第5話 妹は勧誘を促す
5時間、狼を突き刺し続ける作業は、私をまるで鉱石を掘る炭鉱夫のような気分にさせてくれたけれど、地道にやるからこそ結果が出るというもので、きちんとフェンリューは退治され、目的の『七難ハック』……いわゆる経験値増大アイテムを私たちは入手した。
古今東西どんなゲームでも、経験値に影響するアイテムの入手は早ければ早いほど良い。
とはいえ、初日で手に入れるのは早すぎると思うけれど……。
そんな大変だったダンジョン探索からもう五日ほどの時間が経って、学園は入学式を終え、私は二年生としての新学期を迎えていた。
妹にとっては初めての魔法学園、一年生としての新たな門出なのだけど……妹はすでに学院でも指折りの変人として噂になっていた。
初日からギチギチにスケジュールを詰め込み、ひたすらに魔力と筋力を高める妹の姿はもう異様の一言だった。
しかもメキメキ成長していくので、教師陣も絶賛していて、我が学園始まって以来の大天才と評判だった。
存在がチートな主人公が本気を出すとこんなことになるんだな……。
さて、一方の私と言えば、妹のそばになるべくいようと誓ったばかりなのだけど、悲しいかな別行動をしていた。
今は学園の庭に設置されているガゼボにて、妹から手渡された紙束を眺めている。
そこには50人の名前と特徴が並んでいて、妹曰く『仲間リスト、10段階チョロさ評価値付き!』らしい。
つまり、妹は修行で忙しいので私に仲間を集めろという話なのだけど……これが難しい。
気に入った人でいいですよなんて簡単に妹は言うけれど、いざとなると気負ってしまって、なかなか決めきれないでいる。
まるで面接官になった気分だ。
もう本当に一方的にも程がある面接なのだけども。
半分ほど見てみたけれど、どれも同じに見えてきてしまうのも、面接とやや似ている。
もうチョロさ10の人から手当たり次第行くかな……。
これから協力してくれる人相手にチョロいとかいうの失礼に極みだけども。
妹よ、せめて難易度くらいに書いてくれないかな。
逆にチョロさ0な人もいるのかな?と突然私は思い当たった。
いたとして、それはどんな人なんだろう……まるで思い浮かばない。
少し興味が湧いて紙束から該当者を探してみると、なんと1人だけチョロさ0な人物が存在している。
「ペルシアちゃんか……」
一緒に記載された情報によると性格は温厚で引っ込み思案、戦闘力は10段階で……10!?
最大だなんて、もしかしてゲームの重要キャラかなにかかな。
間違いなく仲間に出来れば巨大なアドバンテージになるだろうけれど、チョロさ0というのが恐ろしすぎる。
本当に性格は温厚で引っ込み思案であってる?
怨攻でぶっ込み事案とかの書き間違いじゃないよね?
……でも、一度、この子から当たってみよう。
絶対成功させる!という強い気持ちだと心が疲れてしまうけど、どうせ失敗するだろうという気持ちで挑めば失敗もさほど怖くはない。
そんな打算的な考えで私はペルシアちゃんを仲間にスカウトすることに決めた。
問題はこの子がどこにいるかだけど。
紙にはしっかり生息地域と題されて、普段その人がよくいる場所も記載されていた。
なぜ野生動物みたいに……。
それによると、どうやらペルシアちゃんは学園の裏によくいるらしい。
写真などがあれば探すのも容易なのだけど、この紙は妹が記憶を頼りに書き留めたものなので、そういったものはついていない。
一応、容姿の特徴は書かれているので、これを頼りにやっていくしかないか……。
★
ボサボサでピンク色の子を探すためにやってきたのは鬱蒼とした森が広がる学園裏。
苔に覆われた倒木を跨ぎつつ、私は木漏れ日に目を細めながら周囲を見渡す。
……とてもじゃないけれど、人がいそうな場所には思えない。
しかし、魔法使いにはこう言う場所を好む人も多いので、気は抜けない。
でもピンク色なんてこの緑色の空間では大変目立ちそうだけどなぁ。
「そこのお姉さんちょい待ち!」
木々をかき分けピンク色の生命体を探していると、上から声がかかった。
陽気な声に釣られて顔を上げると、そこにはもうびっくりするくらい森には似合わないショッキングなピンク色の髪をしたツインテールの女の子がいて、黒い翼で空を滑空し、こちらに降りてくるところだった。
滅茶苦茶濃ゆい容姿してるなペルシアちゃん!
でも、ボサボサではないような?
「お姉さん、ウチから見てなんかすっげーオーラあるんだけど、なにもん?」
「アンジェラ・アスキューです。あの、一緒に探検してくれる仲間を探してまして」
「えっ? いやでもお姉さんのそのオーラだと別に魔物よって来なくない?」
「すごい! よく分かりますね?」
話し方はかなりの適当さを感じるけれど、その言動からは高い実力が窺えた。
私の魂って見る人が見ればそんなに分かりやすいものなの?
だとするとなんか匂いがキツいみたいで恥ずかしいのだけど……。
「分かるよー、ウチ、魔物だもん」
「あーなるほど、魔物さんだったんですねぇ。なら分かって当然……魔物?」
「いや、こんな髪の色で翼生えてるやつ魔物しかいなくね?」
た、確かにー!
ゲームの世界だし髪の色なんてなんでもありだと思ってたけど、流石にショッキングピンクはおかしかった!
というか翼で気付けよ私!
「ちなみにウチ、サキュバスね」
「サキュバスさんが、な、なぜ森に?」
なんとペルシアちゃんはサキュバスだったらしい。
サキュバスと森。
もっとも縁遠い場所のように思えて仕方ないけれど、何故そんな場所に生息しているのだろう。
「森の空気を感じにきたっていうか、ハイキング的な?」
「趣味でしたか……」
「ていうか、もっとタメ語でいいから」
「そう言われても……」
陽キャ感ほとばしるサキュバスに押されて、もうタジタジな私だけど、サキュバスはまだまだ私に興味津々らしく、なかなか解放してもらえない。
いや、今、どう言う状況?
なんで私、森でサキュバスに絡まれてるの?
しばし会話を続けると、どうやらサキュバスさんがかなりいい子であることが分かった。
まあ、妹がリストに入れているのだから、大悪人はなかなかいないだろうけれど。
「それで仲間探してんだよね? えっ、オモロそうじゃん。ウチでよければなるなる!」
「本当? 悪の魔術師とか倒す予定だけど、大丈夫?」
「あっ、全然全然! 全然大丈夫だよ! ウチそういうの倒すの得意だし!」
なんとサキュバスは悪の魔術師を倒すのが得意だそうだ。
どんな特技?
しかし、妹から見ても戦闘力10の存在を逃す手はない……!
色々とよく分からない子だけど、乗り気だし、いい子だし、可愛いし、大丈夫だよね?
でも、これがチョロさ0なのはおかしい気はする。
妹と相性が悪いとかなのかな?
★
「というわけで連れてきたわ。サキュバスさん」
「サキュバスだよ! よろー! エロいことは禁止なんでそのへんは勘弁ね!」
「はい? ……いや、あの、はい?」
日中忙しい妹だけど、放課後は絶対に会いに来るようにと厳命されているため、私はサキュバスさんを連れて会い来たのだけど……妹は何故かドン引きしていた。
「ちょっといいですかお姉様」
「なに?」
妹は私に顔を寄せると、サキュバスさんに聞こえないよう、小声で話を続ける。
「誰です?」
「いや、だからサキュバスさん」
「サキュバスさんってなんですか! リスト以外から仲間連れてきたんですか!?」
「えっ!? リストから選んだわよ? ほら、ここのペルシアちゃん」
私は妹から手渡された紙のペルシアの項目を指差すけれど、妹はそれを見て苦い顔をする。
「……おねえさま、チョロさ0のペルシアなら、そいつはゴリラですよ」
「ゴリラ!?」
私、ゴリラを勧誘しようとしてたの!?
そんなバナナ!?
「学園の裏に住み着いてるんです。ピンク色でボサボサな、温厚で引っ込み思案なゴリラです」
「貴女、ゴリラを仲間にしようとしてたの?」
「強さは本物なんですよ! しかし、さすがの妹も野生動物を手懐けるのは困難で……」
「可能性を追求するのは良いことだと思うけれど、言葉は通じる人を仲間にしましょう?」
そもそも学園の裏にゴリラが住んでいるってだけで驚きだけど、それを妹が仲間にしようとしていたとは、うちの妹ヤバすぎる。
いや、もしかすると今の場面で一番ヤバいのは私かもしれない。
見ず知らずのサキュバスを連れてきてしまった……。
「それで、お姉様、アレは誰ですか」
妹が圧のある声で私に問いかける。
私は消えるような声で返した。
「えっと、あの、その、さ、サキュバスさんです……」
ちらりとサキュバスさんの方を見ると、彼女は視線に気付いたらしく、両手でピースをしてくれている。
いい子だとは思うけど、思うんだけど……だ、誰なの?




