第6話 妹は連れてくる
「サキュバスパンチ!」
模擬戦闘用人形『多々叩かれたん』に向かってサキュバスさんが、その華奢な腕を振るうと……叩かれたんは木っ端微塵に爆発四散、粉塵と化し、そして風に吹かれて消えていった。
強いっていうか、やっぱり、あの、なんというか……人間じゃない!
事実人間じゃないのだけど、こうして目の前で怪物性を見せつけられると背筋に冷たい汗が流れる。
サキュバスパンチなんて可愛い名前で呼んでいいものじゃなさすぎる。
「まあ、強いなら妹としてはなんでもいいです」
「いいの!?」
「意思の通じる魔物は結構いますし、そもそも今回のループのコンセプトは魔王も仲間にするですから!」
「そういえばそうだったね……」
もう神々が倒しにくるので悪だろうと仲間につけなくてはならないというのが妹の意見であり、その為に私を仲間にすると決めたのだった。
「そんで悪の魔術師倒すんっしょ? いつやんの?」
「今です!」
「今ではないわよね!?」
「流石に冗談ですが、そうですね……三日後にしましょうか」
「それでも早い! えっ、最速ってそのレベルなの?」
一年くらいで普通のラスボス……普通のラスボスってなんだ……いや、まあ、最初のラスボス?を退治するのかと思っていたら、まさかの一週間程度で可能とは。
退治速度がインフレしている。
「いえ、流石にここまでの速度で倒しに行くのは妹も初です。普段は仲間集めと成長パートを両方こなす必要があるので、結構時間かかりますし、仲間を鍛えるパートも必要なので……」
「妹ちゃんマジ苦労してんね?」
「しかし! 今回は一発で最強の戦力を引けました! 妹も普段より集中して鍛えられたので、妹の計算ではあと三日くらいで大丈夫だと思います!」
「よく頑張っているわね、よしよし」
妹の頭を撫でると妹は「ぐえっへっへ」と汚い声をあげつつ表情を緩ませる。
元気が残っていると割と反抗期らしく嫌がることもあるのだけど、流石に一日修行漬けでは普通に喜ぶらしい。
「お姉さんの撫で撫でサキュバス並じゃん!」
「まあ、お姉様は胸も大きいですからぬわあああああああああ!?」
「関係ないでしょそれは」
調子に乗った妹の頭を撫で撫でから万力に切り替えつつ、その日はそんな感じでお開きとなった。
そして三日後……。
★
「じゃあ、悪の魔術師ベルンカステット退治開始しましょう!」
「いえーい! ぱちぱちー!」
「拙者も粉骨砕身、皆皆様方とともに頑張るでござる!」
「いや、ちょっと待ってくれる?」
三日後の放課後、学園の噴水そばのベンチに集まった私たちだけれど、一つおかしなことがあった。
「どうしたでござるかアンジェラ殿!」
「いや、貴女よ。えっ、誰?」
まさかのサキュバスさんに続いて二連発で誰?状態が発生してしまった。
特徴的な話し方を続ける彼女はポニーテールで鉢巻をして和服を着たサムライガールであり、何故か超やる気満々だった。
ありがたいんだけどね?
「それは妹が連れてきたツバキ丸ちゃんです」
「ツバキ丸ちゃん?」
「はい、パーティは四人くらいがバランスが良いのですが、ツバキ丸ちゃんはなんとおにぎりを一個あげるだけで仲間になってくれるという死ぬほどチョロい存在なので、人数合わせに連れてきました」
「すごい堂々と人数合わせって言うわね」
しかし、おにぎり一個で仲間になってくれるのはなるほど便利で、妹らしいチョイスだった。
ゲーム的にもすっごい便利に使われてそうな気がする……ネットでおにぎりとか呼ばれてそう。
「ただそんなに強くないです」
「それは残念ね」
「お二人とも容赦ないでござるな!?」
こうして知らぬ間に早い安いまあまあ強いという牛丼みたいな女の子が仲間になった。
主人公こと勇者的妹ハナ、ギャル系サキュバスのサキュバスさん、便利な侍ツバキ丸、そして悪役令嬢な私という謎なパーティが今ここに爆誕した!
……ちょっと謎すぎるような気もするけれど、妹の判断を信じるしかない。
「それでベルンカステットですが、実は学園の地下にいます」
「王道だとは思うのだけど、学園のセキュリティが心配になるわね」
「復活に向けて力を蓄えてるところなのですが、それでも超強いです。なので、ハメ殺そうと思います」
「すぐハメるわね貴女」
ハメ技大好きな妹ってなんかちょっと嫌だな……。
私のためだから文句は言えないけれど。
「正々堂々やらないのでござるか!?」
「正々堂々ハメます」
「ならば良いでござる!」
何も良くないと思うけれども、ツバキ丸はそこそこのアホの子らしく、何故か妹の適当な言葉に説得されていた。
「正々堂々なんて自分に都合よくやれってだけの話だし、無視上等っしょ! 鬼とかよく正々堂々とか言うけど、あいつら嘘つかないだけでど外道だし」
「結構リアリストねサキュバスさん」
サキュバスさんも別に多少卑怯でも気にならないらしい。
魔物はその辺の価値観が厳しいのかな……まあ、野生に通用する考え方でもないしね。
「それじゃあ出発です! まずこの噴水のオブジェになっている天使の像の右目を長押ししつつ、その矢を引っ張りましょう」
「その奇怪な行動はなんでござるか?」
「ベルンカステットのアジトに行くための暗号みたいなものです。さあ! 噴水に濡れながら頑張ってください! ツバキ丸ちゃん!」
「拙者でござるか!? い、いや、やるでござるけども!」
「やるんだ……いい子ねツバキ丸ちゃん」
ツバキ丸ちゃんはそれなりに小柄な体格をしているため、気がつけば私は頭を撫でてしまっていた。
こう……頭の位置がちょうど手を伸ばしたところにあるのよね。
「おりゃあ! ツバキ丸! さっさとしろです!」
「どんどん雑になって来てるでござる!?」
「燃えてんねぇ、嫉妬の炎」
★
幾らかの手順を噴水に行うと、水が干上がっていき、なんと中から階段が現れた。
驚きつつも私たちは下へ下へと降りていき、たどり着いたのは謎の迷宮。
……なんだけども。
「ルートは全部分かってるんで妹についてきてください。あと、お姉様がいるので敵も出ませんね。いやー、楽ですねぇ」
「拙者、結構覚悟してきたんでござるが……」
もう楽々攻略で逆にツバキ丸ちゃんなんかは落ち込んでいた。
おにぎり一個という極小の恩を命懸けで返しにきたのだとすれば、もうそれは武士とか通り越してただのヤバい人なのでは……?
「悪の魔術師はマジつえーだろうし、そこで頑張ろうツバキ丸ちゃん!」
「はい……えっと、誰でござったっけ?」
「サキュバスだよ!」
「サキュバス!?」
不思議な会話を聞きながら、迷路をスイスイと進んでいく。
罠などもあったらしいのだけど、全て妹が避けたり解除したりで、本当に苦難らしい苦難に出逢わない。
気がつくともう迷宮の最深部まで私たちはたどり着いていた。
早すぎる……。
「さて、あそこに見えるのがベルンカステットです」
そう言われて妹の指差す先を見てみるとそこには……小さな女の子が赤く巨大な試験管の中に浮かんでいた。
……あっ、力を蓄えてる最中だと子供なの!?
やりにくいよ!




