第8話 妹はリストラする
私の膝の上ですやすやと眠り始めたベルンちゃんの、その安らかな顔を見ていると、ついつい頭を撫でてしまう。
そんな私の姿を、妹が信じられないと言った表情で見ていた。
「そんなにおばさんは嫌?」
「嫌ですけどそれではなく! な、なんでそんな懐かれてるんですか!」
「さ、さあ?」
一番最初に見たものを母親だと思う刷り込み現象か何かだと思っていたけれど、妹の反応的にはどうやら違うらしい。
まあ、それなら妹がそもそも苦労せずに仲間にしてるよね。
「お、恐らく、お姉様が超悪属性だからな気がします」
「ああ、それはありそうね」
私の魂はもう悪の親玉が求めてやまない究極の悪魂。
大人からすれば最強の餌でしかないけれど、子供から見れば愛着の湧く何かなのかもしれない。
「……じゃあこれで悪の魔術師ベルンカステット討伐完了ですかね」
「えっ!? そうなるの?」
「だって完全に無力化してますし、当初の予定通り仲間にもできてますから……」
もうそれはその通りなのだけど、当初のラスボスがあまりにもあっさりと仲間になってしまい私は少し拍子抜けする。
私はベルンカステットに殺されると思って生きてきたんだけどなぁ。
まさかその相手が娘みたいになってしまうとは。
「お姉さんマジすごいじゃん! バブみで倒すなんてうち、初めて見たし」
「倒してはいないから!」
「もしやアンジェラ殿は拙者の母?」
「貴女の母になったつもりはないわ……いや、誰の母親になったつもりもないけどね!?」
危うく誘導尋問的に母親を認めてしまうところだった。
ベルンちゃんの頭を撫でながらいっても説得力皆無かもしれないけれど、母親になったつもりはありません!
「考えてみれば、ベルンカステット(幼体)を倒しにくる時、妹は仲間も含めてベルンちゃんと相反する善属性の存在で固めていいたからこそ、襲われていたのかもしれませんね……ううっ、妹の頭が硬すぎました!」
「よくやってる方だと思うわよ? いや、本当に」
妹は自分の無知を恥じている様子だけれど、私みたいなやつを連れてきたら母親扱いになるなんて、こんなバグみたいな流れ分かるわけないので、仕方がないと思う。
というか、私はこれからどうすればいいの?
膝の上で眠る人間爆弾ちゃんと仲良くやっていけるか、不安で仕方がないのだけれど。
「これで次の目標は魔王討伐ですが、流石にこれは三日後というわけには行きません」
「まあ、流石にそうよね」
「一ヶ月は貰いたいです」
「それでも異常な早さよ?」
妹はさも力不足で申し訳ないみたいな態度をとっているけれど、普通は3年かけても無茶なところを一ヶ月はおかしい。
私は詳しくないので分からないのだけど、隠しボスみたいな存在ってその速度で倒せるように出来てないと思うの。
「えっ!? 魔王様倒すの? マ?」
妹の言葉を聞いてサキュバスさんが両手を上げて驚く。
あっ、そうだよね、サキュバスだもんね、魔物だもんね!
明らかに魔王の味方サイドの人の前でとんでもない話をしてしまった。
これは仲違い待ったなしか!?
「すっげー勇気あんじゃん! マジかっこよすぎでしょ! うちもやっていい?」
「あっ、やってくれるなら、はい」
まさかまさかでよもやよもやの乗り気だった。
魔族は血の気の荒い分、仲間意識も低いのかもしれない。
勇者に優しいギャルかな?
「拙者も協力するでござるよ!」
「あっ、ツバキ丸ちゃんは別に帰ってもらっても構いませんよ」
「どうしてでござるかー!?」
超塩な対応をされてツバキ丸ちゃんは目を丸くして叫んでいた。
不憫すぎるなこの子……。
「ほら、4人パーティが一番バランスが良いので、ベルンちゃんが今後加わると考えると……」
「り、リストラでござるか!? 拙者リストラでござるか!」
仲違いの要素はサキュバスさんでなく、妹からやってきた。
なるほど、確かに4人を厳守すると1人溢れるわけで……誰を抜くかというと、自然とツバキ丸ちゃんになるのかな?
言われてみれば今回限定の囮みたいな子なので、今後、役に立つかどうか微妙な気もする。
でも、流石に、何がなんでも可哀想すぎる……。
「ハナ、流石にそれは可哀想よ」
「でも、ツバキ丸ちゃんって急増メンバーですしおにぎり一個でいつまでもこき使うわけにはいきませんよ!」
「ああ、それはそうね……」
そういえば急に追加した人で、今日初対面なんだった。
もうツバキ丸ちゃんのキャラが濃ゆいせいで、馴染みの友達みたいになってしまっている。
言われてみれば、おにぎり一個の恩しかないんだよね……。
「おにぎり一個で拙者は十分でござるから! 一緒に行かせて欲しいでござる!」
「十分どころかは一分も足りてないと思うわ」
「悪の魔術師を仲間にしたその姿に拙者、一生お仕えすべき人だと思ったんでござる! 後生でござるから! 後生でござるからー!」
ツバキ丸ちゃんはもう必死に頭を下げて仲間入りをお願いしている。
な、何故そこまで!
魔王退治って結構な無茶よ?
「チョロさで選んだのが仇になりましたね。チョロすぎてもうお姉様に懐いちゃってます」
「おにぎりを渡したのは貴女でしょうに」
「頭撫でたでしょ? あれですよ」
あれなの!?
あれのせいなの!?
本当にあれが原因でこんな必死に仲間になろうとしているのだとすれば、それは確かにめちゃくちゃチョロい! チョロさの革命児だ!
「確かにチョロいけど、うーん……可哀想だし……ハナ、私はどうせ大した戦闘できないから、入れてあげたら」
「えー? ちゃんとお世話できますか?」
「毎日ご飯あげるから」
「拙者、犬かなにかだと思われているでござるか……?」
ちょっとだけ似たようなものかもしれないなんて思ってしまった。
なんか尻尾とかすごい振ってそうだもん。
こうして見ていると、だんだんご飯あげて頭撫でたらついてきた犬に見えてきたな……。
「仕方ありませんねぇ。ツバキ丸ちゃん、魔王までですからね?」
「感謝するでござる! 拙者、精一杯頑張るでござるから!」
なんとか首の皮一枚でツバキ丸ちゃんのパーティ残留が決定した。
今後も可哀想な目にあう気がするけれど、まあ、喜びそうだし良しとしよう。
というか、魔王までですからねって、普通、その先ないはずなんだけどな。
「では今後の方針ですが、お姉様はベルンちゃんを可愛がっててください。妹とサキュバスさんとツバキ丸ちゃんは修行の日々です」
「私だけなんかおかしい気が……」
「でも一番重要ですからね!」
妹のいうことは百里ある。
やることはぬるく見えるけれど、私はこれから一ヶ月、この膝で眠るこの子を可愛がって味方につけなければならないのだ。
果たしてずっと嫌われ者をやっていた私に、そんなこと出来るのかな……。
不安を抱えながらも、日々は過ぎて行く。
そして一ヶ月後……。




