-実技訓練-
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そして、翌日の放課後。
俺たちは、広大な『第一演習場』の前に集まっていた。
実技訓練の内容は、「VR空間で生成された仮想都市で、暴走した機械兵器を四人一組で制圧する」というものだった。
これが果たしてスタンダードなのかはわからない。
「みんな、準備はいいかい? 僕はヒーローとして、一番乗りで敵を倒してくるよ!」
やる気満々のレイ先輩の隣で、結衣は左腕の包帯を何度も巻き直しながら、ブツブツと呪文のようなものを唱えていた。
「我が魔力よ、高まれ……。今日こそ、世界に我が真の力を見せつける時!」
「頭が痛くなってきた……」
俺はこめかみを押さえた。
「結城くん、大丈夫? あまり無理しないでね」
和真が優しく声をかけてくるが、俺は無言で頷くにとどめた。
この実技訓練での俺の目標はただ一つ。
(一切目立たず、適当に逃げ回りながら、他の三人に任せて終わるのを待つ!)
これに尽きる。
俺は平穏な学園生活を送るんだ。
「それでは、訓練を開始する。各チーム、ゲートへ向かえ」
そんな教師の合図と共に、演習場の巨大なゲートが開いた。
俺たちはVRデバイスを装着し、仮想都市へとダイブした。
視界が開けると、そこは荒廃したコンクリートジャングルだった。
空は薄暗く、至る所に崩れかけたビルや焼け焦げた車が散乱している。
本当に現実と見分けがつかないクオリティだ。
俺がいた時代では考えられないなと、そんな技術の発展に感銘を受けている中、突然耳からアナウンスが聞こえてきた。
『ターゲット、捕捉』
無機質な機械音声と共に、瓦礫の山から三体の巨大な機械兵器が姿を現した。
クモのような多脚型のボディに、重機関銃を搭載した物騒なフォルム。
「うわぁ、強そうだね! よーし、僕が行くよ!」
「待て、羽虫! 先陣を切るのはこの私だ!」
レイ先輩が飛び出そうとするのを遮り、結衣が前に出た。
彼女は眼帯を押さえ、左腕を機械兵器に向かって突き出す。
「喰らえ!『漆黒の魔弾』!!」
結衣の叫びと共に、彼女の左腕から黒いエネルギーの弾丸が発射された。
ドガァァン!!
着弾した瞬間、小規模な爆発が起こり、機械兵器の一体がバランスを崩す。
「おおっ! すごいよ結衣ちゃん!」
レイ先輩がそんな結衣の技を見て歓声を上げる。
確かに、ランクAというだけあって、威力は悪くない。だが……。
「……隙だらけだぞ」
結衣の攻撃は、いちいち大振りのポーズや詠唱を伴うため、次の動作に移るのが決定的に遅い。
実戦において、その硬直時間は致命的だ。
バランスを立て直した機械兵器が、結衣に向かって重機関銃の銃口を向けた。
ガガガガガガッ!!
「ひっ!?」
無数の銃弾が結衣の足元のアスファルトを削り、彼女は悲鳴を上げて尻餅をついた。
先ほどまでの威勢の良さはどこへやら、ただ怯えるだけの少女の顔になっている。
「結衣ちゃん! 危ない!」
レイ先輩が飛び出し、結衣の前に立ち塞がる。
だが、ランクEからC+に上がったとはいえ、先輩の防御力で重機関銃の掃射を防ぎきれるはずがない。
「がはっ……!」
先輩の体に次々と銃弾が直撃し、赤いダメージエフェクトが飛び散る。
VR空間とはいえ、痛みは神経にフィードバックされる仕様だ。先輩は顔を歪めながらも、結衣を守るために一歩も引かない。
「せ、先輩……どうして……」
結衣が震える声で呟く。
「ヒーローは……女の子を、見捨てないんだ……!」
そんな臭いセリフを言いつつ、血を流しながら笑う先輩。
その一方で、和真は少し離れた場所から、静かにこの状況を観察していた。
(あいつ……助ける気がないのか?)
和真の能力なら、あんな機械兵器など一瞬で制圧できるはずだ。
だが、彼は俺の方をチラリと見て、意味深な笑みを浮かべただけだった。
……試しているのか。
極限状態に置かれた俺が、どう動くかを。
初めからこれが狙いでチームに入ったのか。
「クソッ……最高に面倒くさい……!」
俺は悪態をつきながら、周囲を見渡した。
他のチームの生徒や教師の目は、監視カメラを通じて俺たちに向けられているはずだ。
派手な氷の魔法を使えば、一発で俺の本当の力がバレてしまう。
なら、どうする?
……バレないように、やるしかない。
俺は息を深く吸い込み、意識を集中させた。
俺の【氷】の力は、単に冷気を生み出すだけじゃない。
温度を奪うということは、すなわち分子の運動を止めることだ。
極限まで研ぎ澄ませたその力は、「事象そのものを凍結させる」ことに繋がる。
俺はブレザーのポケットに入れたままの右手の指先を、わずかに動かした。
ターゲットは、機械兵器の『脚部の関節駆動部』と『銃身の内部』。
視界に捉えきれないほどの極細の冷気の針を、一直線に射出する。
ピキッ。
誰の耳にも届かない微かな音。
次の瞬間。
「……あれ?」
レイ先輩に猛烈な連射を浴びせていた機械兵器の動きが、不自然にピタリと止まった。
駆動部に入り込んだ極小の氷が歯車を完全にロックし、熱を持った銃身の内部で結露した水分が瞬時に凍結して弾詰まりを起こしたのだ。
「ギギ……ガガガッ……」
機械兵器が不快なノイズを立てて完全に機能停止する。
「えっ? 止まった?」
レイ先輩は何が起こったのか、不思議そうに瞬きをする。
「今だ! 先輩、そいつの頭を殴れ!」
俺の指示に、先輩は迷うことなく拳を振り上げた。
「えいっ!」
ドゴォォン!!
機能停止し、装甲の分子構造すら氷で脆くなっていた機械兵器は、先輩のへなちょこパンチを受けて、あっけなく爆発四散した。
「や、やったぁ! 僕、倒したよ!」
歓喜する先輩。
「……フッ、私の『見えざる呪い』が効いたようだな」
結衣が震える足で立ち上がり、必死に強がってみせる。
俺は「ふぅ」と息を吐き、ポケットに手を突っ込んだまま、呆れたように言った。
「たまたま敵がエラー起こしただけですよ。運がよかったですね」
監視カメラ越しには、機械兵器が勝手に故障し、先輩がトドメを刺したようにしか見えなかったはずだ。これで、俺の『ランクEのモブ』という設定は守られたはずだ。
だが、彼にはそれも通用しないのだろう。
「見事だね、結城くん」
和真が、静かに俺の隣に歩み寄ってきた。
「本当に、君の力の精密さは芸術的だ。ますます、君に興味が湧いたよ」
その目は、俺の細工を完全に見抜いていた。
「……なんのことだか、サッパリ分からんね」
俺は和真に鋭い視線を向けながら、先輩と結衣の方へ歩き出した。
「ほら、さっさと残りの敵も倒して帰りますよ。腹減ったんで」
「あ、待ってよ結城くん! 結衣ちゃん、立てる?」
「……触るな! 私の魔力が暴発するぞ!」
相変わらず痛々しい結衣と、それに付き合うレイ先輩。そして、底知れぬ闇を抱えた和真。
こんなんで、俺の望む、平穏なモブ生活は続けられるのだろうか。
「……困ったな」
俺はため息をつきながら、仮想都市の空を見上げた。
傑聖高校でのカオスな生活は、まだ始まったばかりだった。




