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拉致られたら学園長になっていた  作者: 津山直太
北の方でちょっと暴れてくる

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第16話 叩かれたドアは少しへこんでいた

 昼から夕方まで、休憩をはさみながらではあるがみっちりと稽古をつけ、星野は2段階ほど実力を上げた。


 成長を実感できるのが嬉しいらしく、終始笑顔で鍛錬に励んでいた。こういう子は飛躍的に強くなる。


 疲れ切った二人は畳に座り込んで、ぐったりとしていた。


「歩はどうだった、役に立ちそうか?」


「……役に立ちそうというのは、どういうことですか?」


「おまえは前衛で戦闘するスタイルじゃないだろ。軍師ともちょっと違うし……旗頭と言うか扇動役だろ?」


「……そうですけど。なんで、わかるんですか?」


「ん? だって、一度戦っただろ」


 オレもあぐらをかいて、歩に小声で問いかける。星野には聞こえないように。


「おまえもサッチャンも……玄川もかな? なんか能力持ってるだろ?」


 歩が反射的に目をそらす。


「いい、いい。詳しく聞く気はないし、詮索もしない。ただ、オレの稽古なり指導が役に立ったならいいなって、それだけだ」


「あの……私、また口説かれていたりします?」


 上気した顔を向けて、歩が妙なことを言い出す。


「どのへんが口説くことになった? また?」


「知ってました。一度やられましたし……」


 天然とか、たらしとかブツブツと小声でつぶやきだしたので、会話が中断してしまう。


「汗もかいたし、風呂に入って飯にするか? な?」


 満足気な顔をしている星野に、目から光を失っている歩を託して、オレは男子寮の大浴場へ向かった。


 *


「玄川さ、なんでまたいるの?」


「それはこっちのセリフなんだが」


 しばしの沈黙。


「小松ってやつに呼ばれて、顔を合わせてきた」


「……だからどうしたんだ」


「単純な疑問なんだが、なんであいつが北の主権を持っているような言い方するのかって。ここの自治権を持ってるのは学生で、統括してんのは玄川、おまえだろ? 」


「……」


「おまえのそれは頑固じゃなくて、意固地なんじゃないか?」


「……」


「大人は信用ならないってか? まぁ、オレもそう思うよ」


「学園長に何がわかるって言うんだ」


 玄川は逃げるように、大浴場を出て行った。


「一番の問題はあいつなんだよな……」


 もどかしいが、まだ情報が足りない。こればかりはサッチャンとナツキに頼るしかないな。


 *


 毎日、星野の授業に参観し、空いた時間に稽古をつけた。


 そして迎えた土曜日、この学園に来てからの初めての休日。


 朝6時に一度目を覚ましてしまったが、惰眠をむさぼることを心に誓い、二度寝に入る。


 一度覚醒してから再び眠りに入るのは、なんとも幸せを感じる。

 戦場にいるときは熟睡なんてしたことなかった。


 浅い眠りの中、昔の夢を見ていると、激しくドアを叩く音で目が覚めた。


「みどりは、星野みどりは来ていないか!」


 ドアを引くと同時に、玄川が怒鳴り声をあげた。


「今日は休みだし、自室にいるんじゃないのか? そもそも、星野をこの部屋へ入れたことなんかないぞ」


「部屋にいないから、ここへ来たんだ。……くそ、学園長と一緒だったら大丈夫だと思っていたのに」


「全く話が見えないんだが」


 そう言って、とりあえず玄川を部屋へ入れた。


「今日はみどりが学園長との修行の成果を見せると言っていたんだ。それで、道場で待っていたんだが姿を見せなかった。心配になって部屋まで行ったが、いくらノックしても返事がなく、ここへ来た」


「オレといたら大丈夫だってのは?」


「みどりが小松たちの次のターゲットだって聞かされていたから、学園長につけた」


 玄川の声がデカいうえに、殺気まで飛ばすものだから、床で寝そべっていたナツキも起きてオレの頭に乗った。


「小松たちのターゲット?」


「あいつらはここの学生を商品として輸出しているんだ。それを生徒会が手伝っている」


「おまえ、小松とグルだったのか?」


「そんなわけあるか! 俺とみどり以外の奴らが取り込まれているんだよ。おれはそれを止めるために……」


 ふむ。生徒会の奴らって、ここに来た時に出迎えに来た奴らだよな……。


 だったら、一対一なら星野のほうが強いな。強くなっているはず。

 さすがに集団戦では後れを取るだろうが、逃げ切れると思うんだけどな。


「ちょっと待ってろ」


 廊下へ出て、サッチャンと歩の部屋をノックする。


「緊急事態だ、オレの部屋へ集合!」


 シングルルームに4人と1匹が集まると、結構な密度になった。


「星野が拉致られたか、拉致られそうになって逃げたかしたみたいだ。こっちで身柄を確保する。サッチャンとナツキで上層を探ってくれるか?」


「了解」

「ニャー」


 返事をすると同時にサッチャンがドアを出て、ナツキが続く。


「歩と玄川は下層を探してくれるか? 逃げて隠れている可能性がある」


「わかった」

「わかりました」


 二人もすぐさま部屋を出た。


 さて、中層階にいる可能性は低いから、オレは外を探すか。


 学舎を一回りして、ついこの間星野と走ったランニングコースの入口にたどり着くと、見た記憶のある男子学生が倒れていた。


 こいつ、オレを出迎えた時に先頭を歩いていたやつだよな。


 オレってば引きがいいな! ビンゴ!

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