↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味顔の短期雇用専門メイドは、実は美人です。しかもワケあり、養母は最強。  作者: 小田ゆなこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/600

ミモザの城ー恋愛遊戯・3

 ドキドキとおかしな胸の高鳴りが止まらないルナを含めて皆、ヘザーの次の言葉を待っている。


「乗馬のレッスンをしましたの」


まさか。ルナの背中にイヤな汗が伝う。


「その時にセディも遊びに来て」

というよりルナに会いに来たんでしょ? と笑う顔が無駄に可愛らしい。と思う。思うけれど。


「セディが、ルナの乗馬用の服を持ってきたの。珍しい色だったわよね、あれは。深い青色で。布地から染めさせたって言ってたじゃない」


 背中どころか手のひらまで汗ばんで来たルナは、膝の上でそっと汗を拭いた。


「私がセディに『普通はシャツは白でズボンは黒よ』って言ったら、黒は虫が寄りやすいからこの染料がいいんだとか何とか。それで、私思ったの」


ヘザーが何を思ったのか。聞くのが怖い。


「セディはルナが本当に好きなんだなって」



 テーブルに漂うおかしな空気に全く気付かず、紅茶に口をつけるヘザーは、実は大物なのかもしれない。ルナには、もはやどこから訂正していいのかもわからない。


 先程までは気恥ずかしかったが、今や穴があったら入りたい。というより二度と穴から出たくない。どうにかして床に穴を掘りたいと、ルナが逃避している間に、沈黙を破る声がした。



「なにぶん不勉強で、公国のメイドの立場が分からないのだが。ヘザー嬢とルナさんは随分と仲がよろしいようで」


 メイドがご令嬢と一緒にマナー教育を受けるとは、とアランがヘザーに顔を向ける。


「あら、だって。ルナは幼なじみで学友ですもの。子供の頃には、おじい様の家に夏中ルナも滞在して一緒に勉強しましたのよ。絵とか音楽も。ねえ、ルナ。あの夏は本当に楽しかったわよね」


ヘザーがルナに、同意を求める。


「私がのんびりさんだから、しっかり者のルナはお姉さんみたいですけれど」


付け加えて、シャルルとアランに笑顔を向ける。


「ヘザー。それ、言っては駄目なお話だから……」

「え? そうだった?」


 ルナの声に力はない。もはや頭を抱えたい。きょとんとするヘザーはいつも通りだ。そう、ヘザーはそういう子だった。


「成る程。で、ヘザー嬢の御学友が」


「御」を強調するアランが続ける。

「今回、メイドをしている理由は?」


「おじい様よ。私がこんな風だから、おじい様が心配してルナの推薦状を書いて、同行を申請しましたの」


あら、これも言ってはダメだった? とヘザーは無邪気に聞いてくる。ルナは首を横に振った。



 今となっては、何を隠そうにも手遅れだ。どうにでもなれ、と一口も飲んでいなかった紅茶を一気に半分飲む。口の中が渇いていた。


紅茶は冷めきっている。注ぎたさずに新しい茶葉で淹れ直そう。次はうんとしっかりとした味のものを。ルナは無理矢理、頭を別方向に働かせる。



「ここにいるのは、兄と僕とお二人だけです」


シャルルの微笑はルナに向けられていた。


「他には漏らしませんから、普段のおふたりの関係を見せてはくれませんか」


提案されて、思わずアランを見る。


「気付いていないようだが、ヘザー嬢に『ヘザー』と呼び掛けた時点で、綻びは見えている」


 指摘されて、ルナは納得した。確かに。ついいつものように、ヘザーと敬称抜きで呼んでしまった。やはり事が露見するのは、自分が原因なのだ。迂闊(うかつ)過ぎる自分を呪いたくなる。



ルナの諦めを見てとったアランが「さて」と、ルナへと椅子ごと体を向けた。


「聞き捨てならない事が、いくつかあったようだが……ルナさん」


猫がネズミを見るような目付きをされて、ルナはすこぶる居心地が悪い。


「さん、は結構です。どうぞ、ヘザーのようにルナとお呼びください。シャルル様も」


シャルルの穏やかな笑みが目に入る。ご兄弟でも大層な違いだ、と思う。


「伯爵家の御嫡男セドリック・レアード様と恋仲?」


 口にしてもいない正式名で聞くアランに、いきなり穴に突き飛ばされたような気がして、ルナはぶんぶんと音がしそうな程に首を横に振った。


そんな勘違いをさせては、セドリックに対し失礼にもほどがある。


口を挟もうとするヘザーを、アランが目で軽く制した。


「では、贈られたドレスと靴、というのは?」


 そもそも頂いたのは、ドレスではなく野歩き用の服一式で、靴はダンスシューズではなく、編み上げブーツである。


ルナの説明に「野歩き?」とシャルルが、聞き返す。


「若君のご趣味は、領地の歴史を深く知ることなんです。その為には現地調査が欠かせないのです」


きっかけがあり、頼まれてセドリックの現地調査の助手をする事もあるのだルナが言えば、ヘザーも同意した。


「そう言えば、領主館の裏の丘への道も整備してあったものね。何か廃墟があるのでしょ?」


「調査の為の整備です」


わかってくれたのねヘザー、とルナは力強く頷いてみせた。



「乗馬用の服は?」


 アランから次の質問が投げ掛けられる。「いいでしょう。何でもお答えしますとも」ルナは受けて立つ境地にいる。


「調査では馬に乗る機会もあるかもしれない、と」


 白いシャツは汚れが目立つ。黒いパンツは蜂や虫が寄りやすい。セドリックが実用性重視で、虫除け効果のあると言われる植物の汁で染めた布を使って、乗馬服を作ってくれた。


 生活に余裕のあるわけではないルナに、無理をさせないよう配慮してくれるセドリックの優しさだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。