-偽り-
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そんなサードセクターの視察を終え、俺たちは昼休みということで校内にある、カフェテリアへと赴いた。
傑聖高校のカフェテリアは、高級レストラン顔負けの豪華な作りだった。
しかし、ここでもランクによる見えない壁が存在しているのか、上位の生徒が景色の良い窓際の席を陣取り、下位生徒は薄暗い入り口付近の席に追いやられている。
「ククク……我が渇きを癒すのは、この『赤き供物』のみ……」
そんな周囲の生徒たちが遠巻きにヒソヒソと見つめる中、西城結衣はトマトジュースの紙パックにストローを突き刺し、大げさに喉を鳴らしていた。
「おおーっ! かっこいい! 僕も『供物』飲んでみたいなぁ」
「フッ、やめておけ。貴様のような光の住人が口にすれば、体内の魔力回路が焼き切れるぞ」
「そ、そうなのか……! 危なかった!」
目を輝かせるレイ先輩と、得意げに眼帯を直す結衣。
いつもと変わらない光景だ。
この二人を見ていると、なんだか落ち着くな――。
俺はそんなこと思いつつ、向かいで無言のまま購買で買った安物の焼きそばパンをかじっていた。
「……結城くん、本当にこのチームでよかったのかなって顔してるね」
そんな俺を見て、隣に座る和真が、品にサンドイッチを食べながらクスクスと笑う。
「お前が言い出したことだろ。俺はもう、胃薬が欲しいくらいだ」
ため息をつきながら、俺はチラリと結衣を見た。
入学して約一ヶ月。
俺たち四人のカオスなチームは、すっかりクラスでも「触れてはいけないヤバい集団」として定着してしまった。
原因の九割は、この中二病全開の少女にある。
だが、俺はずっと違和感を抱いていた。
本当に「痛い」だけの奴なら、他人の目線なんて気にせず、もっと堂々としているはずだ。
しかし結衣は、時折……ふとした瞬間に、周囲の冷ややかな視線にビクッと肩を震わせ、まるで「何かから隠れるように」大げさなポーズをとっているように見えたのだ。
その日の放課後。
忘れ物を取りに教室に戻った俺は、多分見てはいけないものを見てしまったのだろう。
「……あれ?」
夕日に照らされた誰もいない教室。
自分の席で、一人の小柄な女子生徒が、ノートに何事かを必死に書き込んでいる。
普段結んでいる髪は下ろされており、眼帯も包帯も、ジャラジャラとしたチェーンの装飾も一切ない。
どこからどう見ても、地味で大人しい、ごく普通の「図書委員」のような風貌の少女。
それが、あの西城結衣だった。
「あ、あの!も、もしよかったら、一緒に帰りませんか?いやダメだ、これじゃ普通すぎる。もっとこう、自然に……」
彼女は小さな声でブツブツと呟きながら、「友達の作り方」と書かれた本とノートを交互に見比べていた。そのノートには、魔方陣などではなく、普通の高校生が交わすような他愛のない会話のシミュレーションが、びっしりと書き込まれていた。
「……お前、何やってんだ?」
本来、見ないふりをするのが正解なのだろうが、俺は衝撃すぎるあまり、思わず声をかけてしまった。
「ひぃっ!?」
俺が声をかけた瞬間、結衣はビクーンッと全身を跳ねさせ、ノートを隠すように抱きしめた。
「た、田中結城……!? ち、違う、これは我が魔導書を翻訳していて!」
「眼帯、外れてるぞ」
「ああっ!?」
結衣は慌ててカバンから眼帯を取り出し、震える手で顔につけようとするが、焦りすぎてゴムがパチンと弾けた。
「痛っ……ぅぅ……」
涙目でうずくまる結衣。
その姿は、漆黒の堕天使などではなく、ただの不器用で臆病な普通の女の子だった。
「薄々勘づいてはいたけど、やっぱりな。お前、無理してキャラ作ってたのか」
俺の言葉に、結衣は顔を真っ赤にして、やがて観念したように俯いた。
「……言わないで。レイ先輩たちに、私が本当はこんな、つまらない普通の人間だってこと、言わないで」
絞り出すような声だった。
「私、昔からずっと、友達が一人もいなかったの。暗くて、地味で、誰からも話しかけられなくて……。それが、すごく辛かった」
結衣は自嘲するように笑った。
「だから、考えたんだ。『私は特別だから、孤独なんだ』って。『選ばれし存在だから、凡人とは馴れ合わないんだ』って……そう思い込めば、一人ぼっちでも、惨めじゃなくなるでしょ?」
それは、彼女なりの防衛機制なのだろう。
そして、それが西城結衣の「中二病」の正体、彼女の能力発症の要因なのだろう。
他人に拒絶されて傷つくくらいなら、自分からおかしなキャラクターを演じて、他人を遠ざければいい。そうすれば、「避けられている」のではなく、「自分が避けている」のだと思い込める。
……ああ、なんだ。
「お前も、俺と同じじゃないか」
「え……?」
俺が思わず呟くと、結衣は不思議そうに顔を上げた。
他人の期待という視線に潰され、絶望し、傷つきたくなくて「誰の目にも留まらないモブ」という殻に引きこもろうとした俺。
他人の無関心という孤独に傷つき、「漆黒の堕天使」という殻を被って自分を守ろうとした結衣。
ベクトルは逆だが、やっていることは全く同じだ。
俺たちはどちらも、本当の自分を偽って、残酷な世界から逃げていただけなのだ。
「結城くーん! 結衣ちゃーん! 早く早く! 次の訓練が始まるよ!」
廊下から、空気を読まないレイ先輩の明るい声が響いた。
結衣はハッとして、これ以上はバレたくないのか慌てて包帯を腕に巻き始めた。
「い、行くぞ、人間!我が魔力が暴走する前に!」
必死に震えを隠し、いつもの「キャラ」を纏おうとする結衣の背中を、俺はなんとも言えない気持ちで見つめていた。




