甲機動車の上空でホバリングしていたドローンが散開し始めた。
一機落とされたのだから、索敵に動くよな。
ドローンを操作している奴は目視の範囲には……いないな。
壊すだけなら簡単なんだけどな。
そんなことを考えながら、オレは軽装甲機動車へ向かって駆けだした。
一台のドローンがオレを感知し、銃身をこちらへ向けてきた。
ほかの4機の位置をざっと確認して、オレを狙い始めたドローンの真下へ駆けこむ。
真下のオレを狙おうとしたドローンは、銃口を真下へ向けようとして、上昇を始めた。
それにつられるように、ほかの4機も上昇していく。
50mほどの高さまで上がったドローンが右往左往を始めた。
どうやら、距離が離れすぎてセンサーで感知できなくなったようだ。
状況を察知したのか、サッチャンが車の下から顔を覗かせていた。
叫びそうになって、両手で口を押さえている。
音声センサーは積んでいないと思うんだがな。
徐々にドローンが下がってきたのを見て、一気に軽装甲機動車まで駆け寄る。
サッチャンを車の下から引きずり出して、後部座席へ放り込み、オレも乗り込む。
「総ちゃん、どうやって来たの?」
「ナツキに乗ってきた。怪我していないか? 星野も」
助手席から体を乗り出してきた星野は、泣きそうな顔をしていた。
「お兄ちゃん、怖かったよ! 土砂降りみたいな銃撃をされて、死ぬかと思った!」
「あの機体の大きさなら、反動の大きな銃は載せられないから、助かったな」
「それでも、ピンポイントで狙い撃ちされると危ないから、わたしが外に出たんだ」
「ああ、そうだな。サッチャンのナイスプレイだ」
窓から外を確認すると、地上から3mほどの高さまでドローンが降りてきていた。
銃撃音が聞こえ、天井から弾丸をはじく音が聞こえた。
「あのドローンはハッキングして、こっちのものにする。というか、元々オレが呼んだんだけどな」
「途中で乗っ取られたってこと?」
「それはなさそうだ。状況からドローンを操作している奴がいる。多分、中央にいる厄介者だ。そろそろ、ハッキングの準備ができる時間だから、オレは行くぞ」
「わたしたちは、何をすればいいかな?」
「車の中で大人しくしていろ。お前らの出番は中央へ着いてからだ」
軽装甲機動車のドアを薄く開けて、天井へ飛び乗り、その勢いでジャンプする。
一瞬だけドローンよりも高い位置になる。
ドローンたちは銃口を上に向けられず、銃身がほぼ水平のままで発砲した。
射出された弾丸は、向かい側にいたドローンを直撃した。
「うそだろ。壊さないように、気を付けていたのに、勝手に壊しあうなよ!」
落下に合わせて、軽装甲機動車の天井を力いっぱい蹴り、ドローンの包囲から離脱する。
元いた場所の方を見ると、白黒の獣がすごい勢いで迫ってきていた。
「ナツキ! 芹佳を投げろ!」
ナツキが急停止し、長い尻尾の先に巻き付けていたスマホを矢のように飛ばす。
「え? 速くない……」
どうやって受け取ろうかと一瞬迷い、スーツの上着を脱いで、闘牛士のようにそれを構えた。
スマホは岩をも貫通するような勢いだったが、スーツの上着に追突すると勢いを弱め、スーツに包まれながら軽装甲機動車の近くに転がった。
「芹佳、いけるか?」
「もう終わったわよ。マスター」
「はい?」
「計算通りよ。ナツキを見つけたマスターが投げろと叫ぶ。手で受け取れないと察したマスターがスーツの上着を広げる。わたしがスーツをクッションにして、車の近くに転がって、その一瞬でハッキング。状況終了よ」
「……訓練じゃないんだがな。まぁ、いい。そのドローンはもう芹佳の言うこと聞くんだよな」
「わたしの言うことしか聞かないわね」
装甲車まで歩いて行って、スマホを拾いあげていると、いつもの子猫に戻ったナツキが頭の上に乗ってきた。
「ナツキ、お疲れ、ありがとな」
ナツキをなでると「ニャー」と鳴いて、寝息を立て始めた。相当疲れたらしい。
となると、することは。
「芹佳、ドローンを操作していたやつらは見つけられないか?」
「方向しか分からないわよ。あっち」
スマホのディスプレイに示された矢印の先には、大きな岩が一つ転がっていた。




