第18話 玄川が叫んだ
「サッチャン、こっちは終わった。これから『食文化研究室』へ向かうぞ」
『小松にも連絡が入ったみたいだよ。いらいらしながら研究室へ入っていった』
「お腹すいたんだけどさ、なんか食べられるかな?」
『昨日の夜も食材は搬入されていたから、食べられるんじゃない?』
「それで、食材の代わりに生徒が乗せられて戻って行くってか?」
『小松は最後の晩餐とか言ってたよ』
「趣味悪いな!」
リヤカーに乗せていた生徒会メンバーは武道場の一つへ放り込み、歩に監視してもらうことにした。「ブランチのテイクアウト待ってますから」って言っていたので、歩も腹が減っているのだろう。
玄川と星野を引き連れ、上層階でエレベーターを降りると、ナツキを肩に乗せたサッチャンに迎えられた。ナツキがオレの頭に飛び移る。
「総ちゃん、作戦は?」
「ノープラン。だって、情報を持っているのはサッチャンでしょ? 任せる」
「小松へ伝えられているのは星野が生徒会メンバーを返り討ちにしたってことだけ。総ちゃんの活躍は伝える人がいなかったみたい」
「じゃあ、オレが星野を連れてきたって感じにする?」
「それだと、玄川は連れていけないよ」
サッチャンがじーっと玄川を見る。
「俺も行く」と玄川は譲らない。
「変装でもするか? 女装なんてどうだ!」
「何言ってるの! 総ちゃん、想像してごらんよ」
「……なしだな」
どこから出したのか、サッチャンが玄川の手首に手錠をはめ、ロープをくくりつける。
「それじゃあ、行くとするか」
食文化研究室のドアを叩くと、不機嫌な顔をした小松が出てきた。 オレの顔を見て口を開こうとしたが、後ろにいる星野と玄川を見て目を見開く。
「学園長も人が悪い。こちら側についていただけるなら、初めからおっしゃれば――」
「話が長い! 腹減っているんだ、何か食わせてくれ」
「わ、わかりました。すぐに用意します」
「晩餐じゃないが、最後の食事になるんだろ? 星野と玄川、補佐官の分も用意しろよ」
頭に乗ったナツキがシッポでオレの首のあたりを叩く。
「それと、生肉を4kgほど出してくれ。赤身がいいな」
10人ほどが座れる奥のテーブルに案内され、中央にオレ、左に星野が座る。向かい側には玄川が座り、ロープを持ったサッチャンがその隣に座った。
間をおかずに、オレ達にはポタージュスープが配膳され、肉塊を乗せたトレイを持った小松が出てきた。
「この肉はどのようにすれば?」
「そこ」
オレが右前の空いたスペースを指さすと、赤ワインのようにきれいな色の生肉が置かれた。
すぐさま、ナツキがテーブルへ飛び降り、生肉へかぶりつく。
「……その生き物は何ですか? 帽子じゃなかったんですか」
「ナツキは帽子じゃないぞ、白いトラだ」
「……白虎?」
スープボウルが空になると同時に、アメリカン・クラブハウス・サンドイッチが運ばれてきた。
「空腹のご様子でしたので、時間のかからないものを用意しました。お時間を頂けるのでしたら、コースもご用意しますが。いかがなさいます?」
「いや、これでいい。あー、これ、持ち帰り分も用意してくれ」
「かしこまりました」
「私、もう一人前追加で」
「俺は二人前で」
サッチャンと玄川がすかさずお代わりを注文する。お前ら緊張感がなさすぎないか?
ワインも勧められたが断ると、ミルクやオレンジジュースなどのピッチャーがテーブルに置かれ、小松がオレの後ろに立つ。
「で、小松。この後の予定ってどうなっているんだ?」
「その女の出荷は日付が変わるころになります。その後の指示はまだないですね」
「……出荷ね」
「玄川はどうする?」
「生徒会メンバーをやってくれたのは彼なのでしょ? 粛清したいところなんですが、生徒会長は生徒を動かすために必要なんですよ。矯正するしかないでしょうね」
玄川から殺気が放たれるが、目で制して大人しくさせる。
「今だって、薬を使ってるじゃん。効いていないみたいだけど」
サッチャンが最後のサンドイッチを飲み込んで、小松をにらみつける。
「……知っていましたか。薬にもいろいろありますし、弱った亀なら拷問だって効くでしょう」
「うわー、卑劣!」
生肉をきれいに食べ終えたナツキがオレの頭へ戻る。
星野はミルクを飲み干して、口を拭っている。
そろそろ頃合いかな。
「身内には手を出すなって言っただろ? 覚えていないか?」
「……そちらの補佐官にも総生徒会長にも接触していませんが」
「星野を襲っただろ!」
「……その女は学園長に強く反発しているのでは? 毎日のように、指導しているのでしょ? ボロボロになった姿を何度も見たと聞いています」
「星野って頑張り屋さんだから、指導に熱が入ってな。でも、そんなにボロボロだったか?」
左にいる星野を見ると「私、頑張り屋さん」とか言って、頬を押さえていた。
「星野はオレの大事な……なんだろな?」
「そこは妹でいいでしょ! おにいちゃん! 」
「なんだって!」
大声で叫び声をあげたのは玄川だった。




