表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Character!!  作者: あがpay
第5章
PR
11/20

-緊急事態-

そんなやり取りの後、俺たちは実習を行うために訓練所まで赴いた。


そして、俺たちが到着したことで実習が始まった。

その日の実技訓練は、本来なら簡単な仮想空間での『拠点防衛』のはず―――だった。

だが、ダイブして数分後に思わぬ展開が起きた。


『――警告。システムエラー発生。未確認のデータコードが混入。環境シミュレーターに異常』


無機質なアナウンスと共に、仮想の街の空が赤黒く染まり、空間がノイズのようにバグり始めた。


「な、なんだこれ!?」


俺が驚愕する中、地面の瓦礫が禍々しい形に融合し、三メートルを超える巨大な異形のバケモノへと姿を変えた。


『測定不能、推定ランクA』


「嘘だろ……なんでこんなバケモノが!!」


聞いていた話と違う。

教師に中止を要請しようとしたが、通信機からはザーザーという砂嵐の音しか聞こえない。

ログアウトすら強制的にロックされていた。


「誰かが、外部からシステムをハッキングしてる……?」


俺はハッとして周囲を見渡した。

なぜ気づかなかった、先ほどまでいた和真がいつの間にかいなくなっている。

いつもなら余裕の笑みを浮かべているはずの彼が、このバグ空間の中で、まるで最初から存在しなかったかのように姿を消していた。


「ギャァァァッ!!」


異形のバケモノが咆哮を上げ、巨大な腕を振り下ろしてくる。


「結衣ちゃん、危ないっ!」


レイ先輩が飛び出し、結衣を突き飛ばした。


ドゴォォン!!


先輩が、バケモノの腕の直撃を受けて壁まで吹き飛ばされる。


「がはっ……! あ……ぁ……」

「先輩っ!!」


自己蘇生の能力があるとはいえ、Aランク相当の攻撃をまともに受ければ、限界はすぐにやってくる。

先輩は血まみれになり、ピクリとも動かなくなってしまった。


「あ……あぁ……っ」


結衣は尻餅をついたまま、ガタガタと全身を震わせていた。

バケモノの赤く光る目が、今度は結衣を捉える。


「いや……来ないで……!」


結衣は左腕を前に突き出すが、魔弾は出ない。恐怖で集中力が完全に切れているのだ。


「私……漆黒の堕天使なんかじゃない……! 痛いのは嫌だ、死にたくない……っ!!」


ついに結衣の口から、中二病の殻を破って、怯えきった「本当の少女」の悲鳴が漏れた。

バケモノの巨大な拳が、結衣を押し潰そうと振り下ろされる。


(……クソッ!)


俺は結衣の前に躍り出ると、能力の出力をギリギリまで絞り、ポケットの中で右手を振るった。

直前、バケモノの拳の関節部にある水分を「絶対零度」で凍結させる。


ギシッ……!!


振り下ろされるはずの拳が、結衣の頭上わずか数センチで不自然に空気を噛み、ピタリと止まった。


「……え?」


結衣が間抜けな声を漏らす。

俺はそんな結衣に背を向けたまま、冷や汗を流しながら吐き捨てた。


「おい。お前がただのビビりな普通の女子だってことは、俺はさっき教室で知った」

「結城、くん…?」

「でもな! ここで気絶してる馬鹿な先輩は、お前が『最強の堕天使』だってことを、一ミリも疑わずに信じ切ってるんだよ!」


俺の言葉に、結衣はハッと息を呑んだ。

ボロボロになって倒れているレイ先輩。

彼は、結衣が強がって被っていた「痛いキャラクター」を、一切馬鹿にすることなく、本気で「かっこいい」と受け入れてくれた、初めての人間だ。


「結衣」


俺は肩越しに、怯える少女を真っ直ぐに見た。


「一人ぼっちから逃げるためのキャラなら、今すぐやめろ。でも、もしお前が、自分を信じてくれたあの馬鹿な先輩を守るために、本当に『漆黒の堕天使』になりたいって言うなら」


俺は、凍りついたバケモノの拳を睨みつけた。


「俺も、お前のその痛い設定を、全力で信じてやる」


空気が、静まり返った。

結衣は目を見開き、そして…ポロポロと涙をこぼした。

防衛機制でしかなかった設定。

虚勢。

嘘っぱち。

俺には彼女の気持ちは十分に理解できる。

でも、その嘘っぱちの自分に、初めて「仲間」ができたのだ。


「ふっ、フフフ……」


結衣が、立ち上がった。

その顔からは、もう先ほどまでの怯えは消え去っていた。

涙を拭い、彼女は自ら右目の眼帯を引きちぎり、地面に投げ捨てた。


「我が力は、世界を拒絶するためのものではない……!」


結衣の左目と、隠されていた右目が、同時に強い光を放つ。

この世界における能力は、「強烈な自分らしさ」の発現だ。

彼女は今、過去の自分を守るための『逃げの中二病』を捨て、仲間を守るための『攻めの中二病』へと、その精神の在り方を完全に書き換えたのだ。


「世界よ、我が真の姿に平伏せ……! 我は漆黒の堕天使、西城結衣!! 我が眷属に手を出した罪、その命で購え!!」


結衣の左腕の包帯が、凄まじい魔力……いや、個性因子の奔流によって弾け飛ぶ。

これまでとは桁違いの、文字通り「暗黒星雲」のような漆黒の重力球が、彼女の腕から生み出された。


「消えろぉぉぉっ!!」


放たれた重力球が、バケモノの胸ぐらに直撃する。

空間そのものを削り取るような圧倒的な破壊力。

バグによって生み出されたAランク相当のバケモノは、断末魔を上げる暇もなく、漆黒の光に飲み込まれて跡形もなく消滅した。

これが、本来の彼女の能力ということなのだろう。とんでもない存在だ。


『――ターゲットの消滅を確認。システムエラー修復。ログアウト処理を開始します』


無機質なアナウンスが響き、仮想空間の空が元の色に戻っていく。


「やった、やったぞ人間! 見たか私の力を!」


荒い息を吐きながら、結衣が俺の方を振り返って無邪気に笑った。


「……ああ。痛いけど、ちょっとだけかっこよかったぞ。堕天使」


俺がため息混じりに笑うと、結衣は顔を真っ赤にして「ふ、ふんっ!」とそっぽを向いた。


「う、うーん……あれ? 敵は……?」


そんな中、どうやらレイ先輩が自己蘇生を終え、ふらふらと立ち上がる。

結衣は慌ててレイ先輩に駆け寄った。


「フンッ、貴様が寝ている間に、私がチリにしてやったわ! 感謝するのだな!」

「わぁっ! さすが結衣ちゃん、最強の堕天使だね!」


二人のやり取りを見ながら、俺は胸の奥に温かいものが広がるのを感じていた。

結衣は過去を忘れたわけじゃない。

ただ、かつての防衛機制を「今の自分が幸せになるための本当の力」へと昇華させたのだ。

俺もいつか彼女のように、この「平穏なモブ」という殻を破って、本当の自分をさらけ出せる日が来るのだろうか。


「……素晴らしい奇跡だね」


ふと、ログアウトの光に包まれる直前。

視界の端の瓦礫の上に、いつの間にか戻ってきていた和真が立っているのが見えた。

彼は、結衣とレイ先輩が笑い合う姿をどこか酷く悲しそうな、冷たい瞳で見下ろしていた。

その瞳に宿る絶望の深さに、俺が気づくのは、もう少し先のことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ