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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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71レイテ沖海戦1(シブヤン海海戦)

一九四二年一月――。


トラックの奇襲を受け、戦艦部隊を撃滅された日本海軍は、絶望的な後手の戦いを強いられていた。太平洋に点在する米軍基地に対し、二航戦による嫌がらせじみた散発的な空襲を繰り返すことしかできない。




しかし、二月に入り戦局はわずかにその色を変える。


台南空の零戦と一式陸攻が、死に物狂いの航空撃滅戦を展開。二月頭にはフィリピン上空の脅威を排除する事に成功した。




「いよいよ、空母決戦か」


陸軍部隊の揚陸が開始され。それを支えるのは、闘将、山口多門少将率いる第二航空戦隊。作戦自体は順調だった。だが、九七式飛行艇がもたらした偵察情報は、軍令部を凍りつかせた。




――レイテ湾に、米軍の大がかりな増援部隊が集結中。




史実とは異なり、不意打ちによる開戦に引きずり込まれた日本は、哨戒網の隙を突かれ、あろうことか米軍の救援部隊の接近を許してしまったのである。




迎撃部隊は、直ちに編成された。


あいにく翔鶴、瑞鶴の五航戦は欧州への航空機輸送任務に就いており、不在。軍令部は、二航戦、飛龍、蒼龍に加え、本来の役割を失っていた四航戦、龍驤、祥鳳、そして三航戦、瑞鳳を山口に押し付け、中型空母二隻、軽空母三隻という臨時編成を強いていた。




ルソン島沖、荒れる波を切り裂いて進む飛龍の艦橋で、山口多門は鋭い眼光を海に投じていた。




「しかし、閣下・・・。失礼ながら、今回なされた配置、実に面白いと言いますか・・・」


参謀長の伊藤が苦笑まじりに言葉を継いだ。


「祥鳳に直掩用の零戦のみを積まれたことですよ。確かに、軽空母に複数の任務を負わせるのは運用上、悪夢ですからな。合理的ではありますが・・・」




山口は唇の端をわずかに上げた。


「トラック島沖でな、直掩機の発着艦に手間取って、攻撃隊の編成が遅れる様をこの目で見てな。あの煩わしさは、もう御免だ」




「なるほど。・・・ですが、逆に瑞鳳に偵察用の九七艦攻のみを満載されたのは、さすがに恐れ入りましたよ」




「目は多いに越したことはない」


山口は断言した。




「飛行甲板と格納庫の運用に時間を割くのが惜しいのだ。各艦に役割を単機能化させれば、発艦準備の早ささえ武器になる。・・・敵はすぐそこまで来ているのだ。一秒を削り出した者が、この海を制する」




猛将の視線の先、水平線の向こう側には、米機動部隊の影が忍び寄っていた。




空母の運用――それは、荒れ狂う洋上で行われる、極めて面倒で時間を削るパズルの様なゲームだ。


攻撃隊を編成し、一刻も早く発艦させんと焦るその隙を突いて、敵の急降下爆撃機は空から爆弾を振り撒いてくる。一瞬の判断ミス、わずかな作業の遅れが、巨大な空母を瞬時に鉄屑へと変えてしまう。




だからこそ、山口多門は決断したのだ。


各艦に役割を振り分け、空母運用の渋滞を物理的に排除する。それは、この世界線の日本海軍がたどり着いた、一つの合理的帰結であった。




史実において、日本軍空母設計には呪縛があった。


二層二段格納庫――限られた船体に一機でも多くの数を詰め込もうとした、執念の産物。しかし、その実態は運用上、致命的な欠陥だった。




一段目から出すか、二段目から出すか。その二者択一が常に管理者たちを苦しめる。下段の機体を引っ張り出すには、時間がかかる。そして、エレベーターが作動している間、甲板上の作業はすべて止まる。それは、迅速性を奪う交通渋滞であった。




さらに、その構造は防御面でも呪われていた。


二段構造を支えるために飛行甲板下の強度は犠牲となり、爆弾一発で飛行甲板が捲れ上がる。密閉された格納庫は、火災が発生すれば巨大な煙突と化し、熱風と火炎を上下層へ一気に送り込む。逃げ場を失った爆発は、艦の内側から爆ぜるのだ。




一方、ライバルである米軍の空母は、清々しいほどにシンプルだった。


一層一段の開放式格納庫。彼らは知恵と工夫を凝らし、機体を天井から吊り下げ、あるいは露天に係留することで、日本軍を上回る艦載機数を確保していた。


何より、被弾してもその爆風は舷側のシャッターから外へと吹き抜け、飛行甲板は守られる。煙突効果による全艦炎上という悪夢からも、彼らは無縁だった。




一機でも多く積め!


史実では、その強迫観念が運用のデメリットに蓋をしていた。


しかし、この世界線は違う。対米決戦の足音が遠かったがゆえに、使い勝手という実利を重視する余裕が生まれたのだ。




転換点となったのは、海軍工廠の異端児、高木少佐が提出した一枚の報告書だった。


「機体を吊り下げればいい。入りきらなければ、甲板に繋いでおけばいいのです」


畑違いの部署からの進言だったが、その柔軟なアイデアは直ちに採用された。




無理に二段に詰め込むのではなく、一段の広大なスペースで、シンプルに、そして迅速に。


飛龍の艦橋から瑞鳳や祥鳳を見やり、山口は不敵に微笑む。




「戦いを前に問題パズルを解くのは私の仕事だが、ピースが動かないのでは話にならんからな。・・・さあ、米軍の増援部隊とやらに、私達の知恵で歓迎を見せてやろうではないか」




山口の号令とともに、単機能化された空母群の甲板が、かつてない軽やかさで動き始めた。




「それにしても閣下、陸軍からの横槍・・・いえ、要請はどうされます?」


伊藤が、苦笑いを浮かべながら通信紙を振ってみせた。




山口多門は海図から視線を上げず、吐き捨てるように応じた。


「放っておけ。軽空母を一隻ルソン島沖に残したところで、何の気休めにもならん。敵は正規空母だ。少なく見積もっても三隻は投入してくるだろう。陸軍の連中は安心したいのだろうが、それは決して安全を意味せん」




「違いありませんな。目に見える護衛という形が欲しいのでしょうが、こちらとしては貴重な駒を削られるようなものです」




「そもそもだ、陸軍には自分たちの優秀な戦闘機があるだろう?」


山口の言葉に、伊藤は頷いた。


「ええ。航続距離も彼ら(陸軍)にしては破格だと聞いております。自分の身は自分で守ってもらう・・・戦場では当然の理屈ですな」




史実において、日本軍は珊瑚海で致命的な過ちを犯した。輸送隊の要請に折れ、軽空母祥鳳を分派。その結果、孤立した彼女はなぶり殺しにされ、海に沈んだ。


だが、この世界線は違う。




幸いにもフィリピンの揚陸はすでに完了し、陸軍航空隊が活動していた。


さらに、この世界の空には異変が起きていた。スバルの涼宮鷹尾代表なる人物が、試作競争で三菱に敗れた腹いせに、これでもかと新機軸を詰め込んだ九七式重爆が配備されていた。九六式陸攻並みの航続距離を誇り、重爆でありながら対艦攻撃すらこなす。陸軍はすでに、自前で海を制するだけの武器を持っていた。




「さて・・・次は勝てるかな?」


山口がふと、独り言のようにつぶやいた。


「・・・負けるおつもりなど、これっぽっちもないのでしょう?」


伊藤が茶化すように返すと、山口は苦笑して肩をすくめた。


「意地悪を言うな。負けたがる指揮官がどこにいる」




「それは失礼しました。ですが、これほどまでに工夫を凝らした布陣を敷かれたのです。さぞかし絶対の自信がおありかと思いまして」


「伊藤君、君は少々、私を自信過剰な男と見過ぎではないか?」


「先日のトラック島沖海戦の指揮ぶりをこの目で見たのです。当然の評価でしょう」




「う、うむ・・・。あの時は自分でも驚くほど闘志が湧いてな。正直、戦闘が終わった後は、安堵で腰が抜けるかと思ったほどだ」


「闘将、山口多門提督とも思えない発言ですな」


「私だって人の子だ。あれは、いわゆる火事場の馬鹿力というやつだよ」




「今回も、その馬鹿力に期待させてもらいますよ。何しろ軍令部は、中型空母二隻に軽空母を添えただけで、米軍の正規空母三乃至(ないし)四を相手にしろと言っているのですから」


「・・・まあ、互角には持ち込んでみせるさ」




山口は努めて淡々と、心強い言葉を口にした。


だが、その内では百も承知だった。数的不利は決定的。戦う前に戦力を揃えるという戦略段階において、日本はすでに敗北している。




しかし、逆境であればあるほど、彼の魂には激しい炎が灯る。


絶望的な状況でひっくり返す。その瞬間を、山口多門の全脳細胞が待ち望んでいた。




「全艦隊、増速。――米軍には、日本軍空母の進歩性を見せてやる」




飛龍の艦橋に、静かな、しかし苛烈な戦意が満ちていった。

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