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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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72レイテ沖海戦2(シブヤン海海戦)

「フレッチャーのヨークタウンはどうした。返答を渋るな」


ハルゼー中将の低い声が、エンタープライズの艦橋に満ちる緊張感をさらに鋭く研ぎ澄ませた。


「・・・中将、ヨークタウンは大破。修理の目途すら立っておりません。仮に動いたとしても、載せるべき航空隊が枯渇しております。それは、本艦の僚艦となるサラトガも同様です」


「ッ、ぺッ!」


ハルゼーは、汚らわしいものを吐き捨てるかのように、デッキに唾を吐いた。


トラック諸島沖――。そこでパーフェクトゲームを演じるはずだった米機動部隊を待っていたのは、まさかの逆襲だった。レキシントン沈没、ヨークタウン大破。その惨状は、ハルゼーのプライドをずたずたに引き裂いた。


「上層部の連中は何もわかっておらん。戦艦部隊を無傷でフィリピンへ送り込んだ程度で、この海の勝敗が決したとでも思っているのか? 我が任務群が、停泊中とはいえ日本の戦艦を撃沈した事実を、どう見ている?」


「閣下、それは・・・」


副官は言葉を濁した。ハルゼーの言う通りだ。空母が戦艦を沈められることは証明された。ならば、より射程の長い空母こそが海の覇者である。だが、それを公言することは、大艦巨砲主義に固執する司令部の意思決定を真っ向から否定することになる。


「ふん。日本軍の空母は健在だろうが、戦力は大幅に削られているはずだ。空母など、一度使えばしばらくは使い物にならん。我がエンタープライズ以下四隻が、これほど無傷で残っていることの方が幸運というものだ」


「しかし閣下、日本軍には翔鶴、瑞鶴の航空隊が残っています。軽空母をかき集めれば、我らと近い数になる可能性も・・・」


ハルゼーら米空母乗りたちは、日本側航空機の損害も自分たちと同程度だと信じ込んでいた。過大に報告された味方の戦果が、彼らの目を曇らせていたのだ。


「正規空母四隻に対して中型二隻、さらに軽空母か。・・・いいだろう、搭載機数ではこちらが圧倒的に有利だ。で、敵は動いたのか?」


「はっ! マニラのマッカーサー将軍より、日本空母がルソン島沖から西へ向かったとの報が入っております」


「フィリピン現地人からの情報か。ルソン北部を制圧されている現状では、まともな航空偵察など望むべくもないな」


「仰る通りです。既にB-17部隊は壊滅したと聞き及んでおります」


ハルゼーの顔が怒りで赤らんだ。


「百機だぞ!? 百機もあったB-17が、わずか一ヶ月で全滅だと? 陸軍の戦闘機乗りどもは、一体何をしていた!」


「それが、我が軍のP-40では、日本の新型(零戦)には太刀打ちできないようでして・・・」


この世界線、歴史は残酷な皮肉を見せていた。 開戦当日、クラーク基地から台湾を奇襲したB-17部隊は、電探による的確な迎撃を受け、一夜にして六割を喪失。その後、掩体壕えんたいごうもない剥き出しの滑走路で、零戦と一式陸攻の猛火にさらされ、文字通り根絶やしにされたのだ。


「・・・マッカーサーには、生き残りのB-17で洋上偵察を行えとでも伝えておけ。まあ、期待はせんがな」


実際、仮に飛べる機体があったとしても、日本陸軍が持ち込んだ移動式レーダーに捕捉され、戦闘機の餌食になるのが関の山だ。


「進路を東へ! 索敵機放てッ!」


南シナ海を北上し、目指すはシブヤン海。ハルゼーの幕僚たちは、日本軍がレイテの揚陸部隊を叩くために、必ずその内海へ侵入すると確信していた。


「閣下、我らもシブヤン海へ入りますか?」


「当然だ。そこに敵がいるとわかっていて、背を向ける道理があるか!」


山口も、ハルゼーも。 空母という兵器の正解を誰も知らないこの時代、二人の闘将は等しく同じ決断を下した。――空母を、狭い閉鎖海域へと投じるという、危険な決断を。


広い海に紛れ、どこから来るかわからない隠匿性こそが空母の生命線。逃げ場のない海域、出口の限られたシブヤン海へ入ることは、自らの弱点を晒すに等しい。だが、彼らはまだそれを知らなかった。


エンタープライズの甲板から、次々とSBDドーントレスが発艦していく。 しかし、滑らかな発艦のリズムが、不意に乱れた。


「どうした? 偵察機の発艦が止まっているぞ」


「・・・どうやら、予定機に故障が生じた模様です。復旧までおよそ五分」


副官の言葉に、ハルゼーは不快そうに鼻を鳴らした。


「幸先が悪いな。我がエンタープライズで、つまらんミスは見たくないものだ」


「申し訳ございません」


だが、ハルゼーはまだ知る由もなかった。 この、空白の五分が、後に奇跡の敵艦隊発見をもたらすことになるのだということを。






「索敵線に引っかかりませんね・・・。閣下、このまま突入しますか?」




伊東参謀長の問いに、山口多門は海図を見つめたまま、短く、重い沈黙を返した。


シブヤン海の入り口まで到達しながら、放った索敵網には何もかからない。だが、それがかえって山口の背筋に冷たい予感をもたらしていた。




「いや、南シナ海に向けてもう一度、索敵をやり直す。索敵線の密度を倍に増やせ。龍驤から九七艦攻を六機追加発進。シブヤン海の西口を丹念に洗え」




「承知しました!」




山口多門という男は、けっして楽観に身を委ねる指揮官ではない。


事実、瑞鳳から放たれた索敵機が描く線、そのちょうど空白となった海域を、ハルゼーの第十六任務群は音もなく進んでいたのだ。




そして、運命の女神は先にハルゼーへ微笑んだ。




「――かかったぞ! ネズミどもめ、やはりシブヤン海にいやがった!」


エンタープライズの艦橋で、ハルゼーが野獣のような咆哮を上げた。


「全空母、攻撃隊発進ッ! 一機残らず叩き出せ!」




その三十分後、四隻の米正規空母から放たれた二百二十機を超える大群が、空を黒く塗りつぶした。あの不調による五分の遅れが、皮肉にも米軍の索敵線を修正し、シブヤン海を進む山口艦隊の真上へと導いたのだ。




「閣下! 早期警戒機より緊急入電!」


飛龍の艦橋に、悲鳴に近い報告が飛び込む。


「ルソン島のB-17か!?」


「いえ、この機数・・・空母艦載機です!」




山口の瞳が鋭く細められた。


「先手を取られたか・・・ッ! 各艦、露天係留中の直掩機を直ちに発艦! 祥鳳は上げられる機体を一機残らず上げろ!」




間髪入れず、甲板に繋ぎ止められていた零戦たちが次々と咆哮を上げ、短い滑走で空へと駆け上がっていく。空中哨戒中の機体と合わせ、その数、四十二機。


だが、迫り来る鉄の嵐は二百二十機。圧倒的な数的不利は明白だった。




「閣下、各艦の攻撃隊は現在、陸上攻撃用の装備です! 兵装転換を命じられますか!?」




「いや、このまま行く!」


山口は遮二無二叫んだ。


「先手を取られた以上、悠長に兵装転換をしている暇はない! 陸用爆弾だろうが何だろうが、当たれば敵の甲板は叩ける。甲板上の機体を固定しろ! 回避運動の衝撃で海に落とされては堪らんからな!」




そう、この世界線の一段格納庫と露天係留は、かつての渋滞を解消したが、同時に回避時の機体保持という新たな試練を突きつけていた。




「来るぞ・・・。対空戦闘、始めッ!!」




山口の号令とともに、飛龍が、蒼龍が、その巨体を激しく傾けた。


水平線の向こうから押し寄せる急降下爆撃機の群れ。それを受け流し、食らいつく。




飛龍艦長が、まるで荒れ狂う猛獣を御するように操舵を叫ぶ。


それは、死と踊る円舞曲ダンスの始まりだった。




「相手はフレッチャーか。ヨークタウンを失い、レキシントンをも失い・・・それでもなお残存空母を駆って我々の前に立ち塞がるとはな」




山口多門は、敵将の名を刻むように呟いた。その瞳には、宿敵に対する奇妙な敬意が宿っている。




「世間では徹底した慎重派と言われているが、私はそうは思わん。前の海戦では二度にわたる波状攻撃を繰り出し、あの一航戦をも合わせると三度もの猛攻を敢行してみせた。・・・伊藤君、向こうの司令も相当な闘将だよ。生半可な一撃では、あの勇猛な男を捉えることなどできん」




トラック諸島沖のときとは違う。完璧な輪形陣を敷いた二航戦は、降り注ぐ爆弾をかわし、敵攻撃隊から逃れきっていた。その刹那、飛龍の艦橋に歓喜と緊張の入り混じった電文が飛び込む。




『敵機動部隊、発見!』




「ホーネットに新顔のワスプか。・・・向こうも必死だな、伊藤君」




「敵は正規空母二隻。ですが閣下、我が攻撃隊には赤外線誘導爆弾が搭載されていません。敵機動部隊の弾幕を、通常爆撃を抱いて突破せねばならんとは・・・」




伊藤参謀が懸念を口にする。米軍の対空砲火は手ぐすねを引いて待っている。だが、山口は不敵に、獰猛に笑った。




「誘導爆弾か。確かに合理的だが、要は当たれば同じことだ。私の作戦に守りという要素は存在せん」




山口は瑞鳳機から届いたばかりの敵座標を、机上の海図に指先で叩きつけた。




「第一波、直ちに発進! 続いて第二次攻撃隊を編成。編成を二種に分ける。飛龍は攻撃機を、蒼龍は爆撃機の準備を。その隙に祥鳳と龍驤の零戦隊を組み上げろ!」




単機能化による分業制。


飛龍が九七を、蒼龍が九九を長槍へと仕上げる。


史実の二段格納庫という渋滞に泣かされた日本空母の姿は、ここにはいない。そこにあるのは、獲物の喉笛を食い破るためだけに最適化された、純粋な暴力の実行装置だった。




「数が多いだけの機動部隊など、この圧倒的な速度の前には無力だと教えてやれ」




シブヤン海の島影から、次々と発艦していく攻撃隊。




「さあ、トラックから続くこの腐れ縁・・・。ここで決着をつけようじゃないか、フレッチャー君」




山口の号令とともに、飛龍の甲板から九七式艦攻が滑り出す。それは、一秒を削り、一機を敵上空に確実に届けるための機能美の極致であった。

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