第7話 妹は叫ぶ
「さて、いつもならあの如何にも弱々しい少女をぶっ倒すのですが」
「やめて、ハナ、言葉にしないで。ど外道になるから」
「しかし、今回は交渉の必要があるので、捕らえるのが目標です。目の前のガキを誘拐しましょう」
「どちらにしろど外道なのね……」
非常に悲しいことに子供相手では明らかに絵面が悪い。
しかし、私たちも大人から見れば子供のわけで……よし、この論理で自分を騙そう。
つまりこれは子供の喧嘩!
ちょっとばかし世界の命運がかかっているだけで!
……流石にこれでは自分を騙せないな。
「一歩でも部屋に足を踏み入ると即座にあの子供起きます。あっ、ここから遠距離攻撃でボコろうとしてもおきますので、お姉様ざんねんでしたね」
「私がまるでそんなことを思っていたかのように言うのはやめてちょうだい」
……実はちょっとだけ思っていたけどね。
私もかなり妹に侵食されてきたなぁ。
「いざ出陣でござる!」
気合を入れて先頭を進むのはやはりと言うべきかツバキ丸ちゃんである。
急増メンバーとは思えないほどのこのやる気。
覇気に溢れるその姿には強者のオーラが漂っていた。
妹は彼女をそんなに強くはないと評していたけれど、それは妹視点の話であって、実はかなり強いのでは?
妹はもう思考と基準がバグってるところあるので、あり得そうな話だ。
私は期待を込めてツバキ丸ちゃんの背中を追うと、ツバキ丸ちゃんが突如として虚空から落下してきた炎の矢に貫かれる!
即座に炎上するツバキちゃん!
「ぐええええええええええ!」
「つ、ツバキ丸ちゃーん!」
一瞬で全身が炎に包まれ、ツバキ丸ちゃんは地面を全力で転がる。
光景が恐ろしすぎるんだけど!?
「だ、大丈夫、ツバキ丸ちゃん? いや、大丈夫なわけないわよね!?」
「お姉様、大丈夫です。計画通りですので」
「何が計画通りなの!?」
「ベルンカステットは最もレベルの低い者を攻撃する習性があるんです。現在は無意識化で自動的に攻撃してるのでなおさらですね」
「えっ、私の方がレベル低そうじゃない?」
「お姉様は私と一緒にフェンリュー倒してますし、それに2年生ですから」
なるほど、年齢差と大狼を超地道に倒したことが一応経験値になっていたらしい。
えっ、じゃあツバキ丸ちゃんは完全に攻撃用の囮に連れてきたってことなの!?
可哀想すぎるよ!
「大丈夫です。ツバキ丸ちゃんは炎耐性ありますし、自動回復のアイテムも持たせてますから」
「その割には熱そうだけど……」
「まあ、熱いものは熱いです」
やっぱりツバキ丸ちゃんは可哀想だった。
不憫……とか思っていると、何故かツバキ丸ちゃんの目は全身の炎より燃えている。
「こ、これこそが拙者が追い求めていた苦難と奉仕でござる! アンジェラ殿! 拙者は大丈夫なので戦闘を続けてくだされ!」
「ヤバ、どMじゃん」
燃えながら喜ぶツバキ丸ちゃんの姿にサキュバスさんはドン引きしていた。
サキュバスなのにそういうの引くんだ……。
「それでは作戦を発表します。ひたすらツバキ丸ちゃんに攻撃を集中させるのでツバキ丸ちゃんは回復薬を飲み続けることになります。お姉様は回復の補助をしてください。その間に私とサキュバスさんでそこの子供を守るバリアを破壊して終了です!」
「ツバキ丸ちゃん燃え続けるの!? し、死なない?」
「普通は死にます。それに、流石に回復が間に合わないので、ツバキ丸ちゃんが死ぬか、私たちが倒すかのレースとなりますね」
「えぇー……」
恐らくは史上最悪のレースが始まってしまった。
出馬する子が喜んでるからいいけども……本当にいいのかな!?
ひたすら攻撃を一人に集めるのはなるほど効率的なのだろうけれど、こうして実際に見てみると非人道的過ぎる。
罪悪感を覚えつつも、私は物理的にも心理的にも燃えるツバキ丸ちゃんを回復し続ける。
私が手を抜くとツバキ丸ちゃんは一瞬で死ぬわけで、生殺与奪の権利は私が全て握っていると思うと、責任の重大さがとんでもない。
「ぬおおおおおおおおおおおお! 拙者は負けんでござる! 大恩ある主のために!」
「貴女、おにぎり一個の恩よね?」
ツバキ丸ちゃんは命を賭ける己の姿に酔いまくっていた。
これが酒なら酩酊してガラスに突っ込み、大変なことになってるレベル。
「サパンチ!(サキュバスパンチの意)」
「妹シャイニングスラッシュー!」
サキュバスさんと妹は、ベルンカステットの入ったガラス管を破壊すべく攻撃を開始している。
しかし、あの二人を持ってしてもガラス管を守るバリアーは相当な硬さがあるようで、破壊には時間がかかりそうだ。
ボスキャラってHPだけは多いよね。
そんなわけで三十分後……。
★
「破壊できたけど、ツバキっち無事!?」
ガラス管を完全に破壊し、中から取り出したベルンカステットを抱き抱えつつ、サキュバスさんはこちらを心配してくれる。
しかし、一歩、遅かったかもしれない……。
「もう終わりでござるか! 拙者はまだまだ、まだまだまだ、まだまだまだまだたえられるでござるよ!」
ツバキ丸ちゃんはもうすでに何かに目覚めてしまっていた。
まさかこんなに変わり果てた姿になるなんて……元からかな?
「どうやら手遅れだったようですね……頭が」
「うち、サキュバスだし、どMには理解あるから……」
「別にどMではないんでござるが!? これは忠誠心でござるよ!」
忠誠心の意味が問われる結果になってしまったけれど、取り敢えず元気そうで良かった。
いや、本当にとんでもないタフさで驚く。
三十分燃えっぱなしな人なんて、私、初めてみたよ、
そして一生見たくないな。
「さてこれがベルンカステット(幼体)です。これからスクスク成長するわけなんですが、今の幼い状態ならもしかすると交渉可能……な気がするじゃないですか!? 無理なんですよ!!!」
「無理なのでごさるか?」
「無理なんですよ! 起きたらすぐ襲いかかってきますから! もう生まれついての悪なんですよ!」
「んじゃどうするん? 縛り上げて脅迫する系?」
もうびっくりするくらい物騒な会話が繰り広げられている中、私はベルンカステットを抱き抱えて、じっとその顔を眺めていた。
この子が私を乗っ取る予定な悪の魔術師なのか……。
とてもそうは思えないほど、彼女は幼い寝顔を見せていて、むしろ天使のようですらある。
子供は好きなのでなるべく倒したくないのだけど、うーん、どうやったら交渉出来るのか。
お菓子でもあげようかと悩んでいると、その時、ベルンカステットの瞼がピクリと動いた。
お、起きた!?
急いでみんなに知らせようと顔を上げると、首元をぐいっと引っ張られて、視線を下へと戻される。
もしかして、やばい?
殺される!?
「……おはよう、ママ」
身構えて目をつぶってしまった私の元に届いたのは、甘えるような少女の声だった。
「えっ!? あっ、うん、おはようベルン、ちゃん?」
「まだ寝たい……」
「う、うん、まだ寝てていいのよ?」
「やったーあーぁ……」
幼い口調で幼いことを言いながら、ベルンカステット改めてベルンちゃんは二度寝についた。
と、咄嗟に適当な対応をしてしまったけれど、合ってたかな……。
……というか、ま、ママぁ?
高校生なんですけど!?
「じゃあ妹は叔母さんということに……!? い、いやあああああああああああ!」
こちらの声が聞こえていたのか、妹が今までで一番の悲鳴を上げて顔を覆う。
いや、気にするところそこ!?




