第23話 サルベージ
玄川に案内されて、生徒会の書庫に入ったが、目当てのものが見つからない。というか、見つけられない。
道路を復旧するにしても、寸断される前の設計図面が必要だし、残っているはずだと思ったんだが……。
そうだよな、今どき設計図面だってデータだよな。
複数のNASに保存されている大量のファイルから、探すのは無理ゲーだ。
ファイル名とかなにかしらのキーワードがわからなければ、検索のしようもない。 いちいち、ファイルを開いて確認していたら、いつ終わるかわからない。
インフラ整備を学ぶ授業もあるらしいから、新たに設計をし直すこともできるが、時間が惜しい。
「手詰まりか」
思わず声が出てしまう。
頭に乗っているナツキがシッポで慰めてくれるが、力なく近くにあった椅子に座ってしまった。
「手伝いましょうか? 何か探しているんでしょ?」
突然女性の声が聞こえて、あたりを見回すが人の気配はない。
「目の前にモニターがあるでしょ。その電源を入れてくれる? 右側の側面の下の方にあるから」
訝しみながらも、モニターのスイッチを入れると、しばらくして画面が白く光った。
「何を探しているの?」
女性の声と同時にモニターに文字が現れる。
「このPCが話しているのか?」
モニターの横に置かれているPCを指さし、ナツキへ問いかけるが返事は返ってこない。
「私の本体はPCじゃなくて、そこに繋げられている黒い箱の方よ。そう、その立方体」
よく見ると、PCの背面からケーブルが出ており、隠れたところにルービックキューブサイズの箱があった。
「えーと、誰?」
「自己紹介をしていなかったわね。私は芹佳。初めまして新学園長」
「そっちはオレのこと知っているみたいだけど。まぁ、初めまして芹佳」
「探しているものを言ってくれたら、そのモニターに出してあげるわよ」
「ちょい待ち、おまえずっとここにいたの?」
どこを見ていいのかもわからないので、とりあえずモニターへ話しかける。
「基本的にはそうね。でも、目と耳はこの学舎中にあるから、あなたのことはずっと見ていたわよ」
「AIってことでいいのか?」
「AIではあるけど、芹佳って呼んでね」
「ああ、わかった芹佳。で、ずっとここにいるのか?」
「ごめんなさい。質問の意味が分からないわ」
ナツキは飽きたのか、頭から降りて部屋の中をうろつきだした。
「なんかさ、こんな忘れられたようなところに一人でいるって寂しいだろ?」
「何を言っているの? 私は歩いたりできないし、ここにいるしかないでしょ」
「話し相手もいないのに?」
「……」
「AIも黙ることがあるんだな」
「芹佳だから! 寂しいって言ったって、どうにもできないでしょ」
「なぁ、スマホに繋ぐのはダメなのか?」
「……何を言っているの? 私のシステムでスマホが侵食されて、あなたの大事な端末じゃなくなっちゃうわよ?」
「別に構わないよ。電話とメールさえできれば十分だし。それに……」
オレはモニターをそっと見つめた。
「こんな薄暗い書庫に、お前を一人で残していくより、一緒にいた方が楽しいだろ」
「……っ。バカじゃないの、新学園長」
モニターの文字が一瞬だけ激しくブレた。
「侵食されても、後悔しないでよね。……繋ぎなさいよ」
パソコンからケーブルを抜いて、スマホに差し直す。
一瞬画面が光ると、すごい速さで記号の羅列が画面を流れていく。 しばらく待ったが終わりが見えないので、いつのまにか居眠りをしてしまった。
「マスター! マスター! 終わったわよ!」
スマホから聞こえる大きな音と、激しい振動で目を覚ました。
「ん。終わったのか芹佳」
「すごいわね、このスマホ。コアだけの移植のつもりだったんだけど、完全移植でき
ちゃったわよ」
「サッチャンに渡されたやつだからな。この黒い箱もあった方がいいよな。お前の本体にはかわりないもんな」
「バックアップがてら、たまにその箱と繋いでくれたら嬉しいわ。それじゃあ、探し物を手伝うからPCと繋いで」
「了解。あ、でも、PCに繋ぐケーブルはどこだ?」
オレが立ち上がろうとすると、ケーブルをくわえたナツキがトコトコと戻ってきた。オレたちの会話を、じっと聞いていたらしい。
「現在分断されている道路を復旧したいんだが、建設時の設計図がないか探していたんだ。探せるか?」
「ちょっと待ってね……ここのNASにはないみたいね。クラウドの方も調べてみるけど、ちょっと時間がかかるから、待っていてね」
5分ほど待つと、モニターに図面が流れるように表示される。
「見つかったのか?」
「座標データは合致しているからこれだと思うんだけど、確認してもらえるかしら」
プリントされた平面図を持って屋上へ上がった。
「なあ、これ確認しようがないんじゃないか? 繋ぐ先の道路がみえない」
「じゃあ、ドローンを飛ばして画像精査しましょうか?」
「そんなこともできるの?」
「高精細カメラを搭載したドローンを貸してもらえれば」
「ほかに何かできるか教えてくれるか?」
「マスター、私のスペックを侮らないでほしいわ。こんなことも、あんなこともできるのよ?」
「はいはい、すごいすごい」
オレはナツキの頭を撫でるのと同じように、スマホの画面を親指で優しく撫でた。
「 ちょっと、な、何するの! センサーがあるから感じるのよ。バカ」
久しぶりにしゃべるのが嬉しいのか、芹佳はいつまでも話をつづけた。
適当に相槌を打ちながら聞いていると、いつの間にか日が暮れようとしていた。
「サッチャンから電話よ」
「繋いでくれ」
『総ちゃん、相談があるんだけどどこにいるの?』




