-最終決戦-
そうだ。
「俺はもう、逃げない。こいつらの期待だけは……絶対に、裏切らない!!」
俺はついに決心した。
俺の体から溢れ出した冷気が、和真の放った闇の隕石を……いや、傑聖高校を覆い尽くしていたすべての『闇』を、一瞬にして凍結させた。
「なっ……僕の『闇』が、凍る……!?」
和真が驚愕に目を見開く。
物理的な温度の低下ではない。
俺の力は、事象の凍結。
和真の闇が持つ「すべてを消し去る」という現象そのものを、空間ごと停止させたのだ。
「黙れっ!! 君に僕の何がわかる!!」
和真が叫び、漆黒の魔神が俺に向かって極太の闇のレーザーを放った。
触れればすべてが無に還る、絶対的な死の光。
だが、俺は逃げなかった。
「わかるさ。和真、お前は俺と同じなんだよ」
「……何?」
戸惑う和真に、俺は言葉を続ける。
「才能がありすぎたお前は、周囲から『兵器』としてしか見られなかった。誰も『黒桐和真』という一人の人間を見てくれなかった。……だから、能力そのものを憎んだんだろ」
和真の肩が、ビクッと震えた。
「才能がないと蔑まれ、誰も中身を見てくれなかった俺と、まるっきり同じだ。お前はただ…誰かに、自分自身を見てほしかっただけなんだよ」
大衆が消費するのはいつだって、わかりやすい能力という記号だけなのだろう。
「違う……僕の理想は、誰もが平等な……っ!!」
「嘘をつくな!!」
俺の怒鳴り声が、凍りついた空間に響き渡った。
「能力がなくなることで、社会の不平等がなくなるのかどうとかは正直わからない。でもな……だからって、他人の、こいつらの『なりたい自分』まで奪って、逃げていい理由にはならないんだ!」
俺は右手を天に掲げた。
「おじいちゃん、今だよ!」
背後で恭子が、最後の力を振り絞って時計の文字盤を回転させる。
『タイム・アクセル!』
恭子の援護を受け、俺の身体能力と冷気の出力が限界を突破する。
「――『アブソリュート・ゼロ』!!」
俺は凍りついた闇の壁を蹴り砕き、一瞬にして和真の懐に潜り込んだ。
和真が慌てて防御の闇を展開しようとするが、それよりも俺の氷が彼の周囲の空間をロックする方が早い。
完全に無防備になった和真の顔面に、俺は能力でもなんでもない、ただの『拳』を力いっぱい叩き込んだ。
ドゴォォォンッ!!
「がはっ……!!」
和真の体が吹き飛び、中庭のコンクリートに激突する。
すると、主が意識を失いかけたことで学園を覆っていた闇が、ガラスが砕けるようにパリンと音を立てて霧散していった。
空から、暖かな太陽の光が俺たちに差し込んでくる。
「あ、あぁ……」
地面に倒れ伏した和真は、失われゆく自分の闇を見つめながら、虚ろな声で呟いた。
「僕の、国が……。誰も苦しまない、平等な世界が……」
俺は和真のそばに歩み寄り、その胸ぐらを掴んで強引に引き起こした。
「……目を覚ませ、和真」
俺は、和真の顔を真っ直ぐに睨みつけた。
「お前が本当に欲しかったのは、能力のない世界なんかじゃないだろ。お前という人間を、ちゃんと見て、殴ってくれる『誰か』だったはずだ」
俺は掴んでいた胸ぐらを離し、彼に向かって右手を差し出した。
「お前が作った狂った計画は、俺が全部ぶっ壊してやった。だから…もう一度、ここから始めろよ。化け物でも、兵器でもない、ただの『黒桐和真』の一人の人間として」
差し出された俺の手を、和真は呆然と見つめていた。
自分を兵器としてしか見なかった大人たち。
畏怖の目を向けていた生徒たち。
だが、目の前にいる田中結城という男だけは、自分の最大の力である【闇】を正面から打ち破り、その上で、ただの人間として手を差し伸べてくれているのだろう。
「結城、くん……僕は……」
そして、和真の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
世界を滅ぼそうとした悪魔は、ただの一人の孤独な少年に戻り、子供のように声を上げて泣きじゃくった。
彼は誰かに自分を見て欲しかった、自分という人間はここにいると誰かに気づいて欲しかった、ただそれだけなのだろう。
「結城くーん!!」
「よくやったぞ、人間!」
振り返ると、自己蘇生で傷を癒したレイ先輩と、結衣がボロボロの姿で駆け寄ってくるところだった。
その後ろでは、恭子が安心したように微笑みながら、へたり込んでいる。
そんな、最高の仲間たちをみてポツリと思わず声が漏れた。
「最高に面倒くさい一日だったな」
そういいつつも、なぜだか口角はあがっていたみたいだ。
差し込む陽光と、俺を呼ぶ馬鹿なチームメイトたちの声。
誰も俺に「親の幻影」を重ねない。
誰も俺の「才能」を過剰に期待しない。
ここは、俺が俺のままでいられる、最高の居場所だった。
俺は小さく笑い、彼らに向かって手を振り返した。




