第30話 アレックス研究所編 実験 その二
キャラクター紹介
マリア・フリッシュ(32)=誕生日 3月4日
慎重165㎝ 体重52㎏ 血液型 B型
趣味 カフェ巡り 読書 好きな食べ物 片手間に食べれるもの(サンドイッチなど)
容姿 黒髪ロングの左お下げのサイドテール、メガネで大人びやかなお姉さん
服装 緑のセーターに白衣、タイトスカートに黒タイツに事務員が履いてそうなサンダル。
概要 ハンターズに所属している博士。主な仕事はイロディアンの研究やイロディアン用の武器の作成を勤めている。
ハンターズのメイン武器となる氷銃剣や氷結エンジンを発明したのもこの人物。
性格はおっとりとしているが、研究に対する情熱は強く、徹夜で勤しむ事もあるほど。
しかしその不安定な生活で、子持ちの彼女は旦那ともめ離婚し、子供は祖父の所へと預けている。
そんな自分の幸せを捨てても、人々をまた地上に住めるようにするという使命を掲げ、今日も研究に勤しむ。
ナナが好き。
第30話 実験編 その二
あの夢の出来事から数日後、あの後も何回か切除手術をしたが、結局成果は変わらなかった。
私の左腕の皮膚は私から離れると、数分で消えてしまう。
氷点下の液体窒素で固めようが、コーティングしようが必ず熱をもって蒸発してしまう・・・らしい。
マリアさんの口からそれを聞き、やるせない気持ちと情けない気持ちでいっぱいだった。
私の力でしかイロディアンを倒せないのに、それに貢献出来ないなんて・・・。
このまま何も兵器が進展しなかったら・・・もし私が死んだら、地上のイロディアンは殲滅出来ず、
国の人達はこの狭い地下都市の中でずっと住み続ける事になる。鳥籠のようにずっと。
やっと空を拝めて、一歩前進したというのに、
「・・そんなのいやだ。私は人の役に立ちたいのに。」
やるせない気持ちが溢れ出て口から出た。
「何一人で言ってるのよ」
「あ・・・」
隣で立っているマリアさんが少し引いた表情で突っ込んだ。
「・・思い悩んでいたの。」
「そう。ストレスは万病の元よ。俯かないで上でも見なさい。」
とマリアさんは上の階数ランプを指さす。研究所のエレベーターはどんどん地下へと下がっていく。
B5・・8・・10階へと下がっていった。
それを眺め、
「マリアさん。今日はせぇつじょ手術じゃないんだよね?」
「あら、辛うじて言えたじゃない。そうよ切除手術は進展はなさそうだし前に言ったイロードの実験を見せてあげるわ。」
と彼女はタブレットを抱え、腕を組みながら答えた。
「うんわかった。」
エレベーターが着いた音がなる。階数はB15階とかなり下がった。
空気の変化で少し頭痛がする。周りの温度もひんやりと肌寒い。
エレベーターの扉が開くと、サイバーチックなボックス型の部屋が待ち構えていた。
「まずはここで消毒よ、イロードを地上に持っていたらやばいからね。」
そう言われ中にはいると、全体から冷たい煙が出て、20秒ほど消毒の煙を浴びた。
マリアさんが装置の後ろのドアを開けると、蛍光灯が照らすだけのほろぐらい廊下があった。。
鉄臭い風が鼻を伝っていく。天井はパイプ管むき出しで実に無機質。
この雰囲気、先入観がある。そうだ、電気が復活する前の発電所にそっくりだ。
「さ、ここで実験をしているわ。」
「・・マリアさん、この唸り声は?」
「ええ、あなたの思っている通りよ。」
時折廊下の反響に乗っかるけたたましい叫び声。そしてじゃらじゃらと羅列する金属音。
全身消毒装置よりも2回り広い廊下。廊下の周りには頑丈そうな扉がいくつもある。
そこから何匹もの飢えた獣のような唸り声が各部屋から聞こえる・・・この禍々しい声は間違いない。
散々発電所やコンビナートで聞いた・・イロディアンだ。
まるで奴が目の前にいるかのような臨場感。
散々奴らと戦っているとはいえ、日常の中で出てくると不安が襲ってきた。
ここで奴らを管理しているのだと唾を飲み込む。
各扉に設置している蛍光灯。その僅かな光が照らす、寒々とした廊下をマリアさんと進んでいく。
奥へと進むにつれ唸り声と、荒ぶる鎖の音が近づいてきた。
マリアさんはそんな音をもろともせず真顔で進んでいく。
「ナナ見てみなさい。奴よ」
そう言って顔を右に向ける。№1と扉にプレートが貼られてる部屋。
各部屋は中が見えるようガラスが貼っている。
そのガラスの向こうの赤い光が照らす部屋。
暗闇から聞こえる唸り声、鎖の音。
私は恐る恐る近づき、張り付くようにガラスの向こうを見つめると、
「はぁ・・」
その光景に息が漏れ、ガラスが曇る。それでも目に焼き付く光景。
ガラスの向こうには四俣に体、口に何本も鎖が巻かれ、羽を広げるような体勢で座り込むイロディアンがいた。
この緑色の鱗。トカゲと人間を合わせたような怪物、間違いない。
奴は血まみれで鎖をとくように暴れているが、鎖は伸ばしきって壁にがっしり設置しているため、容易にはとれないようだ。
部屋の周辺には血が大量に飛び散っている。
赤い眼を光らせ、がしがしと口を塞いでいる鎖をかみちぎろうとしている。それに見入っていると、
「どうかしら?、流石に戦場に赴いたあなたでもビビッた?」
後ろからマリアさんが嘲笑うかのように言った。
「まぁ、最近会ってなかったから少しビビるね。おぞましい・・」
「そうね。見ての通りここではイロディアンの研究をしているの。
イロディアンの生態とか再生能力を突破する鍵を探すためにね。
因みにその部屋のイロディアンはハンターズが氷銃剣で凍らせまくって鹵獲した奴よ。」
「・・そうなんだ。それで何かわかったの?イロディアンは。」
「ええもちろん。私達研究者が死力を尽くして頑張ったもんね。順番に説明していきましょう。」
マリアさんはドヤ顔で胸に手を当てた。私は彼女の自信に任せ、奥へと進む。
各部屋にはさっきと同じ、拘束されてるイロディアンがわんさかいた。
みんなうえた獣のような声をあげ、体に傷をつけ、血まみれになりながらも鎖をほどこうと暴れている。
私はそれに見入っていた。こいつらも元人間だと思うと何だか複雑な気持ちが湧いてくる。
「あ、こいつね。擬態型。」
「え・・」
マリアさんが5番目の部屋で立ち止まった。
その部屋を覗くと、体が埋まるほどに鎖が巻かれ、じゃらじゃらと音を立てている。
だけど鎖に巻かれているものが見えない。繭のような形で巻かれてる鎖。
それが音をたて、一人でに蠢いている状態だ。
けどイロディアンのうめき声が五番の部屋に響く。紛れもなく奴はそこにいる。
「あら、姿がないわね。」
とそっけなくマリアさんが言うと、部屋の扉を開けた。
「マリアさん!?大丈夫なの入って?」
「ええ、あなたも来なさい。」
彼女はめちゃくちゃ冷静なので私も部屋に入った。壁にはおびただしい数の血痕。
牢獄のように狭い部屋。血とアスファルトが混ざった鉄の臭い強くなる。
目の前に一人でに暴れる繭の形に巻いた鎖。
そう思っているとマリアさんが白衣からハンドガンを出し、繭の形の鎖の頭上部分に向け、発泡した。
発泡の光で一瞬目がくらむ。すると擬態型が現れ、頭に銃弾が命中し、頭からの血が奥の壁に飛び散った。
黄土色の鱗の体が徐々に姿を現す。
「こいつは擬態型。発電所で戦ったのと同じ、覚えているかしら?」
「うん、体温ごとほとんど景色と同化する奴でしょ?」
「そう。景色に擬態し、体温も調節するからレーダーで見つけるのも一苦労。
暗闇での奇襲を得意とする形態よ。」
頭を撃たれ、うめく擬態型の前で淡々と解説をするマリアさん。
しかし撃たれた跡は、あっという間に元の状態に戻っていった。
「だけど明るい所だと体のラインが出るからわかりやすいことと、猛進型よりも動きがとろいのが特徴ね。
だから完全にバレないように暗闇に潜むこと、そして狭い場所で攻撃を仕掛けるのがこの擬態型よ。」
「そうなんだ。厄介だね。」
「そうね。因みにこいつが元々猛進型だと言ったら驚く?」
「え?」
「これを見て頂戴。」
そう言ってタブレットを開き、私に見せた。
五番目と表記されているファイルを開いた。最初に日付が二年前の写真が開かれる。
写真には鎖で巻かれているイロディアンが貼られていた。
ファイル名から察するにこの部屋の・・だけどこのイロディアン、ゴリラのように大きい筋肉質で、緑色の鱗に覆われている。
これは違う、猛進型だ。けどなんで?
今眼の前にはこれよりも細見の擬態型がいるのに・・・
「これは五番目の部屋の奴よ。二年前の、こいつは元々猛進型だったわ。」
「元々?でも今いるのは・・」
「そう、この話しの味噌よ。
イロディアンは大きな傷もたちまち直るくらいに脅威的な再生能力を持っているわ。
でもその再生能力は体の筋肉を大きく負担させる。
その再生を長期間繰り返していると、膨張した筋肉は衰え、体も緑から黄土色に変色し、今の擬態型になる事がわかったの。
こいつを使ってね、私達が電撃とか硫酸とかかけて長期間ダメージを与えた結果、猛進型から擬態型になったわ。」
「・・そうなんだ。再生にも体力が必要なんだ。」
「そう、だから擬態型は猛進型よりも弱いのよ。再生能力も動きも遅いわ。
だからそれをカバーするために擬態という機能が働くのでしょうね。」
「でも弱体化するとはいえ透過するんでしょ?もっと厄介じゃない?」
「まぁそうね。でも動きは遅くなるからまだましってところよ。
イロディアンの最大の武器となる再生と跳躍が衰えばこちらにもチャンスはあるわ。
実際猛進型よりも擬態型の方が撃破数は多いことだし。まぁ・・結局再生して復活するのがおちだけどね。」
そっか。奴らの再生にそんな経緯が・・
「じゃ、擬態型は猛進型の変化した形態なんだ。」
するとマリアさんは首を振り、
「いえ、感染していきなり擬態型からスタートする事もあるの。
それは7番目の部屋の擬態型を見て話しをしましょう。」
奥の部屋、7番目に移動した。
ガラスの奥には黄土色の鱗・・擬態型の姿が・・・・あれ?何かが違う。
確かに四俣を鎖で拘束され、赤い眼でうめいている。でもその眼光は右眼しか光ってない。
もう左眼は人間の目だ。黒目がぎょろぎょろ動いて焦点があっていないが・・・。
頭には白髪が生えていてしわのある肌色の肌・・全体を見ると擬態型になりかけている老人の姿がそこにあった。
「マリアさん、なにこれ・・・」
私は驚きつつもマリアさんに問う。
「それは老人の遺体に微量のイロードを注入した擬態型よ。鹵獲したイロディアンの成分を借りてね。
そしたら擬態型となって復活したわ。イロードは遺体にも反応する事、そして老人や体の弱い人には最初から
擬態型へと変化することがこの老人を通じて判明したの。」
マリアさんがそう言い、私は老人に向き直す。それはおぞましい光景だった。
老人が擬態型になりかけている姿。ゾンビのような外見で手足には鋭く、長い爪があって、
腐食している肌に随所、黄土色の鱗が形成されている。
こんな醜い姿・・
「・・こんなことしていいの?いくら遺体と言っても元々人間じゃ。」
「そうかしら、一応研究の許可は遺族の方にとってあるわ。」
「でもこんなこと・・イロディアンにさせるとは言ってないよね?。」
「・・言ってないわ。」
「じゃ、これはこの人の冒涜なんじゃないの?」
私はマリアさんに率直な質問をした。マリアさんは目を流して、
「そうね・・あなたの言いたい事もわかるわ。こんな実験遺族が知ってしまったら泣いてしまうかもね。
だけど私だってイロディアンの謎を解明して奴らを倒すという思いでやっているの。
イロディアンを倒す為の道しるべとしてね。ただ好奇心でこんなことしているわけじゃないわ。」
「・・・・・」
「だから遺体も使って、兵器も作って・・全ては人々をまた外の世界に住めるようにするためよ。
その為に冒涜だろうがなんだろうが今出来る事をやるの。それはわかってナナ。」
「マリアさん・・」
いつもおっとりとした口調とは違って、力がこもった口調だった。
私は彼女の鋭い眼差しと気迫に押された。
「でも人を殺したり、生きている人を実験に使うのは流石に気が引けるわ。豚箱に送られる以前に・・人としてね。」
「そっか・・ごめんねマリアさんの気も知らないで。」
「いいのよ。あなたの反応が正常よ。でも優しさだけじゃ世の中を変える事は出来ない、
時には無茶を貫くことも必要よ。それが正しい時があるのだから。」
正しい・・か。確かに擬態型の謎や変化などは解明出来ているしそうなのしれない
こんな感じに人間からイロディアンに変貌するんだと、この老人をみて思った。
うーうーとうなって。
きっとこの変化にはとてつもない苦痛があるんじゃないかとおもうと、なんだか胸が締め付けられる。
老人・・・死体・・・あ、そうだ。
「マリアさん。」
「何?」
私はカリナの言っていたことを思い出す。
「マリアさん達研究員は、病院の遺体の情報を会得しているんだよね。」
「まぁそうね。」
「知人から聞いたんだけどさ・・青く変色した死体の事とか知ってる?」
カリナの言っていた隣の病室の患者、青くなって人間離れした状態で死んだ事。
情報に詳しいマリアさんなら・・と。するとマリアさんは一瞬黙りこんだ後、ゆっくりと口を開く。
「そう・・その事を知っているのね。」
「何か知ってるの?」
「いえ、厳密には知らないわ。
あくまで私達は遺体の品定めをすること、もちろんこの遺体がこういう原因で死んだとか知ることは出来るけどね。
でもそれ以上の情報はつかめないの・・遺体の提供も病院が選択出来るし、病院の情報を詮索する事は出来ないわ。」
「そっか。でも今知ってるのね・・って」
「ええ、私もその事はネットとか一般の知識でしっているわ。私も気になって独自で調べたの。
海外の病院のデータとかにあるんだけど。ちょっと待ってね・・確か保存したはず。」
そう言ってタブレットを操作し、
「あ、これね。」
裏返して私に写真を見せた。
「こういうの?」
表示されている写真は、病院で青年が赤く変色した死体だった。
肌には重そうな岩石のようなものが所々に張り付いていた。まるでマグマを自分の体で体現化させたような姿。
「そうそうこんな感じのだ・・・」
「あとこれね。」
次から次へと写真がスライドされ、表示される。女性の氷を体に覆うような死体、
男性の虫のような質感の甲殻をまとった死体、触覚らしきものが生えている。
「この写真はSNSに一般的に挙げられた奴なの。私もこの死体の事は気になって調べてたの。
でもこの件は公には載っかっていない。このSNSも現在では削除されたわ。」
「削除・・そういえばさっきの青く変色した死体も、医者が隠しているって知人が・・」
「あなたの知人は中々かいくぐっているね。
そうこの肌が岩とか氷とかに変色した死体は、公には隠す傾向があるらしいわ。私もこれが何だかはわからない。
もしかしたらあなたに何か関係があるんじゃないかしら。」
「え?」
「あなたは恐らくイロディアンでも人間でもない。
イロディアンとあなたの成分を比較したのだけど全く一致しなかった。でも人間とも言い切れない。
そのあなたの左側、木のような質感の跡、そして変形できる触手が謎を物語っているわ。」
私が・・この写真の遺体と関係がある?でもイロディアンでもない。
それを無意識に確認するように、後方の擬態型を見つめた。
「それでもあなたはこの国の希望よ。思い悩む必要はない。来てくれて本当に良かったわ。」
「本当?」
「うん?停滞していた研究がこれで進むことだし、今度財閥のメンバーが私達ハンターズにお目にかかるそうよ。」
「財閥の?」
「ええ、一流企業を束ねる財閥家、オーウェン家がね私達の成果を賞賛して斡旋しにくるとのことよ。
財閥家は政府とも密接に関わっているから私達の存在も確認済みね。その日時はーーー」
それから数日後、財閥とハンターズとの対談の日。
ジャックス大臣を先頭に私達ハンターズのメンバーはスーツを着こなし、整列をなす。
広々とした洋風の会議室。オシャレなクロスシートが引かれた大きなテーブル。
その扉の向こうでコツコツと大勢の足音が聞こえると、
「来たな・・」
ジャックス大臣の呟きと同時に、開いた扉から人が現れた。
「こんにちはジャックス大臣。久方ぶりです。」
大勢のスーツの人の中から、ジャックス大臣に気さくに話す中年の男性。
「こちらこそようこそお越しになさった。エドワード・オーウェン殿」
と二人は握手を交わす。
この人が財閥の・・長身に左に綺麗に流しまとめられた金髪。
長い鼻筋、きりっとした瞳に少しこけた頬、決まったスーツ姿。そしてどことなく落ち着いた素振り。
そんな彼との対談が始まった。
第31話に続く
今回はイロディアンの実験と解明のお話しでした。
研究室というスケールは小さくもキャラクターの心情や、イロディアンの生態、死体の件など
結構濃密に詰め込まれた回だと思います。
特にマリアさんが声を熱くさせて、自分の使命をナナに言うシーンはお気に入りです。
研究に対する情熱、そして彼女の身を削った優しさが垣間見えるのではないのでしょうか。
次回はハンターズと財閥のメンバーと交渉です。
斡旋するのでお楽しみに~。




