第71話 アッシュ視点 特別な3人
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アッシュ視点:「あいつらは、やっぱり――特別だ」
谷に再び静けさが戻ったころ、アッシュは一本の短剣を地面に突き立て、深く息を吐いた。
火照った体を冷やすように、風が頬を撫でる。けれど、それでも胸の奥は熱を持っていた。
「……ったく。命懸けにも程があるぜ、まったく」
小さく笑って呟きながら、アッシュは仲間たちの姿を見やった。
剣を鞘に納めたカールは、あいかわらず落ち着いた顔をしていた。
いや、本心はどうだか知らない。けれど――
「本当に、どこまでも背中を預けられる奴だな。お前ってやつは」
戦いの最中、竜の咆哮にも怯まず、仲間に的確に指示を飛ばし、最前線で斬り込んだ男。
一見冷静で寡黙な剣士。でも、命を懸けてでも守ろうとするものがある時、その瞳は――燃える。
「……本物の“剣聖”ってのは、こういう奴なんだな」
そう、心から思った。
ただ強いだけじゃない。誰よりも信頼できる剣の使い手。それが、カール=キリトだった。
そして――
「セリア=フォン=ルゼリア、か……」
彼女の戦い方は、華やかで、美しくて、それでいて、冷静だった。
氷魔法と連携のセンス、そしてなにより、あの場で恐怖を超えて突き進む勇気。
「お姫様ってのは、もっと守られるもんかと思ってたが……お前、誰よりも戦ってたな」
氷封の魔法陣を展開しながらも、カールの剣を信じて走る姿は、まさに“戦う貴族令嬢”。
正直、あの瞬間――惚れそうになった。
いや、惚れたかもしれない。
けど、あの視線の先にいたのは……間違いなく、カールだった。
「はは……手強いな、お前らの関係」
そう呟きながら、もう一人の少女を見た。
リアナ=クラウゼ。天才魔術師と呼ばれた少女。
雷精霊の力を一手に扱い、あの竜の頭上に雷槍を叩き込んだ魔導士。
「最初は、ちょっと近寄りがたかったけどな……」
口は悪いし、態度もつっけんどんだ。
けれど、それでも、あの風の逆流に巻き込まれた後、誰よりも早く立ち上がろうとしていたのは彼女だった。
「“あいつのために戦いたい”って気持ち、隠してるつもりでも……見えてるぜ、リアナ」
そう――
彼女もまた、カールを見ていた。セリアと同じように。けれど少し違う形で。
「あーあ。三角関係ってやつか……」
アッシュは頭をかきながら、苦笑した。
けれど、不思議と羨ましいとは思わなかった。むしろ、見ていて、ただ心が温かくなった。
「……お前らと一緒にいてよかったよ、マジで」
誰もが自分の力を尽くして、誰かを信じて、共に戦った。
それは、アッシュがこれまで経験してきたどんな戦いよりも、ずっと「信じ合う強さ」に満ちていた。
谷に残る風の音が、静かに鼓膜をくすぐる。
アッシュは短剣を抜き取り、それを鞘に納めながら、笑った。
「さあて、剣聖様。次はどんな騒ぎに巻き込んでくれるんだ?」
そう呟いて、仲間たちの背を追った。
風が、再び彼のマントを揺らした。
それは、まるで新たな旅の始まりを祝福するように――。
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