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地味顔の短期雇用専門メイドは、実は美人です。しかもワケあり、養母は最強。  作者: 小田ゆなこ


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愛を伝える日の大人女子会・3

 立ち上がったシスターは、一番開いている薔薇に手を伸ばすと、芯の辺りを摘んだ。芯に近い花弁を数枚、グレイスと自分のカップとに落とす。


ホットワインに温められた花弁から、ふわりとバラの薫りがした。


「いい香り」

グレイスが、ゆっくりと香りを吸い込む。「薔薇の薫るワイン」大人の女子会にふさわしい。


「乾かして少し紅茶に足してもいいのよ。行く時に持って行くといいわ」


 残りの花弁をパラパラとテーブルに散らして、シスターが微笑んだ。芳しい香りが漂い、薫りに酔いそうだ。



「行く時」というのは、今日の午後レオンが「御使い」で教会へと届けた書簡の話だ。


 毎年、春に予定される「交流会」。参加者は隣国と公国の貴族子弟。昨年の春は隣国の貴族の子女が公国を訪れた。かわって今年は、公国貴族の子女が隣国を訪れることになっている。


 まだ若い十二から十七・八のご令嬢ご令息をひき会わせ、うまく行けば縁組みも、という大人達の思惑だ。自国内だけでは、身分の釣り合う適齢期のご令嬢ご令息の縁組みが、人数的にも厳しいこともあり、国境をまたいでの嫁入りも珍しくはない。


 こうして若いうちから交流を深めておけば、相互理解がすすみ戦の抑制にもつながるという観点からも、なかなか重要な交流会だ。



 その「貴族子弟の交流会」にセドリックの従姉妹、男爵令嬢のヘザーが参加することとなり、先代伯であるセドリックの祖父の推薦を受けて、本日正式にルナのメイドとしての同行が公国より認められた。


レオンは書状をルナの保護者であるシスターに渡すと、他に所用がありますのでと言い、すぐに去った。


 ルナが一日の仕事を終えて部屋に戻ると、小机の上にかわいらしいクロッカスの花束が置かれていた。レオンからだとすぐに分かったけれど、手渡しせずに部屋に置いて行った理由はわからなかった。


 グレイスは、慣れない事をしている自覚のあるレオンが、照れ臭くてルナに手渡し出来なかったのだろうとみている。教会を訪れる日が偶然にも「愛を伝える日」と重なり、花を贈らないわけにもいかなかったのだろう。


花屋で迷うレオンを想像して、グレイスはそっと笑った。迷って迷って、クロッカスにしたのだろう。素朴な花だけれど、とても愛らしい。



「隣国へ行く前に覚えることが多いわよ、グレイス」

シスターリリーの声に、物思いから引き戻される。


「ええ。そう言えばひとつお聞きしたいと思ってましたの」


「なに?」

シスターがすっかり冷めたワインを飲み干して、続きを促した。


「ルナを隣国へと行かせるのは、如何なものでしょう? むしろ遠ざけるべきでは」


シスターが、考えをまとめるように揃えた指を頬へ添えた。おもむろに口を開く。


「これは私見だけれど。世の中って、良くも悪くも引き合うものがあるのよ。ここで遠ざけた、とか、うまく回避したと思っても、どこかでまた道が重なる。無理をしても悪足掻きのようなもので……そして無理をした分歪(ひず)みが出る」

「それよりも逆らわずに流れにのって、辿り着く岸を調整する方がいくらかましな結果になるんじゃないかと」


私もまだ流れている途中で、結果が出ていないから説得力はないけれど、とシスターは小さく笑った。


 グレイスは思う。「結果」の良し悪しは墓石の下に入る瞬間まで、分からないのではないかと。つまり本人ではなく他人に判断は委ねられるのではないだろうか。


黙りこむグレイスに、シスターが話し出す。


「相手の駒が揃って囲まれてしまうと出るに出られない事もある。まず相手を知っておくことが必要だわ。知らなければ対応のしようがない。力業(ちからわざ)で突破するようなことは、ルナには教えていないしね」


「確かに」

その意見には、グレイスも賛成だ。

力業で勝負できないのは分かりきっている。ならば知恵で乗り切るしかない。出来るだけ多くの経験を積む方がいい。


「で、わたくしは何を覚えれば?」


「まずは王国の貴族名簿と、マナーの公国と大きく違いのある箇所、あとは滞在する城の見取り図」


……名簿? なぜ城の見取り図?


「まぁ私の知識も十年以上前のものだけれど」


 聞いてグレイスは呆れた。城から脱出する計画でもあったのだろうか、隣国の城の知識などシスターに与えたのは誰なのだろうかと。


シスターの顔に薄い翳(かげ)りがあるので、聞きはしないけれど。


「あ、もう一度ルナに暗示をかけて下さいね。合言葉」

グレイスがことさらに明るい声を出すと、シスターは承知したと頷いた。


「困った時の『助けてグレイス』」



 シスターリリーは常にルナに言い聞かせている。一度記憶した事は頭のどこかにあるけれど、切っ掛けがなくて出てこないことがある。焦ったり、困ったりした時には特に。その切っ掛けになるのが「助けてグレイス」これを鍵にして、記憶の引き出しが開くはず。


そうルナには教えている。


「任せたわよ。グレイス」


「しかと任されましたわ。必ずルナを無事に連れて戻りますわ」


大仰にグレイスが言い、確約する。

女ふたりは大きく頷きあい、今夜の女子会はお開きとなった。



ここまで読んで下さってありがとうございます

次から「王国・ミモザの城」編へと続きます


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