第21話 カレーとアイス
片付けを終えて男子寮の風呂のドアを開けると、案の定、玄川が入っていた。
「俺は水に浸かっていると体が回復するんだ」
少し間が開いて、ナツキをジッと見ていた玄川が口を開いた。
「だったら、そこの水風呂に入っていろよ。あるだろ、サウナ用のやつが」
「水風呂なんかに浸かっていたら風邪をひく」
「いや、水に浸かっていたら調子がよくなるんだろ?」
「俺は昔から風邪をひきやすいんだ」
「なんだよそれ! ほんと、めんどくさい奴だな」
ナツキの焦げはずいぶんと薄くはなったが、完全にもとの白には戻らなかった。
「ナツキ、部屋に戻ったらハサミできれいにしてやるからな。風呂ではここまでだ」
そう言うと、テトテトと歩き、いつものように湯船で泳ぎ出した。
自分の体を洗っていると、最初に玄川を蹴った左足の甲が赤く腫れていた。 仕方ないので、足がお湯につからないよう、足を出しながら風呂につかる。
「一応、サッチャンからいろいろ聞いた」
食文化研究室の後片付けをしながら、サッチャンからの調査報告を受けていた。
「学生が学園外へ定期的に送られているが、その理由は不明。道路が分断されたまま復旧されていないのは輸送路を空輸だけにするため」
「暫定的に経営側の窓口になった小松を問いただしたが、新たな学園長が来るまで保留と言われていた。だが、学園長は何も知らないようだった」
「何も知らなかったからな。今現在でも、学外に送られた学生の行方も目的も不明だしな。お前はどれくらいのことを知っているんだ」
「生徒会メンバーが小松に組していることを知ったのは、学園長が来た次の朝だ。西園寺さんに教えられて、解毒薬をもらった」
体が温まったので、風呂を出て、水風呂に左足をつけ冷やす。
「それで、体調が回復したら小松を締めようと考えていたのか? そこはまず、オレに相談とかじゃないの?」
「学園長が小松側の可能性だってあっただろ?」
玄川が気まずそうに目をそらす。
「星野はあんなに可愛いのに、おまえは可愛くないな」
「みどりが可愛いのは当たり前だろ!」
玄川が立ち上がったせいで、大きなものがオレの目の前で揺れる。 ナツキがそれに飛びつこうとして、飛び上がる。
ギョッとした玄川は慌ててしゃがみ込み、大量にお湯が押し流される。
「ナツキ、ばっちいから、それに飛びついちゃだめだぞ!」
「ニャー」
玄川はお湯につかりながら、顔を青くしていた。
「あ、主様。申し訳ありません」
体が冷えてきたので、温かい風呂の方へ移ると、ナツキが頭に乗る。
「おまえさ、星野にこの学園で久しぶりに会ったにしては、ずいぶんと溺愛している感じがするんだけど」
「みどりが生まれてから、3歳になるまで一緒だった。『おにいちゃん』って呼んで、とても懐いていた。ほんとうに可愛かった……なのに!」
「『兄さん』って呼んでもらっただろうが。医務室へも連れて行ってくれたんだろ? どうだったんだよ」
「……緊張して話せなかった」
「バカ野郎だな。手首と肘はちゃんと冷やしておけよ。これからの話は月曜からだ、準備しておけ」
そう言い残して風呂から上がり、晩飯を食べるために学食へ向かった。
◇
大盛りのカレーライスをトレイに乗せて、空いている席を探していると歩に声をかけられた。
「総一郎さん、こっちです!」
歩と星野はすでに食べ終わっていたらしく、紅茶を飲んでいるところだった。 向かいに座るサッチャンは空になった皿を2枚重ね、3杯目のカレーライスをかきこんでいる。この小さい体によく入るものだ。
「歩、お疲れさん。あいつらはどうした?」
「外からしか開けられない個室へ入ってもらいました。あ、ちゃんと食事は与えていますよ」
「その部屋は一般的に独房って言うんじゃないか?」
「中から開けられないだけで、普通の部屋ですよ。ベッドもバスルームもありますし、テレビだってついてるんです。インターネットは使えないですけど」
「まぁいいや。尋問はサッチャンに任せていいのか?」
「総ちゃん、任せて! 徹底的にやる!」
「……加減しろよ。やつらもある意味、被害者かもしれないからな」
カレーはよく煮込まれたマトンカレーで、大きな肉の塊がゴロゴロと入っていた。 しっかりとした噛み応えとコクがたまらない。米がすすむ。
「そういえば、サッチャン。あの部屋の冷蔵庫に食材が大量にあったよな」
「あったね。ここで提供されている肉野菜のほかにも海の幸やら山の幸。冷凍庫にはアイスクリームのバルクも大量にあった」
「アイス食べたい!」
「ごめん、星野。気持ちはわかるが、月曜日以降に安全性を確認してからだ」
「むー、おにいちゃんのけち」
「大丈夫だったら、学食で提供できるようにするからゆるしてくれよ」
「……わかった」
大量にはあるものの、学生全員には行き渡らない量の食材の使い方に頭を悩ませながら、オレは眠りに落ちた。




