第15話 消えたBLTサンド
箱に詰められたBLTサンドを持って部屋に戻ると、ドアの前でサッチャンが待っていた。
「総ちゃん……。社会人はホウ・レン・ソウって重要だと思わない?」
「最近は確認・連絡・報告みたいだぞ。と言うか、オレは立場的にされる側なんだけど」
部屋のドアを開けて、サッチャンを招き入れる。
ビジネスホテルのような部屋にはベッドとデスクが備え付けられており、サッチャンがデスクの椅子に座ったので、オレはベッドへ腰かけた。
4つ入っていたBLTサンドを一切れとって、箱をサッチャンへ渡した。
「私が苦労して探っていたのに、先に食文化研究室へ行っちゃうんだもんな」
「呼ばれたからな、行くだろ?」
「で、どうだった?」
「見てるなり、聞いているなりしていたんだろ? いつもどおりだよ」
「バレてる? うそ!」
「サッチャンが仕込んだのはシャンデリアのやつ?」
「そうだよ、見てたよ、聞いてたよ。もう……」
BLTサンドをもう一つ食べようと手を伸ばすと、空の箱を渡された。
3つのBLTサンドはすでにサッチャンの胃の中へ消えた後だった。
あとで、学食へ行こう。
「サッチャンの方の成果は?」
「仕掛けが済んだところ。しばらく様子見だから、総ちゃんも当面は大人しくしていてね」
「基本的にオレは受け身だから、大人しいものだぞ」
「中学生女子に『おにいちゃん』とか呼ばせてるくせに……」
サッチャンが口をとがらせるが、それって大人しくするとかしないとかと関係ないよな……。
「ナツキ、小松の匂いは覚えた?」
ずっと、頭の上で丸まって大人しくしていたナツキに話しかけると、膝の上に降りてきて「ニャー」と一声上げた。
「だってさ、サッチャン。ナツキに協力してもらいなよ。いいだろナツキ?」
ナツキは疲れているサッチャンをしげしげと見てから、仕方ないなと言うように、サッチャンの膝へ飛び移って「キュー」と鳴く。
「ほんと? ナツキちゃん、いいの! 助かるよ~」
「そういうことで、サッチャンは今日一日休むこと。これ、命令だから」
「……わかったよ」
「さて、食堂へいって昼飯にするか」
食堂で二杯目の牛丼をかきこんでいると、午前の授業を終えた星野が駆け寄ってきた。
「お、おにいちゃん! いい年なのに私のために頑張りすぎて、筋肉痛で動けなくなったんじゃなかったの?」
「……ああ、ストレッチして、少し休んだらよくなった」
歩は星野へどんな説明をしたんだ?
「そうなの? 今日は午後から授業がないから、稽古してくれる?」
「稽古って……なんの?」
「おにいちゃんの得意なやつ。空手でも柔道でも……ジークンドーでも」
「ほう。やっぱり、おまえ、いいな!」
「へっ? おにいちゃん、私まだ中学生だから……。でも、優しくしてくれるなら……」
「何言ってるんだ。オレはいつだって優しいぞ、なあ歩」
「優しいですよね、総一郎さんは。乱暴なところありますけど」
「歩さん、お兄ちゃんって乱暴なの?」
「力づくで、引き倒されてんですよ私。初めて会ったときに」
「……否定はしないけど、あれは仕方ないだろ?」
**********
いくつかある武道場の一つで待っていると、ジャージに着替えた星野と歩が入ってきた。
ナツキはサッチャンと夜の活動のためにお休み中だ。
「歩ちゃんもやるの?」
「見ているだけだとつまらないですし、私だって戦えますから」
「いいんだけど……サッチャンにすねられそうだな……」
二人は正座しているオレに向かい合って、同じように正座をした。
「座ったところ悪いけど、立ってくれ」
そう言って、オレは立ち上がり、二人も立たせる。
「総一郎さん、瞑想とかするんじゃないんですか?」
「するよ、心を整えるの大事だからね。でも、お前たちって戦うとき座ってる?」
「座っていたら戦えないよ、おにいちゃん」
「だったら、座って瞑想できても意味なくない? 戦いのさなかで心を整えられてこそ勝ち筋が見えてくる」
「総一郎さんって、何していた人なんですか?」
「……戦わないと生きていけない所で生まれたんじゃないかな? 知らんけど」
星野と歩の二人は目を閉じ、少しあごを引きゆっくりと呼吸を整える。
「ちょっと触るぞ」と言って、二人の姿勢を直していく。
「その姿勢をキープしたまま、脱力する。これが基本の基本な」
「脱力って……ふにゃふにゃになったら立っていられないですよ」
「力を抜いたからって、タコやイカみたいに軟体動物にはならんだろ」
壁に掛けられていた竹刀を持ってきて、切っ先で星野のつま先をチョンと触ると「ヒャン」と小さな悲鳴が上がる。
「竹刀で触ったところから、順に力を抜いてみろ」
つま先、膝、尻、腰と二人を交互に軽く突いていく。
突くたびに「フッ」「ヘッ」と声が聞こえるが無視して続ける。
背中、肘、肩、首と触り、最後に頭頂部を軽く叩く。
「ほら、力を抜いたって立っていられるだろ」
目を開けた二人が頷く。
「そこから蹴りを出してみろ、星野」
星野のハイキックがオレの目前を通り抜ける。
「えっ? 高いし、速い!」
「そういうことだ」
星野の横では回し蹴りを試みて、歩が「ほぅ」っと目を見開いていた。
「さて、続けるぞ。いいか?」
「「はい!」」
素直なやつは教えがいがあっていいな。




