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地味顔の短期雇用専門メイドは、実は美人です。しかもワケあり、養母は最強。  作者: 小田ゆなこ


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後期祭ー騎士の姫君・3

「君……?」

「いいえ……」


 顔を見合わせて勢いよく二人同時に、横たわる美少女に目を移した。


 姫君は、先ほどまで胸の上に組んでいた手を、今は口元に持っていき押さえながら、笑い続けている。


「姫君!?」

セドリックが、思わずといった様子で声を上げる。



「はい。ごめんなさい」

クスクス笑いは未だおさまらず、姫君は白い手袋の指先で、目尻に浮かんだ涙をそっと押さえている。


「あなた方のやり取りが楽しくて、ずっと聞いていたのだけれど。まさか本当にキスするとは思わなくて。驚いたら笑いが止まらなくなってしまったの。はしたなくもね」


 こんなに笑ったのは初めてかもと言いながら、姫君は優雅な仕草でセドリックに手を差し伸べる。呆然としていても、さすがは伯爵家御令息。身に付いた動きで姫君の指先を握り、岩の上に身を起こす姫君を助けた。


ルナの耳に、騎士の声が蘇る。「黄金色の髪、菫色の瞳」


「初めまして、でよろしいかしら。エステレイルと申します。呪術師の一族の者がここに来るとはね」


 気さくに微笑む姫君の名は、当然のようにエステレイル。愛らしくも美しい瞳は、見事な紫で、腰まである艶やかな髪は金糸の如く見事なブロンドだった。


「あなたの騎士ではなく僕ですみません」

セドリックが申し訳なさそうに頭を下げた。


いえそういう訳ではなく、と姫君が首を横にふる。


「呪術師の末裔には、私のことは伝えられていないものと思っていたから」


「呪術師」ルナには初耳の言葉が普通に口にされるが、ここは理解している様子のセドリックに任せるべきだろうと、ルナは邪魔をしないよう控えることにした。



「騎士様がこちらに足をお運びになっておられましたが、お会いにはなれませんでしたか?」


丁寧にセドリックが尋ねる。


「ええ。毎夜来ておりました。けれどアレには私の姿を見ることが、かなわなかったの。呪術師が何かそういう類(たぐ)いの呪(まじな)いを掛けたのだと思うけれど。訪ねて来るのがアレ一人でしたから、私の姿が『誰にも見えない』のか『彼(か)の騎士には見えない』のかは、私には分からないわ」



 なぜか楽しげな姫君の様子が、ルナには不思議に思える。騎士は端から見ても悲痛なほど、姫君との再見を願っていたのに。一方の姫君はと言えば全く気に止めていないように感じる。


忠誠を捧げる者―――騎士―――と、捧げられる者―――姫君―――との差だろうか。時代も身分も異なるルナには、その辺りの事はよくわからない。



「私の姿が今夜出現したと言うことは、私の呪術師がそのような仕掛けを施したのでしょう」

姫君が美しい紫の瞳で、セドリックを見つめる。


「あなたは、呪術師の一族に連なる者ですね? わ・か・ぎ・み」


 姫君が、ルナの声真似をしてセドリックをからかい混じりに「若君」呼びする。ルナは笑いを堪えきれずに吹き出した。今夜二度目だ。姫君の分を合わせれば三度目。


笑われてばかりで苦虫を噛み潰したような顔になるセドリックが可笑しいと、少女二人の笑いはますます止まらない。


かなりの時を置いてセドリックがボソッと言った。

「もう、それくらいでいいですか」


不貞腐れたセドリックが意外にかわいいと、ルナと姫君が目で会話した事は、もちろんセドリックには内緒。


「ええ、すみません。私ったら」

また姫君が、笑いすぎて涙の浮かぶ目尻を押さえる。



「どれくらい自分はここにいるのか」と姫君が問い、セドリックが「二百年前後と推測している」と答える。姫君には時間の感覚は無かったらしく「いくら何でも、それは眠り過ぎね」と自分のことながら驚いていた。



「あなたが私の騎士を長い夢から覚まして下さったのね」


姫君にこちらへと促されて、ルナはセドリックに並んだ。


「いえ。私がというよりは、騎士様は姫君と私を混同していらっしゃいましたので」



 岩の上に座る姫君より目線が高くなるのが気になって、ルナは両膝をついて姫君と目の高さを合わせた。これで姫君を少しだけルナが見上げる形になる。


「彼が間違える訳はないけれど……混同というより、私達は似たようなものなのではなくて?」


 姫君が小首を傾げると、清廉な美しさに可憐さが加わり美少女ぶりが際立つと、ルナは眩しく姫君を見つめた。自分よりも五、六歳年上に見える方に失礼かとは思いつつ。


「恐れ多いことでございます」

似たようなもの、と言われて恐縮し頭を垂れる。


「呪術を学ぶのですか」


姫君はセドリックではなくルナに聞いてきた。

「いえ、特には」


 現在、呪術や錬金術は細々と継承されているものの、昔ほど盛んではないと聞く。怪しげな詐欺まがいの術師も多く時代と共に淘汰され、現在の公国では替わって「特殊能力者」が重用されている。


王国ではまた事情が違うようだ、というのがルナの知る呪術師についての事だ。


姫君がひとつ頷く。

「そう。私は薬師の真似事をしていたけれど、呪術にも興味はあったの。今ならば薬師ではなく呪術師の真似事をしたかも知れないわ。特に当代の呪術師殿は良い男ぶりですから」


うふふと笑う姫君と一緒になってルナも笑い、二人でセドリックに視線を向ける。


セドリック受難の夜。



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