-中二病-
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和真たちとの会話の後、俺たちは同じ教室へと入り、転入生としての自己紹介を済ませ、担任によるホームルームが始まった。
「実技訓練にあたり、四人一組のチームを組んでもらう。期限は明日の放課後までだ。以上」
担任の教師が無機質な声でそう告げた瞬間、俺たちが所属する一年Aクラスの教室は活気に包まれた。
「おい、俺たちと組もうぜ! ランクBの防御系がいると助かる」
「あ、ごめん、もうAランクの奴に声かけられててさ」
入ってそうそうの実技訓練。
能力至上主義の傑聖高校において、チーム編成は自らの成績に直結する死活問題なのだろう。
生徒たちは互いのステータスリングの数値を値踏みするように見つめ合い、優秀な能力を持つ者から順に声を掛け合っていく。
そこには友情も思いやりもない。
あるのは己の価値を高めるための打算と、無能を切り捨てる冷酷な選別だけだ。
そんな喧騒から完全に隔離された教室の一角で、俺は机に突っ伏して深いため息をついた。
「……終わった」
「結城くーん、僕たちどうしようか。完全にハブられてるねぇ」
隣の席からいつもと変わらないのんきな声が降ってくる。
顔を上げると、相変わらずサイズの合わない黒い制服を着たレイ先輩がニコニコと笑いながら立っていた。
「先輩、少しは危機感持ってくださいよ。俺たちこのクラスでランクの底辺ツートップなんですよ。朝の一件で男子全員から恨み買ってますし」
俺は偽造とは言えランクE、レイ先輩はランクC+。
周囲からの目は明らかに冷ややかだ。
そして、朝のあの一件。
目立ちすぎてしょうがない。
いや、正確には浮きすぎてか。
俺はそんなことを思いながら困ったと頭を抱えている。
「僕が結城くんを守るから大丈夫だよ! ヒーローはどんな時でも仲間を見捨てないからね!」
「そのセリフ、せめて腹筋が割れてから言ってください」
俺の皮肉にも、先輩はえへへと笑うだけで全くダメージを受けていない。
この鋼のメンタルだけはある意味ランクがSかもしれない。
「さて、あと二人かぁ……誰か僕たちと組んでくれる心の優しい人はいないかなぁ」
先輩が教室を見渡すが、俺たちと目が合った生徒は皆露骨に顔を背けるか「近寄るな」というオーラを出して足早に去っていく。
そりゃそうだ。
俺たちと組むことは、チームの総合評価において足を引っ張られることが確定しているようなものなのだから。
「……もう、教師に適当に余り物同士で組ませてもらうしかないですね」
俺が半ば諦めかけていた、その時だった。
「もしよかったら、僕も入れてもらえないかな」
周囲の喧騒を静かに切り裂く、穏やかで柔らかな声。
振り返ると、そこには漆黒の制服を完璧に着こなした黒桐和真が立っていた。
彼の左手首には、このクラスでトップの【ランクA+】のリングが鈍く光っている。
当然、彼にはすでに多くの生徒が群がり、チームへの勧誘合戦が繰り広げられていたはずだ。
「和真……お前、引く手あまただろうに。なんでわざわざ俺たちみたいな底辺と組もうとするんだ」
俺が警戒心丸出しで睨みつけると、和真は困ったように微笑んだ。
「僕は結城くんとレイ先輩と一緒にやりたいんだ。あの模擬戦で君たちの力……いや、可能性を一番近くで見たからね」
「そんなの、お前の気のせいだ」
「それに、僕が君たちと組めば他の生徒たちも君たちに手を出せなくなる。悪くない提案だと思うけど?」
痛いところを突かれた。
確かに、和真という最強の盾がいれば朝の恭子の一件で俺に殺意を向けている連中から目をつけられるリスクは減るかもしれない。
和真の真意は読めないが、背に腹は代えられない。
「わかったよ。お言葉に甘えさせてもらう」
「ありがとう結城くん。これで三人だね。あとは……」
和真が教室を見渡す。
すでに大半の生徒がチームを結成し、教室には俺たちとあと一人だけポツンと座っている生徒がいた。
教室の一番後ろの窓際の席。
そこには、一人の小柄な女子生徒が座っていた。
長い黒髪に、整った顔立ち。
一見する普通の可愛い少女なのだが、彼女の容姿を純粋に評価する前に、視界に飛び込んでくる「ノイズ」があまりにも多すぎた。
右目には眼帯。
左腕には包帯がグルグルと巻かれ、制服のあちこちには安全ピンやチェーンなどの装飾がジャラジャラと付けられている。
さらに、彼女はブツブツと何かを呟きながら、机の上でノートにおそらく魔法陣のようなものを必死に書き殴っていた。
「あいつ、何やってんだ?」
「えっと、西城結衣さんだね。ランクは……Aみたいだ」
和真がステータスリングの情報を読み取る。
ランクA。
傑聖高校の中では決して低くない数値だ。
それなのに、なぜ彼女は一人で余っているのか。
その理由は、彼女の姿を見れば一目瞭然だった。
いわゆる中二病という奴だ。
この時代にも存在するのかと少し感心する部分もあったが、
「……触らぬ神に祟りなし、ってやつですね」
俺がそう言って、関わるのをやめようとした瞬間。
「わぁっ! 結衣ちゃんも余ってるの? じゃあ、僕たちと一緒にチーム組もうよ!」
空気を一切読まないレイ先輩が満面の笑みで彼女に突撃していった。
「ばっ、先輩!」
俺の制止も虚しく、レイ先輩は結衣の机の前に立ち、元気よく手を差し出した。
結衣はビクッと過剰なまでに肩を震わせ、顔を上げた。
眼帯の奥にあるであろう右目と前髪の隙間から覗く左目が怯えた小動物のように俺たちを捉える。
だが、次の瞬間。
彼女はバッと立ち上がり、左手で顔の半分を覆うようにして大げさなポーズを取った。
「……フッ。我に気安く触れるな下等な人間ども」
「ひゅ、ひゅーまん?」
だめだ、典型的な奴だ。
レイ先輩は不思議そうに首を傾げる。
結衣はさらにポーズを大げさにし、包帯の巻かれた左腕を俺たちに向けた。
「我が名は『漆黒の堕天使』……かつて天界を追放されし反逆の刃!貴様らのような光に群がる羽虫どもとこの私が馴れ合うとでも思ったか!」
教室の空気が完全に凍りついた。
周囲の生徒たちが「うわぁ……」という冷ややかな視線を一斉に彼女に向けている。
だが、結衣はそんな冷ややかな視線に気づいていないのか、あるいは気づかないフリをしているのか、さらに声を張り上げた。
「私の左腕に封印されし『暗黒星雲』が暴走すれば、この学び舎ごと虚無に帰すことになる!命が惜しくば私から離れることだな……ククク……」
ダメだ……痛い。
あまりにも痛すぎる。
見てるこっちの共感性羞恥が限界を突破しそうだ。
これが噂に聞く「中二病」というやつなのか。
しかも、高校生にもなってここまで重度のものは初めて見た。
「先輩、やめましょう。あいつは関わっちゃいけないタイプです」
俺が小声でレイ先輩の袖を引く。
だが、レイ先輩は目をキラキラと輝かせ、結衣に向かって力強く頷いた。
「かっこいい……!」
「は?」
「すごいよ、結衣ちゃん! 漆黒の堕天使なんてすごく強そうなヒーローネームだね! 僕、久遠レイ! ぜひ君の『暗黒星雲』の力を僕たちのチームに貸してほしい!」
レイ先輩の真っ直ぐすぎる瞳に、結衣は完全に虚を突かれたようだった。
「え……あ、いや、その……」
「僕たちは結城くんと和真くんと僕の三人なんだ! 結衣ちゃんが入ってくれれば最強の四人組になるよ!」
「さ、最強……」
その響きに、結衣の表情がピクッと動いた。
彼女の五感を刺激する言葉だったのだろう。
「……フンッ。そこまで言うならこの私が特別に力を貸してやってもいいだろう。ただし、足手まといになったら即座に見捨てるからな! 感謝するがいい!」
顔を真っ赤にしながら必死にキャラを保とうとする結衣。
こうして、俺、レイ先輩、和真、そして中二病の結衣という、傑聖高校でも類を見ないカオスな四人チームが結成されたのだった。
俺の望む平穏な学園生活は果たしてどこへ行ってしまうのだろうか……。




