第27話 狙撃――ナツキの全速力
「歩、深呼吸。ハイ吸って、ゆっくり吐く」
「スー……。ハーー」
電話の向こうから、玄川の怒鳴り声も聞こえる。
「それで何があった? 端的に伝えろ」
「西園寺さんとみどりちゃんが、ドローンに攻撃を受けています。ドローンは中央から呼び寄せたものだと思われます」
オレは電話をしながら、エレベーターに向かって走り出す。
オレの行き先を察してか、ナツキがオレより前へ出て先行する。
「サッチャンたちは装甲車で移動しているんだよな。連絡は誰から来た?」
「はい、装甲車で間違いありません。連絡はみどりちゃんからです。総一郎さんのスマホは電源が入らないって言っていたんですけど」
ちっ、芹佳が気を利かして起動しないふりしていたからな。
「スマホは問題ない。今から下に降りる。車は用意できるか?」
「ニャン!」
ナツキが前脚でオレの足を強く叩く。
「いや、車はいい。ドローンの武器はわかるか?」
「マシンガンだと思います。ゴム弾か実弾かはわかりません」
「状況は?」
「西園寺さんが装甲車の外に出て、戻れなくなっているようです。みどりちゃんは装甲車の中で動けないようです」
星野は近接特化型だから飛び道具は持っていないか。
サッチャンはスリングショットを持っているはずだが。
「なあ、歩。ドローンは何機呼んだんだ?」
「え? 2機ですけど」
「星野に機数を確認させろ」
エレベーターが一階に着き、ドアが開くと、歩と玄川が険しい顔をして立っていた。
「総一郎さん、ドローンは6機いるそうです」
「だとしたら、サッチャンは反撃できずに逃げ回っているってところか」
「学園長、俺も行く。車は用意した」
エントランスの外を見ると、装輪戦車が止まっていた。
あれじゃ、ドローンは撃ち落とせないだろ。
射程のある武器が欲しいな。
「玄川、狙撃できる銃はないのか?」
「ウィンチェスターなら一挺だけ――」
「すぐ持って来い! 弾丸を忘れるなよ!」
オレの剣幕に玄川が走り出す。
「歩、接敵してからどれくらいたつ?」
「みどりちゃんから電話が入って、すぐに総一郎さんへ電話したので……5分くらいかと」
サッチャンが出て行ってから約3時間だとして、現場までは250キロってとこか。
サッチャンの体力を考えると1時間はもたないよな。
新幹線並みで走れってことか。
「歩、ヘルメットとかある? シールド付きね」
「一応、標準装備品の中にありますけど」
「持ってきてくれ」
「わかりました」
歩が玄川と同じ方向へ走って行った。
「さて、ナツキ。全力疾走してもらうけど、落とさないでくれよ」
「ニャー!」
「目的地まで250キロ、時速333キロくらいで走れるか? ってわかんないよな」
「シャーッ」
「えっ? わかるの?」
ナツキが頭を縦に振る。
「マスター。この子、時速350キロくらいまで行くわよ」
「マジか。でも、ギリギリかも知れないな……」
「芹佳、おまえドローンをハッキングとかできないの?」
「このスマホの出力じゃ、かなり近寄らないと無理よ」
「近接した場合、どれくらいで乗っ取れる?」
「1台目は30秒くらいかしら。2台目以降は一瞬よ」
オレは頭の中でシミュレーションしながら、ゆっくりと学舎の外へ向かった。
外に出るとすぐに、ナツキが巨大化する。
そのフォルムは小さめの頭に細い体躯で、チーターを大型化したようなものだった。
伏せをしたナツキに跨って、歩と玄川を待つ。
「なあ芹佳、サッチャンを襲っているドローンって自立型だと思うか?」
「リモートかセミオートじゃないかしら。時間的にターゲットを特定した自立型とは思えないわね」
「あの時と同じ技術って可能性が高いのか。なるほど」
走ってくる歩と玄川が見えた。
玄川から、ずっしりと重いウィンチェスターを受け取る。
使い込まれた木製ストックと、鉄の重厚感。オレは手慣れた手つきで機関部を点検し、安全装置がかかっていることを確認する。その淀みのない動作に、玄川が一瞬、驚いたように目を見張った。
かかとでナツキに合図をすると、音もなく立ち上がった。
スマホを落とさないように、首元からシャツの中へ入れる。
歩から受け取ったヘルメットを被り、あご紐をしっかりと締めた。
ウィンチェスターは迷った挙句、背中に差し込んだ。
「玄川、オレは先に行く。歩はここで最悪に備えろ」
ナツキの体に密着するように体を伏せると、縛り付けるように黒白の毛が伸びてきた。
これで落ちることはなさそうだ。
「ナツキ、任せた。全速力で走れ!」
そう言うと同時に、一気に景色が後ろへ流れた。
風を切る音がヘルメット越しにうるさく、凄まじい風圧で顔を上げることもできなくなる。
これがナツキの全速力か。すごいな。
どれくらい経っただろう。
地を傷つけるように走っていたナツキが速度を緩め、ピタリと止まった。
顔を上げて空を仰ぐと、6つの小さな点がうごめいていた。
「芹佳、時間は?」
「45分で着いたわ」
「上々だ。とりあえず、一機落とすぞ」
ナツキから降り、背中からウィンチェスターを引き抜く。
オレは手慣れた動作でレバーを押し下げ、ガシャリと小気味よい金属音を響かせて薬室に弾丸を送り込んだ。
膝立ちになり銃を構える。
スコープにドローンを捉えたまま、ゆっくりと風を感じる。
深く息を吸い、半分ほど吐いたところで、ピタリと息を止めた。
静寂を感じながら、ゆっくりと引き金を引く。
意識の外で射出された弾丸がドローンの機関部を破壊し、ドローンは螺旋を描きながら墜落した。
なんとか、間に合ったかな。




