愛を伝える日の大人女子会・2
シスターリリーが、気軽に言う。
「グレイスのこと知ってるんでしょ? 彼」
つまり「ルナの内に別人格の『グレイス』がいることを精神系の使い手―――この場合どう考えてもハリーだろう―――は知っているのでしょう?」と、シスターリリーはグレイスに聞いている。
グレイスの頷きに、シスターは顔色ひとつ変えない。とうに知っていたのだろう。
「彼は優秀だから気付かれるとは思っていたけど、いつ知って?」
夏の終わりにオスカーと住んでいたレイクサイド荘を訪ねた時に、と答える。
「ほとんど最初からじゃないの」
そんなに早くから、とそこは驚かれた。
「……どうするの?」
シスターのこの「どうするの」は、この先のヘンリーとの関係だろう。
「なんとも。ルナは『ハリーさん』にそういう好意を持たれているとは知らないし、ヘンリーもルナにわからせるような態度は取らないし」
実際、ヘンリーは見事に「ルナ」と「グレイス」を区別していて、ルナには「年の離れた友人」若しくはルナには居ないが「気安い親戚のお兄さん」然とした態度を取っている。
そう話すとシスターリリーも同意した。
「そこはさすがに精神系の使い手ね。優秀だわ。外見に惑わされず中身を見るって、なかなか思うより難しいのよ。そういう意味で言うなら彼は究極の『中身重視』の男かもしれないわね」
……そんなにいいものだろうか。あのヘンリーが。
グレイスが口にはせずに、疑問に思っていると。
「ルナの成長待ちってところかしら。グレイスはルナの一部なのだから、成長すればグレイスにより近くなるのは必然だものね。―――でも、彼にそんなに時間があるかしらね」
シスターは、天井を見上げて何かを順に辿るように視線を動かす。グレイスも合わせて天井を見るが、もちろんいつもの天井で、何かしら字や模様が浮き出ているなんてことは無い。
見るともなしにその様子を眺めていると、ゆっくりとシスターの視線が戻った。
「ルナを考えると、彼は少し面倒な相手ではあるわ。私としてはレアード家のセドリックを推すわ」
いきなり至極真面目な顔で言われ、グレイスは吹き出した。
「だって、グレイス。多少顔が良くても精神系の使い手なんて、大抵性格は歪んでいると相場は決まっているのよ? 確かに彼、口も上手いけどそんなの年の功。それに比べてセドリック様はルナと歳も近いし、性格も素直で顔もかわいらしい。ご両親も、貴族にしては庶民的でそれほど社交熱心でもない。私なら断然セドリックよ」
「そこの二択なんですの?」
グレイスは、シスターの長口上に声をあげて笑った。
「あら? 他にだれ?」
シスターの質問にグレイスの答える名は。
「レオンさま」
「いたわね。しかも御使いで今日いらしたわ。あの万事そつの無い仕事の出来る男」
グレイスが、ぐっと身を乗り出した。
「シスター的には、どうですの?」
少し考えてシスターが口を開く。
「責任感か強くて、仕事が出来て、無茶をしない。外見もいい。理想的ではあるわね……非の打ち所がなくてつまらないけど。面白味もないけど」
二度も貶しますか、と二人でひとしきり笑う。
「でも酔わせたら楽しそうよねぇ。それで少しくだけてくれたら気持ち良く飲めると思うのよ……潰れてくれたら最高だわ」
シスターが、愉しげに笑う。きっとシスターになる前には「酒豪」として名を馳せたのだろうと思わせる。
シスター生活で酒量の極端に落ちている今は、二杯のホットワインで心地好い酔いを感じているようだけれど。
「なんてお気の毒なヘンリー。ねぇシスター、少しは誉めて差し上げて。可哀想だわ」
グレイスが言えば、シスターは首を捻る。
「人当たりが良くて、笑顔が明るくて、声が王子様? 髪もさらさらで女子受けが良さそう。でも少しだけ腹黒い感じが見えるよのねぇ……少しだけ」
その最後の一言で、そこまでの褒め言葉、すべて台無しですから。グレイスがまた笑う。
「じゃあ、グレイスから見てどうなのよ?」
問われて即答する。「困ったちゃん」と言ってもいいけれど。
「甘えたがりで甘え下手な甘えっ子」
シスターリリーが、小さく唸った。
「刺さる女には刺さるわ、それ。放っておけない感じ? 私は全然だけれど、グレイスはやられるかも」
グレイスはルナを育てているわけだから、お姉さん気質よね。と納得される。
以上の話を元に、シスターリリーは結論付けた。
「頼りがいを求めるならレオン・ターナー」
「総合力でセドリック・レアード」
「押され負けたらハリー・リンデン」
ルナはレオンにもセドリックにも、恋愛的な意味での好意は持たれていないとグレイスには思われるが、今夜は無視だ。ガールズトークというものは、そういうものだ。自分の都合の良いことを好きに話す。それが女子会。
「ヘンリーを選ぶことで大変なのは、ルナだけですの?」
ついでのようにさりげなく聞くグレイスに、即座にシスターは真剣な眼差しをして、また直ぐにうまくそれを隠した。
「むしろ大変なのはあちらのお家リンデン家の方ね。恋に関して意思を貫いた彼が、それにより派生した歪みを苦にして後悔の度合いを年々深めたとしても、私は意外ではないわ」
「それを隣で見続けるのは、なかなか辛いことだと思うのよ」
シスターが内容にそぐわない軽い物言いをするのは、あえてだろう。
「ずいぶん実感がありますわね」
グレイスの呟きを聞き流し、シスターは立ち上がった。




