第17話 朝食には遅いし昼食には早いから
状況から考えるに、星野がランニングコースへ入ったのは1時間以上前だよな。
戦いながらとしても半分は超えているよな。
ランニングコースをゴール側から辿りながらスマホを取り出した。
「歩か? 星野は野外のランニングコースで交戦中みたいだ。オレはゴール側から攻めるから、歩はスタート側から倒れている生徒会メンバーを拾ってくれ」
『総一郎さん、どういうことですか?』
「星野が強くなったってことだよ。一緒にいたから歩だってわかるだろ?」
『わかりました。玄川さんと向かいます』
「リヤカー持ってくるのを忘れるなよ」
続いて、サッチャンを呼び出す。
「星野は見つかったんだけど、そのまま上層で様子を探っていてくれるか?」
『総ちゃんの読み通りってことかな?』
「予想以上に行動が早すぎるから、残念ながら読みははずれ。裏が取れるまで、小松は泳がせておけよ」
『りょ!』
最低限の連絡は済んだので、ウォークからランへ切り替える。
30分ほど走ると前方から人の気配がしてきた。
1人は間違いなく星野だな、あとは5人ってところか。
足を緩めて、しばらくすると星野がオレを見つけて抱きついてきた。
「おにいちゃん! 疲れた、限界、交代して!」
「そうか? まだ、息は整っているし2人くらいはいけるだろ」
「やだ、疲れた」
少し遅れて、男子学生が5人。
道幅いっぱいに広がりながら走ってきた。
女子学生は星野が倒してきたらしい。弱い奴から仕留めたんだな、及第点だ。
「な、なんで学園長がいるんだ!」
息を荒げながら、男子学生の1人が足を止め声を上げた。
残りの4人も足を止め、オレと星野を取り囲むように移動し始めた。
「身内が襲われそうになっていたら、助けに来るだろ?」
「いや、だって星野は学園長に反発していたじゃないか!」
「そうだ! 毎日のように道場で粛清されているって聞いたぞ!」
困惑と怒りがないまぜになったような表情で、学生たちが怒鳴り声をあげる。
「星野って、オレに粛清されていたの?」
「道場で何やっているんだって聞かれたから、指導されているって答えた」
「確かに指導したな」
学生たちが、じりじりと距離を詰めてくる。
「はぁ。星野は無事みたいだし、いまだけは目をつぶってやってもいいぞ。まぁ、本当に今だけだけどな」
一瞬足を止めたが、引くつもりはないらしく、さらに距離を詰めてくる。
「星野、オレを踏み台にしていいから、枝の上へ上がれるか?」
頭上3mくらいのところに張り出している太い枝を指さすと、星野が無言でうなずき、オレから少しだけ離れる。
腰を軽く落として、膝の前に組んだ手を構えると、星野がためらうことなく片足を乗せる。
星野がもう片方の足で強く地面を蹴ったタイミングに合わせて、腕を全力で頭の上へふりあげる。
星野の体が目の前を垂直に飛び上がり、両足でオレの肩に立ち、勢いをつけて枝に飛びついた。
見上げると、星野はくるっと逆上がりを決め、枝に座った。
「それじゃあ、お前らも指導ってやつをしてやろうか?」
真後ろにいたやつが不用意に近づいてきたので、振り向きざまに鳩尾に拳を当ててやると、うずくまる。
そいつを飛び越して、少し距離を取ってから振り返る。
「目が動きすぎ、顔に出すぎ。不意を突くなら悟られちゃダメだろ」
「ちっ!」
両サイドにいた2人が背中に手を回したと思ったら、特殊警棒を持っていた。
その2人が特殊警棒を振り上げ走り寄る。
「知ってるか? それで殴られると、すっごく痛いんだぞ!」
左側のやつに特殊警棒を振り下ろすよりも早く駆け寄り、肘を押さえて後ろへ回り込む。
背中を押して、バランスを崩させて腰のあたりに蹴りを叩き込む。
蹴り飛ばされた勢いで、もう1人の警棒をもった奴を巻き込んで倒れた。
「くっそ!」
「じゃまだ、寝てろよ」
倒れている2人の顎を蹴り飛ばして、意識を飛ばした。
残る2人が青い顔を押しながら後ずさるが、いつの間にか後ろに立っていた星野が首筋に手刀を落として試合終了となった。
「おにいちゃん、お疲れ!」
「あいよ、星野もお疲れさん」
スーツのポケットに忍ばせておいた結束バンドを使って、倒れている4人の手足を拘束する。
「しばらくしたら歩と玄川がリヤカー引いてくるから待っていようぜ」
「そうなの?」
「お前が倒した生徒会のやつらの回収を頼んでおいた」
「私がやられるって思わなかったの?」
「最悪でも逃げ切れると思っていたよ。で、どうだった? どれくらい強くなったか試してみたかったんだろ?」
「わかんない。私が強くなったっていうより、あいつらが実は弱かったって感じ」
「そういうことだな」
1時間ほど待つと、リヤカーを引きながら必死に走る玄川と、その後ろをゼーハーしながらついてくる歩が到着した。
「それじゃあ、そろったしブランチをキメに行くか!」
「何を言っている! このままで済むわけないだろ!」
玄川が声を上げるが、無視して続ける。
「朝から何も食べていないんだぞ。食文化研究室でごちになろうぜ!」




