第四話 突如告げられたミッション
説明が終わったと同時に、教室にいた全員が席を立った。
そして慌てた様子で荷物を漁ったり、衣装を整えている。
(待ち時間に散々整えてたってのに、まだ整える気かよ⋯⋯)
そう思った俺も、例外じゃない。ソ・イエンもそうだった。
最初に与えられたミッション。
それは、「レベル評価ミッション」だ。
ここに集まる前、参加者達に送られたアンケート。
そこに入力した「一番歌うのが得意な曲」と「一番踊るのが得意な曲」を披露し、参加者のレベルを測定する。
ここまでは別にいい。問題は、それが事前に知らされてなかったという点だ。
ありのままの参加者の実力を見られると言ったら聞こえはいいが、実質公開処刑だ。
極端に結果が分かれる内容に、腹が立たないわけもなく、説明を受けた参加者の何人かは舌打ちをしたり、机を叩いたりしていた。
が、あからさまに大声で口に出す人はいなかった。いつカメラが回り始めるのか分からないからだ。
(事前にこんなミッションがあるって知らなかったら、俺もだいぶ慌ててただろうな)
趣味が悪い。
悪編や印象操作が多いサバ番業界の中でも、school pop は優しい方だと聞いていたが⋯⋯その分ミッション内容が終わってるのか?
まぁいいや。それより今は、入力した曲の練習だ。
こうなると思って、C’monの頃から得意だった曲を入力した。
二ヶ月間、体作りや韓国語勉強に追われてろくに練習してなかったが、大丈夫だろう。
喉も体も、最高のコンディションだ。
始まる前、軽く発声練習と振り付けを復習するくらいでちょうどいい。
そして十五分後、ぞろぞろと教室を出ていく参加者達に続いて俺も教室をあとにした。
ソ・イエンもまた俺の隣にピッタリとくっついて教室を出た。
(教室内に知り合いがいなかったのか⋯⋯?)
そうして俺達はレベル評価ミッションの場所である、体育館に集合した。
持ってくるものに含まれていた室内用シューズを履いて、中に入る。
それから中を見渡した俺は、絶句した。
あまりにも人数が多すぎる。
体育館中心に集まった人数は⋯⋯軽く見積もっても百人はいるだろう。
こんな倍率を飛び越えたデビューメンバーの凄さに改めて感嘆する。
「結構⋯⋯多いですね」
隣にいたイエンがゴクリと唾を飲み込んだ。
参加予定人数七十人と言っていた、school pop のメールは一体何だったのか。
俺はため息をつきそうになったが、我慢した。
体育館の隅々に、撮影用カメラが置かれているのに気付いたからだ。
(⋯⋯こりゃ本当に力入れてるな。まぁ実際人気番組になるんだけど)
参加者もとい、生徒達の緊張がこちらにまで漂っている。
緊張を少しでもなくすために、小声で歌ったり、端で踊る生徒も多い。
当たり前だ。いきなり始まったミッション、なによりこんなに多くの参加者やカメラの前で、緊張せずに歌って踊るにはそれなりに経験が必要だ。慣れていないと、どうしても調子が出なかったり、力みすぎたりしてしまう。
視聴者にとっては多くの参加者の中のたった一人かもしれないが、本人にとっては人生を賭けた瞬間なんだ。落ち着けと言う方が無理がある。
(俺もデビューした頃は緊張しっぱなしだったっけ)
五年前⋯⋯いや、今は十年後の出来事に感慨深くなっていた時。体育館内のスピーカーが耳を覆いたくなるほどの音量で音割れした。
おかげで先程までのシンミリとした感情など一瞬で消え去ってしまった。
「生徒の皆さんは各自、待機場所であった教室名の場所に整列してください」
俺が待機していたのは「1-D」だ。
周りの生徒達はおどおどしながらも、自身の教室名が書かれた場所を探した。
俺の場合、隣りにいたイエンが恵まれた背丈ですぐに見つけたので、移動はすぐに終わった。
そうして、各教室二列ごとに並び終えた俺達は、静まりかえる体育館内でたった一点を見つめていた。
――ステージだ。
ステージ上には椅子が四脚、弧を描くように置かれていた。左側には演台もある。
すると、こちらが整列し終えたのを確認したのか、一人の女性が舞台袖からステージ中央へと歩いてきた。
そんな彼女を見るやいなや、周囲にいた生徒達が驚くほどの声量で歓声を上げた。
演技でもお世辞でもない、純粋な喝采だった。
(⋯⋯!!?びっっくりした⋯⋯なんだ?そんなに有名な人なのか?)
静まり返っていたのが嘘みたいだ。俺は後ろをちらりと振り向いた。
後ろに並ぶイエンもまた、口を手で覆い、輝いた目で彼女を見つめている。
「こんにちは、今回 “school pop” のMCを務めます。ミン・ユハンです」
その後、ミン・ユハンは持っていた台本を淡々と読み進めた。
その中には、絶対制作陣が書いたであろう彼女の経歴を説明する文章もあった。
どうやら彼女は俳優らしく、多くの有名作品に出ているようで韓国ドラマを全然見ない俺でも知っている題名がいくつかあった。
確かに、絵になる容姿と圧倒的なオーラを持っている。
(にしても、経歴を本人に発表させるとは、中々イカれてる)
そんな文章にも動じないのは流石プロだ。
そして説明は次のフレーズへと入った。今回のサバ番で生徒達を評価するディレクター、“ティーチャー”の登場だ。
「こんにちは、振付師のカ・イギョンです」
「どうも、IsDのメインボーカルのイ・ピンギです」
ティーチャーの五人は、俺でも知ってる人達だった。
その守備範囲は広く、プロのダンストレーナーや、振付師。現役アイドルのメインボーカル。有名な曲を幾つも手掛けた作曲家に、若者の間で知らない人はいない程のラップアーティストまで。
非常に豪華なラインナップに、体育館内はもはやシンとしていた。
あんぐりと口を開いてるのを見るに、今の状況を受け止めきれないんだろう。
(⋯⋯この人達に評価されるのか)
アイドルを五年続けてきた俺ですら、少し身構えてしまう。
一通りティーチャーの挨拶が終わった所で、MCのユハンは口を開いた。
「それではこれより、ゼロ時間目、“レベル評価” を行います。」
そうしてなんとも言えない空気を漂わせながら、最初のミッションが始まった。




