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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第一章 剣聖、黒衣の騎士 カール=キリト誕生編

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第66話 リアナ=クラウゼ始動する!

「私は、まだ……」



王都ルメリア。夕暮れの帳が降りる頃、魔術省の一角にて。


リアナ=クラウゼは、机に山積みされた報告書を片付けながら、ふぅと小さく息を吐いた。

疲れた肩を軽く回したその時、穏やかな声がかかった。


「クラウゼさん。今日も遅くまで、お疲れさまです」


声の主はアンドーン。彼女よりも少し年上の魔術省の上級技師で、最近になってよく話すようになった同僚だ。冷静で理知的、少し皮肉屋だが、どこか誠実な雰囲気をまとっている男。


「……アンドーンさんこそ。毎日、残業ですね」


軽く笑い返すと、彼は少しだけ照れたように頬をかいた。


「良ければ、夕食でもどうですか。行きつけの店が近くにあって。君とゆっくり話したいと思ってた」


一瞬、リアナは戸惑った。だが、曖昧に頷いていた。なにより、心にぽっかりと空いた穴を埋めるように――誰かと一緒にいたかったのだ。



レストランは落ち着いた雰囲気の店だった。料理も上品で美味しく、会話も穏やかに弾んでいた。アンドーンは冗談を交えながら、彼女の研究に興味を持ってくれているようだった。


そして、食後のコーヒーが運ばれてきた頃。

アンドーンは、静かに言葉を切り出した。


「リアナさん。僕は……あなたのことが好きです。もしよければ、僕と真剣に付き合ってもらえませんか?」


――その言葉に、一瞬、時が止まったようだった。


リアナは口を開けたまま、何も言えずにいた。

それは確かに好意の告白だった。ずっと自分に向けられた優しさの意味も、ようやく分かった。


だが。


――嬉しくない。


胸が高鳴るどころか、何も感じなかった。ただ、心の奥に冷たい虚無が広がっていく。


「……ごめんなさい」


そう呟くように言ったリアナに、アンドーンはわずかに目を伏せた。


「そうか……いや、無理にとは思ってない。答えてくれてありがとう」


彼は大人だった。責めることも、詰め寄ることもなかった。それが余計に、リアナの心を締めつけた。


「……わたし、まだ……カールが好きなの。諦めたはずだったのに、セリアに勝てないって、思ってたのに……」


リアナの指先が、膝の上で小さく震える。


アンドーンは、少しだけ苦笑しながら口を開いた。


「……そういえば、知ってるかい? カール=キリトが、エミリーゼ=フリューゲン王女殿下と婚約したって話。結婚も、近いうちだそうだ」


「……え?」


耳を疑った。


さらに続いた言葉は、決定的だった。


「それに、セリア=ノルドも、側室として迎える準備が進んでるらしい。カールの許嫁は二人になる……ってね」


その瞬間、リアナの胸に灼けるような嫉妬が込み上げた。


――ずるい。

――セリアがいたから、私は引いたのに。

――私は、誰にもなれなかったのに。


リアナは、ハッと立ち上がった。


「……すみません、用事を思い出しました。今日は、本当にありがとうございました!」


そう言い残すと、彼女はそのまま走り出した。店を出て、夜風を切るように、一直線に。


向かうは――カールの邸宅。



カールの邸宅の前に立ったリアナは、胸の鼓動がうるさいほど高鳴っているのを感じていた。


扉を叩くと、すぐに使用人の女性が出てきた。事情を告げると、ほどなくしてカールが現れた。


「リアナ……? こんな夜に、どうした?」


相変わらずの落ち着いた声音。

けれど、その顔を見た瞬間、感情が溢れ出した。


「カール……私、ずっと黙ってた。あなたがセリアといるのを見るのが、辛かった。でも、あの人がいたから、私は何も言えなかった。でも――今日、分かったの。私、あなたを……本当に好きだったんだって」


涙ぐんだ目で、まっすぐ彼を見上げる。


「だから、お願い。私を……カールの側室にしてください」


カールは驚いたように目を見開いた。だが、すぐに真剣な眼差しに変わり、言った。


「……セリアに、確認させてくれ。お前が傷つくような形には、絶対にしたくない」



翌日、セリア=ノルドと対面したリアナは、ただ頭を下げた。


「勝手なお願いをして……すみません」


だが、セリアは優しく笑って言った。


「リアナさんが来てくれて、私は嬉しい。あの人は……あなたのような人が、そばにいてくれた方がいいと思うの」


――その日から。

リアナは、カール=キリトの側室として、新たな一歩を踏み出すことになった。


胸の痛みも、涙も、すべては――愛してしまった証。

けれど、それでもいい。

ようやく自分の気持ちを、偽らずに生きられるのだから。

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