表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第一章 剣聖、黒衣の騎士 カール=キリト誕生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/268

第67話 ティナのゆめ、およめさん

「ティナのゆめ、およめさん」



春の風がやさしく吹き抜ける午後。カール=キリトの邸宅の中庭では、今日も子狼ルゥが元気に駆けまわっていた。


「まってー! ルゥ、こっちだよー!」


その後を追いかけるのは、くるんとした栗色の髪を揺らす少女――ティナだ。まだ年端もいかぬ小さな体ながら、その瞳は誰よりも真剣で、無邪気な笑顔は庭いっぱいに広がる陽光よりもまぶしかった。


そんなティナが最近、胸の奥でふつふつと募らせているものがある。


それは――「けっこん」。


しかも、お相手はただの人ではない。


「……カールおじさんとけっこん、したいの」


ある日の夕暮れ。ティナは、夕食の支度をしている母・レーナにそう告げた。


「……え?」


じゃがいもをむいていたレーナの手が止まる。思わずそのまま固まってしまった。


「だって、カールおじさん、セリアおねえちゃんとけっこんするんでしょ? リアナおねえちゃんも、おひめさまも。いっぱいけっこんするなら、わたしもしてもいいよね?」


ティナは真剣だった。レーナは慌てて包丁を置いて、娘の前にしゃがみ込んだ。


「ティナ、気持ちはうれしいけど……まだ、ティナは小さいのよ?」


「うん。でも、すきなんだもん。カールおじさん、やさしいし、ルゥともあそんでくれるし……ティナのこと、だっこしてくれるもん!」


その瞳はきらきらと輝いていた。まるで宝石のように。レーナはそれを見て、思わず苦笑いを浮かべる。


「じゃあ……もっと大きくなったら、そのときにまたお話ししましょうね?」


「……うん。やくそくだよ」


ティナはしっかりと頷いた。



数日後の午後。庭では、ルゥがカールとじゃれ合っていた。


「よしよし、ルゥ、おまえ元気だなあ。……ん?」


カールの前に、ちょこちょことティナがやってきた。両手を後ろに組みながら、なんだかもじもじしている。


「どうした、ティナ?」


「ねぇ、カールおじさん……」


ティナはきゅっと唇を結び、決意を込めた声で言った。


「わたし、カールおじさんとけっこんしたいの!」


「ぶっ……!」


思わず、カールはルゥに舐められていた顔を拭きながら、軽く咳き込んだ。


「け、けっこん? ……ティナ、どうしてまた急にそんなことを?」


「だって、おじさん、いっぱいけっこんするでしょ? セリアおねえちゃんも、おひめさまも、リアナおねえちゃんも。じゃあ、ティナも……いっしょに、カールおじさんとけっこんしたい!」


その言葉に、カールは優しく笑った。


「ありがとう、ティナ。そんなふうに言ってくれて、うれしいよ。でもね、結婚は、大人になってからするものなんだ」


「じゃあ、ティナ、おおきくなる! そしたら、けっこんしてくれる?」


ティナはまっすぐな目でそう言った。


「……そうだな。もっと大きくなって、素敵なお姉さんになったら。そのときに、また話そう。……約束だ」


カールはそう言って、ティナの頭をぽんと撫でた。


「うん! やくそくね!」


その光景を、テラスの椅子に座って見ていたリアナが紅茶を片手に肩をすくめた。


「……あらあら」


「リアナ?」


カールが顔を向けると、リアナは少し呆れたように、でもどこか温かい笑みを浮かべていた。


「幼くたって、あの娘も“女”なのよ? 油断してると、本当に将来、取られちゃうかもよ?」


「……いやいや、さすがにそれは」


「ふふっ。でも、あのまっすぐな想いは……うらやましいくらい。ね、カール?」


リアナの視線が、ほんの少し切なげに揺れる。だがそれもすぐに、からかうような笑顔に戻る。


「まぁ、どうなっても知らないから。責任、ちゃんと取ってね?」


カールは頭を掻きながら、苦笑した。


「なんだって巻き込まれるんだ、俺は……」


でも、そんな風にからかわれても、嫌ではない。


ティナの真っ直ぐな気持ちも、リアナの冗談めいた優しさも――彼にとっては、大切な「家族」の一部だった。



その日の夜。眠る前、ティナはベッドの中で毛布を抱きしめながらつぶやいた。


「わたし、もっとおっきくなったら……カールおじさんのおよめさんになるんだ……」


月明かりの差し込む部屋に、少女の夢と願いが、そっと溶け込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ