第三話 主戦場
新しいボーイズグループ結成を掲げるサバイバル番組「School pop」
その人気は一回目のステージ発表で一気に上るのだが、その前にも少しだけ話題に上がったことがある。
その要因は―――
「うわ、久々に見るな⋯⋯」
使われなくなった廃校舎を舞台にした、本格的すぎる学校コンセプトのせいだ。
十数年前に廃校となった江原道に建つとある高等学校。
黄土色にペイントされた外装は、最近施されたのか新品同様の綺麗さを見せている。
日本に比べ、外装に色味がある韓国では、これも普通なんだろう。
(中もこれくらい綺麗だとありがたいんだけど)
しかしそんな心配もすぐに消え去った。
靴箱に入った瞬間、埃っぽい空気は一切なく、それどころか床、壁、天井。どこをとっても新校舎そのものだった。
撮影で映る予定の場所をリフォームしようとしたら、結局全部する羽目になったんだろうか。
それでもこんなに綺麗にするとは、よっぽど予算がある且つ、この校舎が安く手に入ったってことだろう。
まぁそれに、俺の記憶によると School pop が終わっても、またこの校舎でサバ番を行っていたのだから、必ずしも無駄だったってわけでもない。
(⋯⋯って、今はそれどころじゃないよな)
2025年4月10日。
今日から、School pop の撮影が始まる。
数日前に急いで用意したキャリーケースは、寝泊まり用の荷物でパンパンになっていた。
そんなキャリーケースを片手に俺は靴を履き替え、廊下を歩いた。
韓国の学校ながらも、違うのは外装だけで中身はほとんど同じだった。
おかげで事前に配られた地図も、難なく読むことができた。
(確か俺の待機場所はこの教室だったはず)
扉に大きくBと書かれた紙が貼られているが、気にしなくてもいいんだろうか。
とりあえず教室に入った俺は、黒板に書かれた簡単な説明事項を確認すると、自分の席に座った。
説明事項と言っても、事前にスマホに送られた説明とほぼ一緒だったので軽く目を流した程度だ。
(意外と人が多いな⋯⋯)
教室の机は既に半分以上が埋まっていた。
全員が、かわいい顔やカッコいい顔⋯⋯いわゆるアイドル向きの顔をしている。
(こんな学校が本当に存在するとは⋯⋯いや、そういうコンセプトなだけなんだけど)
それに、思った以上に静かだ。
もっと和気あいあいしていると思っていたが、皆、大学受験を控えているような顔をしては、鏡を見て髪や服装を整えたりしていた。
カメラの前だったら、あまりよろしくない光景だ。皆同じような行動をしている。
どうやらこの教室にはデビューメンバーもいないようだし、俺もゆっくり過ごすか。
(⋯⋯にしても、何をするか)
意外と時間がかかると思っていた教室探しも案外あっさりとクリアしてしまったため、予想よりも早く着いてしまった。
最初の全体説明まであと二十分もある。今のうちにトイレでも行っとこうかな。
すると、突然隣から声が聞こえてきた。
見ると、いかにも大衆受けしそうな見た目をした、茶髪のイケメンがこちらを向いていた。
「あ、あの。ど、どこの事務所から来たんですか?」
もたつきながらも、質問してきた。言葉の端々から優しそうな雰囲気が伝わってくる。
「俺は一般人枠です」
そう答えると、茶髪君は驚いた顔をした。
しょうがない。一般人の参加者は少ないはずだからな。
ここにいるほとんどの参加者はアイドル事務所から来た人だ。じゃないと番組的にも見劣りしてしまう。一般人は⋯⋯せいぜい二、三人ほどか。
「すごいですね!あ、僕はソ・イエンって言います。よろしくお願いします!」
ソ・イエン⋯⋯聞いたことがない。
デビューメンバーでもないから、きっと途中で脱落する一人なんだろう。
こんなイケメンでも落ちるって、恐ろしいな⋯⋯まぁウジェンの顔も引けを取らないイケメン具合だけど。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
それでも、知り合いゼロで始めるところだったんだ。
今のうちに少しでも話せる人が出来るというのはとても心強い。
もしかしたら今後、番組のミッションで同じチームになるかもしれないしな。
そうして軽い世間話をしていると、突然、聞き覚えのある音楽が黒板上のスピーカーから流れた。
この曲⋯⋯そうだ、School pop のオープニング曲だ。
明るい曲調だが、繰り返されるフレーズが妙に耳に残る。
そうして三小節ほど流れた後、「皆さん、こんにちは」という定型文が聞こえてきた。
「School pop へようこそ。皆さんは今日からこの “pop at school” の生徒です。これから与えられる様々なミッションをこなし、視聴者である“ペアレント”の心を掴んでください。ペアレントから多くの指示を集めた上位六人の生徒が新しく結成されるアイドルグループのメンバーとなります」
ペアレント⋯⋯“保護者”か。よく考えたな。
そんな言葉から始まった説明はその後、学校での過ごし方や、ルール。各自の部屋割りについての説明へと入った。
「各生徒の部屋については、最初のミッションが終わったと同時に発表されます。ですので、今お持ちの荷物に関しては部屋割りが発表されるまで自身の机付近にお置きください」
「一緒の部屋になれるといいですね」
隣に座る茶髪君⋯⋯ソ・イエンが言う。
俺も笑みを浮かべてその言葉に頷いた。
「それでは、最初のミッションを発表します」
いよいよ、 School pop の始まりだ。




